自衛隊違憲論者も専守防衛論者も、ともに「アベ9条改憲NO!」を
- 2018年 1月 13日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
A おや、いったいどうした? 新年早々、目が血走っているんじゃないのか。
B 今年は、9条改憲阻止決戦の年じゃないか。のんびりなどしておられるわけはなかろう。
A まあ、落ち着けよ。どうしてそんなに焦っているんだ。
B あのアベが、唐突に9条改憲案を口にしたのが、昨年(2017年)の5月3日。右翼の集会でのことだ。彼のスケジュールは、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている」というものじゃないか。そのためには、今年2018年が天下分け目の決戦の年になる。もうすぐ始まる今年の通常国会から、闘いは始まる。
A ああ、あの日本会議の「公開憲法フォーラム」という集会。櫻井よしこが講演をして、安倍晋三がビデオメッセージで9条改憲を口にしたというあれね。あんなところでの改憲決意やスケジュールの発表は異様だが、それにしても、天下分け目とは大仰じゃないか。
B 昨年10月の総選挙では「改憲派」議員が8割を超えたとされる。衆参両院に、改憲発議のための憲法審査会が設置されている。改憲手続き法もできている。自・公と維新が数を恃んで強行すれば、改憲発議ができる情勢になっているではないか。
A とはいえ、保守勢力が70年余にわたって、やろうとしてできなかった憲法改正。発議をして、国民投票で否定されれば、確実に安倍のクビは飛ぶ。今後何十年も憲法に手を付けることができなくなるだろう。しかも、小選挙区制のマジックで改憲派が議席の多数をとったが、国民世論は改憲に否定的だ。安倍一派が、性急にことを起こすとは考えにくいんじゃないか。
B そうでない。アベを取り巻く右翼の連中には、今こそ千載一遇のチャンスという読みがあると思う。あるいは、アベが政権の座に就いている今を措いて改憲のチャンスはない、との読み。多少の無理を承知で、改憲発議に突っ走る可能性は高い。
A そうは言っても、安倍が提案した「96条改憲」も、「緊急事態条項改憲」も、世論によってつぶされている。安倍のホンネの本命が9条改憲による軍事大国化にあることは周知の事実だが、常識的にそれは難しかろう。
B 問題は安倍の変化球だ。「戦争放棄をうたった9条1項と戦力不保持を定めた2項を堅持した上で、自衛隊の存在を明記する条文を加える」という改正案。これなら大した実害はないと国民をごまかす効果を否定できない。
A それはそうかも知れない。これまでの自民党憲法改正草案は、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」という憲法9条2項を全文ばっさり削って、国防軍を新設しようとするものだ。それと比較すれば、現行の9条には手を付けず、自衛隊を憲法に位置づけるだけという安倍の改憲案は、格段にマイルドに見える。
B 自民党憲法改正推進本部が昨年暮れの12月20日に発表した「憲法改正に関する論点取りまとめ」でも、安倍の「9条1・2項存置・自衛隊条項加憲案」と、石破らの「9条2項削除論」とが両論併記となっている。こういう手法で、安倍の加憲的9条改憲提案を、おとなしいものに見せている。
A それはそのとおりだが、むしろ安倍のホンネであるゴリゴリの軍事大国路線では世論を動かすことができないという、彼らの弱さのあらわれではないのかな。
B それが、いつもながらのキミの甘さだ。9条2項をそのまま置いたとしても、「集団的自衛権行使を容認された自衛隊」が憲法に書き加えられれば、9条2項は上書きされて死文化してしまう。自衛隊は、日の当たる場所に躍り出て、一人前の軍隊としての存在となる。編成・装備・人員・予算の制限はなくなる。自衛隊は実質的に軍隊となり、国防の危機を煽って攻撃的な兵器を要求し、近隣諸国との軍事緊張を高めることになる。
A それこそ、いつもながらのキミの早急な決め付けだ。自衛隊は、法律にはその存在が明記されている。それを憲法に書き込んだとたんに性格が変わってしまうことにはならないだろう。むしろ、自衛隊の存在をきちんと認めた上で、その膨張や暴走に歯止めを掛けることが大切ではないのか。その観点からは、自衛隊を憲法に書き込み、同時に海外派兵をしないこと、侵略的な兵器をもたないこと、シビリアンコントロールに服することなどを憲法にしっかりと書き加えるべきではなかろうか。
B 安倍内閣が集団的自衛権の行使を容認する戦争法を提案したとき、キミも「安倍内閣は憲法を守れ」と声をあげ、一緒に行動したではないか。改憲派に、宗旨を変えたのか?
A そうではない。ボクは、憲法を大切に思っている。だからこそ、安倍内閣が戦争法案を国会に提出したときには、立憲主義の危機だと思った。集団的自衛権の行使という名での戦争を行うこと、巻き込まれることは平和の危機だとも思った。だから、真剣に法案反対の運動に加わった。
B ところが、キミの理解だと自衛隊は憲法違反ではないということだ。やはり大甘の議論だと思うね。いま、自衛隊の膨張や、暴走に歯止めを掛けているのは、軍事力の保有を認めない9条の存在だ。自衛隊の根拠規定が憲法にないことだといってもよい。自衛隊が、「陸海空軍その他の戦力」に該当するほどの軍事的実力をもつことになれば、あるいは自衛権行使の範囲を逸脱した実力行使があれば、たちまち違憲となる。これが重要なことではないか。
A いや、自衛隊は日本を防衛する実力装置として、国民に深く信頼され、根を下ろしている。今さら、違憲の存在として放置してはおかれないものと思う。最大の問題は海外派兵や侵略戦争を絶対にさせないこと、そして自衛隊の際限のない拡大や防衛予算にどう歯止めを掛けるかということだろう。自衛のための自衛隊は今でも違憲ではないと思うし、憲法を改正して自衛隊を認めてもいいんじゃないのか。
B ボクは、前文と憲法9条が指し示す日本国憲法の平和主義は、武力による平和を否定する思想に基づくものと理解している。「平和を望むなら自国を防衛する武器を磨け」という思想の破綻という現実から9条が生まれた。「平和を望むなら武器を捨てよ」「我が国がまず武器を捨てるから、貴国も捨てよ」という思想が実定憲法となった。これを大切にしなければならない。
A それは理想論としては理解するが、現実の国際政治では通用しない。多くの国民が、そのような危険な実験をしてみる気にはならないだろう。私は、どうしても自衛のための最小限の実力は必要だと思うし、日本国憲法がその実力保持を禁じているとは思えない。
B 専守防衛に徹する最小限度の実力組織として自衛隊の存在は認めるというキミの立場は、1954年自衛隊法成立から、アベ倍が内閣法制局長官をすげ替えるまでの自民党政権の一貫した見解でもあった。しかし、専守防衛に徹するといいながら、自衛隊は次第に巨大化し、また米軍との一体化を強める中で、その性格を変えてきたでないか。
A 私は立憲主義を尊重する立場で、専守防衛に徹する自衛隊は合憲と考えている。だから、安倍内閣の戦争法には反対をつらいたし、その法律の廃止を求める立場だ。
戦前のような富国強兵策を支える軍隊をもつ必要はないが、自衛権行使のための再使用限度の実力部隊は必要と考えざるをえない。
B キミとボクとの間には、憲法の理解に相当の隔たりがあるけれど、アベ政権の戦争法反対運動には一緒に参加してきた。今度のアベの加憲的9条改憲には賛成なのか反対なのか?
A 正直なところ、すこしの迷いがある。立憲主義を尊重すべきだとするボクの目からは、憲法理念としての9条文言と、現在の自衛隊存在の現実との乖離があまりに大き過ぎる。現実に合わせて憲法を変えるか、理念に合わせて現実を変えるかを考えなくてはならない。両方ともに選択肢としてはあり得る。
しかし、ボクは当面9条改憲反対を貫きたいと考えている。その何よりの理由が、安倍晋三という人物を信用することができないからだ。安倍晋三を取り巻く人脈の胡散臭さに不安を感じずにはおられないからだ。
ボクは、当面これ以上自衛隊を大きくすることは不要だし、国防予算はもっと削ってよいと思っている。だから、安倍晋三のような、声高に戦後レジームを否定し、強い・美しい日本を取り戻すなどという政権が退場して、もっと落ちついた為政者の時代になれば、その時点で憲法改正の是非を考えたい。それまでは、キミたちと一緒に、安倍9条改憲に反対するつもりだ。
B 提案された憲法改正案には、是か非か、賛成か反対か、二つに一つの返答しかない。ということは、賛成派も反対派も、一つの思想や理念・立場でまとまったものであるはずはない。
アベ9条改憲反対の理由がたったひとつであるはずはなく、むしろ、多くの考え方の潮流の参加が必要だと思う。ボクは、憲法9条は一切の武力保持を禁止していると思うが、専守防衛派のキミたちと一体となったから戦争法反対の大きな運動ができたと思っている。
アベ9条改憲提案は、明らかに、これまでの護憲派を、「自衛隊違憲論者」と「自衛隊合憲論者」に分断しようという策となっている。アベのブレインは、露骨にそのことを述べてもいる。
A 私の立場は、「自衛隊合憲論」だが、それは専守防衛に徹した本当の意味の「自衛」組織だ。だから、米軍の要請あれば海外にも出よう、武器使用も認めよう、もっともっと軍事力を増強しよう、沖縄の米軍基地も強化しようという安倍政権とは考え方が根本からちがう。
B その点が確認できれば安心だ。平和を築くためには本当に武力が必要か、これからも議論を重ねよう。議論をしつつも、3000万署名の請願のとおり、「憲法9条を変えないでください」と一緒に言い続けよう。
A 武力が不必要として、本当に日本の領土や国民の安全を守ることができるのか、議論を重ねつつも、「憲法9条を変えないでください」と一緒に言い続ける、それはけっこうだ。
(2018年1月13日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.12より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=9749
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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