東洋的専制(オリエンタル・デスポティズム)はいまなお健在?
- 2018年 1月 13日
- 評論・紹介・意見
- 野上俊明
<予備知識として>
1920年代、ソ連、中国、日本などの政界や学会で、植民地化される前のアジア諸国の国家・社会体制をどう理解するのかをめぐり、封建制か、奴隷制か、原始共産制か等々、激しい論争がありました。素人の私が一知半解で口出しするのもなんですが、アバウトな理解として、東洋的専制とは、国家による大規模灌漑工事と水利の国家管理を通じて、人工灌漑農業に依存する村落共同体とその家族を直接支配したアジアに特有の専制体制でした。そこには個人的土地所有は存在せず、国家が最高の土地所有者として全人民の上に君臨していたのです。中国史において典型的ですが、アジア的専制としての歴代王朝は次々に交替すれども、民の運命はそれとはまったく無関係に何千年経っても無権利、没自由、貧困のままで捨て置かれたのです(アジア的停滞)。
しかもミャンマーにおいてはアジア的専制は戦前の過ぎ去った話ではありませんでした。独立後のネウイン社会主義においては、比喩的に言えば、国家が唯一の全体地主で、土地所有権をもたない全農民は国家に使役され搾取される小作人にすぎませんでした。しかもその事態はネウインの後継体制である軍政においても継続し、さらにはNLD政府においても完全には解決されておらず、農民はアジア的専制の影に依然苦しめられているのです。
<専制支配の支柱―高位高官の腐敗>
アジア的専制の特徴は、支配者はその時々入れ替わっても人民搾取の抑圧体制は不変のままだということです。現在の新しい支配者は、スーチー国家顧問がトップのNLD王朝、いや間違いました、NLD政府です。
今日の政治の風向きを示す出来事が、いまヤンゴンの巷間で話題になっています。NLDのスポークスマンであるウインテイン氏の息子が、超豪華な結婚式を挙げたという情報がSNSで飛び交っているそうです。スーチー氏のクロニー、まさにごひいき筋の政商であるゾーゾー氏(マックス・グループ総帥)が所有するホテルで、しかもゾ-ゾ-氏の費用丸抱えで人もうらやむ結婚式をやったというのですから、さすがの大人しいミャンマー人も黙っていられないのでしょう。我々にはまたしても既視感のある光景が甦ってきました。2006年、独裁者タンシュエの娘の結婚式では、花嫁が何億円もするダイヤモンドで身を飾っていたことがビデオで流れ、巷の噂になりました。今回の結婚式、出席者のかなりの多くがこの間まで獄中にあった人々ですが、栄枯盛衰は世の習い、豪華なレセプションを「プレゼント付きの国家式典のようなものだった」と感想をもらしています。当のウインテイン氏や今は政府高官のNLD幹部は、この程度は中産階級では珍しくないなどと、のたまわったそうです。高級軍人の息子たちは、父親の権力権威を利用して企業を設立し事業を起こし、たちまち財閥に成り上がるというアジア的光景を我々は目にしてきましたが、どうもウインテイン氏の息子もその類のようです。
スーチー氏はスピーチでミャンマーの伝統には派手な結婚式なかった、こんごどういうスタイルがいいか考えるべきだと、やんわり豪華結婚式を批判したようですが、いかにもいまの政治状況を反映して力のないものです。政商丸がかえの結婚式などやらせてはいけないし、やるような人間を政党のトップ・クラスにおいてはならないのです。スーチー氏は自分の業績として政府高官の汚職がないことを挙げていますが、この結婚式がずぶずぶの腐敗ではなくてなんというのでしょう。
ロヒンギャ65万人が生死の線上を彷徨っているときに、人のカネで豪華結婚式を挙げて恬として恥じない様は醜いというほかありません。私はスーチー氏の賛美者にこうした出来事をどう見ているのか、ぜひ解釈を聞かせてほしいと思います。
2018年1月12日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7266:180113〕
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