DHC・吉田嘉明のスラップ提訴は、「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」ものである ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第119弾
- 2018年 2月 2日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
もとより提訴は、国民に等しく認められた権利だ。これを、憲法32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と人権カタログのひとつとして挙示している。
法や裁判所がなければ、この世は実力だけがものを言う野蛮な社会となる。権力や社会的な強者の横暴に泣き寝入りすることなく、弱者が自分の権利救済の盾とも槍ともするものが法であり、その権利救済を実現する場として駆け込むところが裁判所である。
この本来の目的から逸脱した提訴は、訴権の濫用として違法となり、提訴自体が不法行為として損害賠償請求の責任を生じることになる。スラップとは、そのような問題なのだ。裁判制度の利用まで、カネの力次第として濫用を許してはならない。
今のところ、訴訟提起自体を違法とすることについての基準としては、1988(昭和63)年1月26日最高裁判決がリーディングケースとされている。同判決は、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限られるものと解するのが相当である。」と判示している。そりゃそうだ。通常、提訴は権利だ。提訴して敗訴したというだけでは、違法な提訴をしたことにはならない。しかし、それは通常、あるいは普通の場合。本件は、極めて特別であり特殊な場合なのだ。
この点について、前記最高裁判決はこうも言っている。訴訟提起が違法になる場合として、「…当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的に根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起した場合…」。DHC・吉田嘉明の、私に対するスラップ提訴は、「事実的、法律的に根拠を欠くもの」という客観要件を明らかに具備している。しかも、吉田嘉明は、「訴えが事実的、法律的に根拠を欠き敗訴必至なことを知っていた」。少なくも、「通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起した」のだ。なんのために、自分への批判の言論を封殺するためにだ。だから、とんでもない高額訴訟となっているのだ。
従って、DHC・吉田嘉明の私(澤藤)に対する提訴は、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる」ものとして、その提訴自体が違法といわねばならない。
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本日の法廷での手続は、DHC・吉田嘉明側が反訴答弁書を陳述し、これに対する反論に必要として、澤藤側から、準備書面(1)の求釈明書(後記)を陳述した。
結局はこの求釈明に対するDHC・吉田側の意見を待って、澤藤側から本格的反論をすることになり、
次回口頭弁論期日は、
2月16日(金)午後1時00分(415号法廷)となった。
なお、裁判長から原告に対して、再度の本訴取り下げ勧告があり、原告訴訟代理人から「次回までに手続をする」との発言があった。
その後、小規模ながら、報告集会兼弁護団会議が行われた。弁護団長から、関連別訴の判決内容について分かっている限りで詳細な報告があり、あらためて、DHC・吉田嘉明の提訴の不当性について、思いを新たにした。
意見交換では、本件スラップ訴訟の違法性について、客観面と主観面の両方から、明らかにしていくべきことが確認された。求釈明に対しては、誠実な回答はなされないだろうことを前提に、対策を講じようということになり、次回弁護団会議を設定した。
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平成29年(ワ)第30018号 債務不存在確認請求事件
平成29年(ワ)第38149号 同損害賠償請求反訴事件
反訴原告(本訴被告) 澤藤 統一郎
反訴被告(本訴原告) 吉田嘉明、株式会社ディーエイチシー
準備書面(1)
2018年(平成30年)2月1日
東京地方裁判所民事第1部合議係 御中
反訴原告(本訴被告)訴訟代理人
弁護士 55名
反訴被告らの答弁書に反論するにあたり、反訴被告らに対し、以下の点を明らかにするよう求める。
1 反訴原告は、反訴被告らの前件訴訟提起が違法であることを、最高裁昭和63年1月26日判決に基づき主張しているが(反訴状7頁)、同判決は、訴訟提起が違法になる場合として、「・・当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的に根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限られるものと解するのが相当である。」と判示している。
同判決は、その事案に即し、訴訟提起が違法(著しく相当性を欠く)となる場合の一例として、「提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的に根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえた場合」を挙げているが、もとより、違法提訴がこれに限定されるわけではなく、違法性の判断指標は、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる」か否かにあり、この指標に基づき、当該訴訟提起の違法性を、主観、客観の両面から検討し、時代に即した判例法の発展(言論、評論の自由と個人の名誉という対向する権利の困難な調整)が期待されている。
この点において、反訴被告らが、反訴答弁書において、ことさら同判決の例示部分のみを引用する論述は(反訴答弁書5頁)、軽挙な前件訴訟提起の一因を示している。
2 本件において反訴原告は、前件訴訟提起の違法性について、敗訴の客観的予見可能性とともに、反訴被告らの訴訟提起の意図、目的が、裁判による権利回復よりも、意に沿わない公共事項に関する公益目的の言論を封殺することにあったと考え、これを裏付ける事実の一つとして、反訴原告が知りえたものだけでも、反訴被告らが10件の類似の高額名誉毀損訴訟を一括提起し、多数の敗訴を受けているという事実を主張している。
3 これに対し、反訴被告らは、10件の訴訟提起の事実を認め、その一部につき和解調書(甲A17~18)と判決書(甲A19)を提出し、また、反訴被告吉田は、反訴被告会社のブログ(乙9の2)で、多数の訴訟提起に至った経緯について、「渡辺騒動の後、澤藤被告始め数十名の反日の徒より、小生および会社に対する事実無根の誹謗中傷をインターネットに書き散らかされました。当社の顧問弁護士等とともに、どのケースなら確実に勝訴の見込みがあるかを慎重に検討した上で、特に悪辣な10件ほどを選んで提訴したものです。やみくもに誰も彼もと提訴したわけではありません。」と述べている。
4 そこで、反訴被告らに対し、以下の各点を明らかにするよう求める。
(1)反訴被告吉田が週刊新潮に告白した事実に関し、反訴被告らを批判(事実無根の誹謗、中傷)する記事やブログは合計何件あったのか。
(2)批判する記事やブログはすべて「反日の徒」なる当事者からのものであったのか。「反日の徒」とはいかなる概念か。
(3)反訴被告吉田が反日と評する当事者以外の者からも、反訴被告らを批判する記事やブログは存在したか否か、存在した場合はその合計件数。
(4)提訴基準とした「特に悪辣なもの」とは、具体的にどのようなものか。「悪辣」の要素に、「反日」なるものが含まれているのか。
(5)「確実に勝訴の見込みがある」ことの慎重な判断には、どの程度の時間と労力を費やし、どのような判断基準を採用したのか。その際、相手方との事前交渉を考慮したことはなかったのか。事前交渉をしたものがあるとすれば、その件数と内容。
(6)必ず勝てるとの判断は、検討に加わった顧問弁護士を含めた全員一致の結論か、それとも、顧問弁護士らの意見を踏まえた上での反訴被告吉田の判断か。
(7)提訴件数は、反訴原告が知り得た10件のみか。提訴した事件の内容とその結末(提訴した全事件の訴状と、結末が分かる判決書もしくは和解調書を提出されたい)。
(8)提訴事件の各損害賠償額と全事件の請求合計額、金額算定の根拠。
以上
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.2.1より許可を得て転載
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