お金は足りている。足りないのは愛と連帯(経済)
- 2018年 2月 8日
- 評論・紹介・意見
- 柳原敏夫
311事故当時、関西にいた東京電力の清水正孝社長は自衛隊機で東京本社に戻ろうとして、搭乗を拒否されました。その自衛隊機に、311直後の3月18日に乗り込み福島入りして、
《国の基準が20ミリシーベルトという事が出された以上は、 我々日本国民は日本国政府の指示に従う必要がある。
日本という国が崩壊しないよう導きたい。チェルノブイリ事故後、ウクライナでは健康影響を巡る訴訟が多発し、補償費用が国家予算を圧迫した。そうなった時の最終的な被害者は国民だ。》
と発言したのは長崎大学の山下俊一教授です。
この発言に代表されるように、311直後から、財政負担が大変だという理由でチェルノブイリ法の制定を批判する声があがっていました。
しかし、本当に日本という国はお金が足りないのでしょうか。
なぜなら、日本政府は、他方で、311以後、
1、2012年の欧州債務危機に際しては、真っ先にIMFに600億ドル(約5兆円)の拠出を表明しました(4月17日、安住財務大臣)。よその国の問題解決のためにそれほどお金を出す用意があるのだから、自分の国で、放射能汚染の中に住む子どもたちの危機に際して、子どもたちの避難のために出すお金がないなんて言えません。また、山下氏は《日本という国が崩壊しないよう導きたい。》と言うのなら、安住財務相のこの発言に対してこそ真っ先に異議申立すべきです。しかし、彼はそんな異議申立はしていません。
2、2013年度の復興予算7兆5089億円のうち、35.3%の2兆6523億円が執行されなかったと復興庁が発表しました(2014年7月31日日経新聞)。なかでも、福島原発事故からの復興・再生予算は53%が使われませんでした。
3、誰ひとり住まない無人島(竹島・尖閣諸島)の救済には熱心に取り組むけれど、原発事故に何の責任もない、正真正銘の被害者である子ども達がたくさん住む福島については子どもたちを救おうともしなかった。いったい国を守るって、何なのでしょうか。
つまり、311直後に誰かが言った通り、日本政府も、
《お金は足りている。足りないのは愛》なのです。
しかも、その「足りない愛」は、ただの愛情ではなく、人々が被害から自立できるような《連帯の愛》です。
なぜなら、避難の権利の実現は、お金の給付だけで解決するような単純な取組みではないからです。この救済のプロジェクトは、単に箱物を作るといったハードの問題ではなく、汚染地から避難する人々の、避難先での新しい人間関係、新しい生活、新しい仕事、新しい雇用を作り出していく、そのためには、避難先の地域創生の取組みとセットとなって初めて、成し遂げることができる、壮大な再生の公共事業だからです。そのためには、これまでの行政主導型の公共事業では実現不可能であり、そこに様々な形で住民、市民が協力、支援、応援をするという、新しいスタイルの市民主導型の公共事業が求められます。
つまり、原発事故という国難に対し、本当の意味で文字通り、オールジャパンで市民が参加して、避難者と一緒になって避難の権利の実現プロジェクトを遂行していく必要があります。
これが「 「オールジャパン」「公共事業」の再定義です。
これは決して夢物語ではありません。日本でも世界でも既に実例が存在するからです。
◎日本の実例
茨城県霞ヶ浦の再生で知られる「アサザプロジェクト」が、 市民主導型の公共事業の実例です。
アサザプロジェクトの全体像
また、地域再生では、市民参加型の公共事業として成功を収めた、人口3万の山形県長井市の地域資源循環型システム「レインボープラン」。
◎世界の実例
世界では、国からも見放され、失業、貧困の経済的危機に直面した市民たちがそこから抜け出すため、お互いに助け合い、支え合うという相互扶助の精神で、協同労働=協同経営の新しい働き方を自ら取り組んで獲得し、 経済的危機を克服した事例がいくつもあります。
その代表的なものが、 70年前、スペイン・バスク地方の寒村モンドラゴンで、28歳の神父アリスメンディアリエタたちが始めた「モンドラゴンの協同組合」。彼は、スペイン内戦で荒廃した7千人の村を、協同組合創設により自主的に経済再建を成し遂げました。以下は、韓国の映像作家のドキュメンタリー(「モンドラゴンの奇跡」予告編)のモンドラゴンの紹介文です。
《モンドラゴンの人たちは言う--モンドラゴンはユートピアではないし、自分たちも天使ではないと‥‥ただ一緒に生き残る賢明な道を探しただけだと。
世界金融危機が訪れた2008年、むしろ14,938人の新規雇用を創出して‥‥奇跡を起こしたスペイン9位の企業》(映画「モンドラゴンの奇跡」)
神父アリスメンディアリエタ(ウィキペディアより)
ブラジルのポルトアレグレの連帯経済。以下は、現地を取材した日本人研究者のレポートです。
「ポルトアレグレがつくる新しい世界参加型民主主義と連帯経済の源流」(小池洋一) 参加型予算システムの中で最初に行われる地域住民による集会
カナダ・ケベック州の社会的経済。
韓国の青年連帯銀行(トダクトダク協同組合。単なるお金の支援ではなく、お金をキーワードにして新しい仕事と仲間を作り出していった)。以下は、2015年に来日し、日韓の貧困問題を話し合う集会での紹介文(→集会のチラシ)。
トダクトダク協同組合(青年連帯銀行)は2013年2月23日、「反貧困たすけあいネットワーク」をモデルにして、韓国で誕生。
“トダクトダク”とは、日本語に訳すと“トントン”。若者たちが、お互いを励まし合いながら背中をトントンとたたく姿をイメージしてつけられました。
「若者のためのオルタナティブなセーフティネット」
夢多き若者たちの連帯銀行「トダクトダク協同組合」は、若者が自らつくってゆく金融生活協同組合であり、若者のためのオルタナティブなセーフティネットです。‥‥続きはこちら
311直後に自衛隊機で福島入りした人がこう言いました--ピンチはチャンス。どんなひどい人間でも、いい言葉をひとつくらいは残すという見本ですが、いま、この言葉を単なる美辞麗句で終わらせるのではなく、本当に活かすために、実現可能なビジョンとして掴む必要があります。
そのとき、既に日本と世界で若造たちの手で挑戦され、実現してきた、これらの実例をヒントにすれば、「ピンチをチャンス」に転換し、実現可能なビジョンとして掴めると思うのです。
ここがロードスだ、ここで跳べ!
初出:「柳原敏夫のブログ・もう一つの復興は可能だ」2018.02.01より許可を得て転載
http://anotherreconstruction.blogspot.jp/2018/02/blog-post_1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7337:180208〕
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