子どもたちが「香害」で苦しんでいます(下) シリーズ「香害」第6回
- 2018年 3月 16日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治香害
前回、「香害」に苦しむ二人の小学生を紹介しました。実はこの国の子どもは、生まれた直後から香りつき商品を使用されているのです。そして深刻な被害者は高校生にも、教師にもいます。
◆生後2日から香りつき沐浴剤
いま多くの赤ちゃんが、生後2日目くらいに始める沐浴(乳児が感染症にかからないように配慮した水浴)で「香りつきの沐浴剤やボディソープ」を使われています。「赤ちゃんの気持ちをリラックスさせる、ほのかなオレンジの香り」などと宣伝する商品が多数、市販されているからです。
哺乳瓶洗いも、かつては一般的だった煮沸消毒が減り、いまは洗剤(除菌剤)を使った薬剤除菌が主流になっています。赤ちゃん用衣類の洗剤・柔軟剤がたくさん売り出されており、中には「ひだまりフラワーの香り」(どんな香りなのでしょう?)をうたう商品もあります。
◆柔軟剤のニオイがきつい幼稚園も
子どもが3歳くらいから通う幼稚園や保育園にも、ニオイの強いところが少なくありません。千葉県のある市に住む2児の母・Cさん(30歳代)は、その香害を実感した一人です。
Cさんは独身時代から柔軟剤を愛用し、桃の香りのハンドクリームなどもよく買っていました。25歳ごろから、雨の日などに肩こりや頭痛がするようになり、妊娠中は悪阻がひどかった。
症状はだんだん悪化し、昨年の夏ごろにはとても疲れやすくなり、さらに柔軟剤を使うと鼻が痛くなっていました。
そして11月、長女(4歳)の幼稚園の保育参観に参加したところ、隣のお母さんの強い柔軟剤臭で激しい頭痛に襲われました。頭痛と体のだるさが4日経っても治らないため、アレルギー科クリニックを受診、化学物質過敏症(MCS)と診断されました
Cさんはその後、合成洗剤などをすべて処分し回復に努めていますが、気になるのは長女のことです。長女が帰宅すると、髪の毛にも衣服にも体操着にも柔軟剤などのニオイがべったりついており、健康に悪影響はないか、心配でなりません。
◆中高校では制汗スプレーで被害
中学、高校と学年が進むと、消臭除菌スプレーや制汗スプレーを使う生徒が増えます。札幌市の私立高2年のDさん(女性、17歳)は、その被害者の一人です。
Dさんは中学入学のころから、香水・洗剤・タバコ・排ガスなどが苦手になりました。なんとか通学して卒業。私立高に進み、周囲で使用される制汗スプレーにさらされてから、頭痛・吐き気におそわれるようになり、次第に全身倦怠感・めまい・発熱・関節痛・食欲不振が加わって、通学が困難になりました。
事情を話すと、自分のクラスでは協力が得られましたが、他のクラスでは得られませんでした。体育会系の部活動が盛んで、汗臭さを消すために制汗スプレーを使う生徒が多いのです。
Dさんは防塵マスクを着けて通学していましたが、校舎の新築・学校祭での農薬散布などもあって症状はさらに悪化し、いまはほぼ休学の状態。大学進学をめざし、環境のよいところはないか、探していますが。
◆教師も被害者に
校内の香害は、教師も襲います。
埼玉県のある市に住む女性の臨時教員・Eさん(40歳代)は3年前、あるマンションに引っ越したとたんにシックハウス症候群(SHS)と思われる体調不良になりました。転居すると、ややおさまったので勤めを続けてきましたが、一昨年6月に勤務し始めた都立の特別支援学校で、強い柔軟剤臭のする生徒たちの指導が困難になりました。
1クラス5~6人ですが、生徒の着替えやトイレ介助などで体を密着することが多い。校舎外での歩行訓練では一斉に虫よけスプレーをかけられますが、これが耐えられません。勤務1か月後に右股関節が激痛で2日間歩けなくなったこともありました。
SHSからMCSに悪化した可能性があると管理職に訴え、生徒たちと接触しない仕事に変えてもらいましたが、間もなく教員の柔軟剤や整髪剤にも反応するようになり、更衣室にも職員室にもいられなくなりました。
昨年2月に東京の専門クリニックでMCSの診断を受けたころには、食べたり歩いたりする力さえなくなり、任期を2週間残して退職しました。
いまは回復に努める日々。小中高校と特別支援学校の教員免許を持っているので、臨時教員を務めてほしいとの申し出は絶えません。しかし、香害のある職場では勤務できないと断り続けています。
◆校内は香りつき製品を原則禁止に
Dさんを診察したのは、札幌市の開業医・渡辺一彦医師(渡辺一彦小児科医院院長)だ。1000人を超すMCS患者を診察してきた渡辺医師は、学校が香害対策に消極的な背景をこう説明し、早急な対策が必要だと訴えています――。
文部科学省の「学校環境衛生基準」が、ホルムアルデヒドなど6種類の揮発性有機化合物(VOC)を基準値以下にするよう定めているため、教育現場では、6種類のVOCが基準値以下なら、SHSは発生しないという誤解がいまだにまかり通っている(注1)。
この結果、近年急増している柔軟剤・化粧品や消臭・制汗スプレーなど、香害による健康被害が軽視される。しかも、香り商品を使うかどうかは個人の好みの問題で、口出しできないという考えだから、MCSなどになった児童・生徒への配慮を指導できない。
しかし、教育現場の香害はもはや放置できない状況だ。香害はタバコでいえば「受動喫煙」に当たるが、受動喫煙防止対策として厚労省は「学校は原則、敷地内禁煙」にする方針だ。同様の対策を香り製品についても早急に取るべきではないか。
注1 学校が原因のSHSは「シックスクール症候群」と呼ばれることもある。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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