(原発事故関連)3.26藤田祐幸 講演『始まりの始まり』を見る
- 2011年 4月 4日
- 時代をみる
- 原発事故藤田祐幸近藤邦明
福島第一原発以後、重要な講演が日本各地で開催されています。既にこのホームページで紹介した槌田さんの講演の様子はなぜかアクセス不能になっていますが、京大原子炉研の小出裕章さん、そして今回紹介する物理学者の藤田祐幸さんの講演はネット上でまだ見られるうちに、是非ご覧ください。
■小出裕章『隠される原子力』
■藤田祐幸『始まりの始まり』
■藤田祐幸『慙愧の思いで“語り直す福島原発事故』
今回は、藤田さんの講演の中で重要なポイントをいくつか紹介します。
まず、福島第一原発の放出した放射性物質による周辺地域の土壌汚染に関する情報です。
写真は、動画から切り出したものなので、多少見にくいですが、ご了承ください。
3月23日に文部科学省が公表した福島県飯館村における土壌に含まれるセシウム137の計測値は163,000Bq/kgとなっています。これを元に京大原子炉実験所の今中哲二さんが計算したところ、1㎡当たりに換算すると326万Bq/㎡に相当するそうです。この値は、チェルノブイリ原発事故の強制移住レベルである148万Bq/㎡の2倍以上の値です。
政府は未だに避難地域を20km圏内に定め、それ以外を自主避難という曖昧な指示としています。これはあまりにも人命を軽視した、考えようによっては旧ソ連以上に情報管制した非民主的な対応ではないでしょうか?繰り返しますが、危機管理とは考え得る最悪のケースに対して対処することです。未だ原子力発電所の事故の収束は見えていないのですから、状況は少なくとも現状より悪化することを前提に避難計画を立案すべきです。まして、現状の測定値で既にチェルノブイリ原発事故の強制移住レベルを超えている状況であるにもかかわらず、40km圏の飯館村には何の指示も出されていないというのはあまりにも不合理だと考えます。
この図は、SPEEDIというソフトウェアでヨウ素131の拡散状況をシミュレートした結果です。赤で印をつけたのが飯館村です。この図から推定すると、飯館村を含み、放射性物質による汚染地域は主に南北方向にかなりの範囲で広がっており、20kmの避難地域というものはほとんど意味を成していないと考えられます。
こうした推定結果があるにもかかわらず、『急性症状が現れるような放射線レベルではないから大丈夫』と繰り返し、何の対応もしない政府の対応は人命を軽視したものだと考えます。
今回の福島第一原発事故が太平洋側であったことは、不幸中の幸いでした。日本は偏西風帯にあり、しかも東には広大な太平洋が広がっているために東側に隣接した地域に人口密集地帯がありません。そのために放出された放射能の多くは東の海上に流され陸地の汚染は事故スケールに対して軽微にすんでいます。
上図は放射性物質ヨウ素131の大気中への拡散の様子を時間追跡したシミュレーションの一場面です。仮に日本海側の原発、例えば若狭湾沿岸であるとか柏崎の原発が事故を起こした場合には東海~関東を含む東日本全体の土地が全て汚染されることになるのです。
上の図は、想定されている日本周辺のプレート境界で起こる巨大地震の今後30年間の発生確率を示したものです(緑色の丸印は原子力発電所を示す。)。今回の東北地方太平洋沖地震で、既に宮城県沖(99%)が現実となりました。その結果、北米プレートの歪が解放された結果、相対的にフィリピンプレートとユーラシアプレートとの不整合が増大する可能性が考えられます。その意味で東海(87%)・東南海(60%)地震の危険性が高まることが懸念されます。特に震源域に立地する浜岡原発は非常に危険性が高いと考えるべきでしょう。
今回の福島第一原発の特殊性は、『同時多発事故』であるということです。スリーマイル島原発、チェルノブイリ原発事故のいずれもいくつかある原子炉の内の1基だけが事故を起こしています。ところが今回の事故では福島第一原発の1~4号機までが一気に事故を起こしました。これは今回の事故の原因が巨大地震という自然災害であり、その結果福島第一原発の原子炉全てに障害が発生したからです。
日本の原子力発電所は、一箇所に多くの原子炉を持っています。更に、幸い事故を起こしませんでしたが今回の地震対象地域の中にも女川・福島第一・福島第二・東海と多くの原子力発電所が立地しています。他にも若狭湾沿岸には高浜・美浜・大飯・敦賀原子力発電所、日本原研の「もんじゅ」があり、すぐそばには能登半島の志賀原子力発電所があります。複数の原子力発電所が巨大地震によって同時に事故を起こす可能性も決してあり得ないことはないのです。福島第一原発一箇所だけでも対応に苦慮していることを考えれば、同時に複数の事故が起これば対応しきれない事態になることが予想されます。
福島第一原発事故による汚染は、程度に差はありますが既に東日本一円に広がってしまいました。つまり、関東~東北一円に住む人々は、個別に見れば生存中に明確な身体症状が出るかどうかは分かりませんが、多かれ少なかれ既に放射線に被曝しているのは事実なのです。今後、日本における放射線被曝による晩発的な影響が何らかの形で現れることは確率的には確実なのです。私たちは福島第一原発事故を境に否応なく人工放射能による汚染と共存していかなければならなくなったのです。これを前提に、何をなすべきか、藤田さんは次のことを提案しています。
実に悲しいことですが、もう放射性物質の汚染から逃げることは出来ないのですから、これと付き合い、影響を最小限に食い止めることが重要です。
それと同時に重要なことは、二度と原子力発電所事故を起こしてはならないということです。日本において巨大地震を含む自然災害をなくすことは出来ません。事故をなくすためには原子力発電から脱却する以外に選択肢はないのです。
私たち人間に必要なのは・・・、
『環境問題』を考える http://env01.cool.ne.jp/index02.htm より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1307:110404〕
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