韓国のローソクデモがわが国に与えた影響
- 2018年 4月 21日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘韓国
韓国通信NO553
2012年12月に行われた選挙で52%を獲得して大統領になった朴槿恵は任期を一年を残し、国民から弾劾され、逮捕された。政権末期の支持率はたったの4%。女性大統領としてもてはやされた一時期もあったが、末路はあまりにも惨めだった。選んだ側にも責任があるのではないかと冷やかしたくもなるが、市民が下したのは不正は絶対に認めないという冷酷なまでの厳しい判断だった。
「お友だち」の便宜をはかり、法を曲げた点では安倍首相も朴槿恵もそっくりだが、4%の支持率と安倍首相の最新の支持率30%台では雲泥の差である。
昨年の総選挙で「圧勝」した自民党は有権者の25%の得票で284議席を占めた。上げ底第一党の総裁が首相になるという仕組みに首をかしげたくなるが、ここに至ってなお30%の支持率の背景には日韓両国の政治(倫理)に対する考え方の違いがあるように思える。
平和主義、基本的人権を謳った日本国憲法を否定する潮流。私たちはこれまで一体何を学んで来たのだろうか。明治維新から150年間の日本人の生き方、自分自身の生き方まで問われるようで空しくなる。
<救いが無いわけではない>
最近、国会周辺を始めとする各地で「異議申し立て」の行動が広がりを見せている。これまでにない新しい大衆の政治参加だ。原発事故以来、毎週金曜日に官邸前で繰り広げられてきた抗議デモが発端となったのは間違いない。
自然発生的、自発的な個人の活動のせいか「烏合の衆」と疑問視されたこともあったが、今では既存の団体や政党も無視できないほど運動の中心に成長した。怒りを声に出す人たちが着実に増え続けている。参加者に悲壮感はなく無理をしていないのもいい。「安倍的」な傲慢な政治とそれを支持する30%を打ち破る可能性が生まれつつある。選挙で世の中を変えることも可能だが、選挙だけでは変わらない限界を越えようとする新たな動きだ。
<日本と韓国の違い>
韓国のローソクデモがわが国に与えた影響は少なくない。集会では「韓国のローソクデモのように闘おう」という声がたびたび聞かれる。怒りをもって集まる人たちの心には忘れ難い事件として今でも生き続けている。
韓国のみならず日本の一部で文在寅新政権を「容共」「社会主義」政権と非難する主張がある。「大企業優先から人間優先社会」「貧富の格差是正」「何よりも平和」を掲げればそういう批判が出るのは当然だ。文在寅大統領が本当に社会主義者だという話は聞いたことがない。「原発をなくしたら経済競争に負ける」「最低賃金引き上げは中小零細企業に打撃だ」「北朝鮮の会話路線に騙されるな」、より民主的な憲法改正提案には「人気取り政策」などとい批判が続いている。公然と噂されていた李明博元大統領の露骨な金権ぶりと不法選挙は朴槿恵政権下では覆い隠されていたが、新政権の下で明らかになり逮捕された。「政治的報復」という非難もあるが「正常化」されたに過ぎない。
2007年に起きた巨大スーパーマーケットの大量解雇事件(映画『明日へ』で紹介され、感動を呼んだ。2014 年作品)は全面解決。KTX女性乗務員解雇事件も解決の見通しが立つなど多くの労働弾圧、政治弾圧事件で朗報が続く。ローソクの力が過去の歪みを正しているのがうかがえる。旧勢力にとって文政権は「恐怖政治」なのだろう。
【スーパー店舗内で籠城を続けたパート社員たちが機動隊に包囲され、「カート」を押し出して店外に飛び出す感動的な映画最終場面】
「国家機密法」「安保法制(戦争法)」「共謀罪」など、憲法を無視した政権が、国有財産の不当払い下げ、脱法的な獣医学部の新設、さらに公文書の「改ざん」、「隠蔽」などで反国民的な性格を露わにした。麻生財務相、安倍首相の退陣ぐらいで済ましていいのか。朴槿恵には懲役24年の判決が下った。
<違いのルートをたどる新たな旅へ>
去年から韓国社会と日本社会に起きたさまざまな現象を見ながら考えてきた。この違いはどこから来るのか。韓国の風土と歴史に育まれた思考と行動。日本人として学ぶことが多いはずだ。もっと掘り下げて理解したいという思いが日増しに強まっている。
一昨年、大邱(テグ)を振り出しに全羅北道・南道を旅して「全琫準(チョンボンジュン)を追いかけて」という紀行文を韓国通信に連載した(NO499~505)ことがある。日清戦争前後、朝鮮半島全土で繰り広げられた東学農民戦争の足跡を訪ねた。
その後、ローソクデモに南部の農民たちが大挙してトラクターに乗りソウルの集会に「東学農民・全琫準」の旗を掲げて参加したことを知った。平等を求める東学の革命精神が今でも脈々と韓国社会に生きていることを知った。土着の思想や風俗、宗教、李朝時代の儒教思想についても知りたい。日本植民地時代の反日独立運動、済州島4.3事件、光州事件、民主化運動から今日のローソク革命に至る韓国人の歴史をあらためて学ぶつもりだ。私の韓国とのかかわりも新しい段階を迎えようとしている。全羅道の山と田園を訪ね歩く旅もしたい。旅先であいた口が塞がらないほど無残な日本について考えてみたい。
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