4月21日の渡部富哉講演会=現代史研(「解明されたゾルゲ事件の端緒-日本共産党元顧問真栄田(松本)三益の疑惑を追って-」)に参加
- 2018年 4月 24日
- 評論・紹介・意見
- 合澤清
今回の講演会は「朝日新聞」で報道されたこともあり、260人収容の部屋はほぼ満杯状態。主催側としては全員入りきれるかどうかと「うれしい」心配をしましたが、どうやら無事全員入ることができ、また4時間の長丁場を乗り切ることができました。
講師の渡部富哉さんは、1993年に五月書房から『偽りの烙印』という本を出版し、それまで長年にわたり伊藤律は「ゾルゲを売ったユダ」であり、裏切り者であるという誤ったレッテル(こういう間違った考えは、日本共産党も松本清張も、またゾルゲ事件で死刑になった尾崎秀実の弟の尾崎秀樹すらも払拭しえなかった)に対して真正面から「ノー」を突きつけ、確実な証拠をもって伊藤律は潔白であることを証明してみせた人です。
渡部さんは今、89歳ですが声の大きさと旺盛な探究心と情熱は今なおいささかの衰えも見せていません。
しかも、大学の研究室ではなく、在野の研究者として自費と多くの時間をかけて、大量の資料の収集と解読、関係者への直接面談(聞き取り)、現地調査などを重ねて、どこからでも反論は許さないという綿密な研究成果を引っ提げて今回の講演会に臨んでいます。
今回の報告は「日本共産党(元)顧問真栄田(松本)三益 は当局のスパイであった」という誠にショッキングな話題が焦点になっていました。
報告の内容は、渡部さんが前もって書かれて当日頒布(定価1500円)した小冊子に詳しいのでここでは割愛します。
渡部さんの話では、今回の報告は、故石堂清倫、中野重治より委託された課題の約束を果たすという意味をも持つということです。ただし、「石堂さんから委託された松本三益スパイ説はゾルゲ事件と九州2・11事件に関する三益のスパイに関するもので今回は時間がなく西田信春の虐殺事件に絡む松本三益スパイ説は次回に回した」とのことです。
報告は綿密な調査をもとに行われるため今回一回きりでは収まりきれないというのが従来からの渡部さんのご意見ですので、出来れば近々にもう一度続きをやりたいと思っています。彼の「ゾルゲ事件研究の集大成」ということで、ご本人の気合の入れ方も並々ならぬものがあります。
渡部さんの「権力(特高)が発表した資料をうのみにするな。自分たちの都合のいいように捏造されている個所がいくつもある」という言葉が忘れられません。みすず書房の『現代史資料』は昭和史の研究に大いに役立つ大変有益なものですが、そこに収録されているある種の文書などもこの観点から再検討する必要があるように私には思われました。
今回のこの講演に際しては、「日本共産党にも講演録を送り内部の自浄努力を要請し、当日の案内も送った」ということを付け加えておきます。
一言だけ注文を出させていただきます。報告があまりに詳細過ぎて、これでは「オタク」の話題になりかねません。玄人受けはするでしょうが、若者や素人には「少々冗漫」に思えるかもしれませんので、その点はご考慮頂きたいと思います。
合間に加藤哲郎先生のまとめや篠田正浩監督(映画「スパイ・ゾルゲ」の監督)の話などを入れた方が聴衆へのサービスになるのではないかと思いました。
まだ場所も日にちも未定ですが、次回の講演会は5月中旬を予定しています。(決り次第、ちきゅう座に掲載します)
参考文献:『偽りの烙印』渡部富哉著(五月書房1993年)
『解明されたゾルゲ事件の端緒-日本共産党元顧問真栄田(松本)三益の疑惑を追って-』渡部富哉著(社会運動資料センター)1500円
連絡先:由井格/201-0002狛江市東野川3‐17‐1 電話090-7181-3291
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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