沖縄県知事の「辺野古・埋立の承認撤回」の具体化に期待
- 2018年 5月 8日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
小凡こと小村滋君から、メール添付の【アジぶら通信 第42号】をいただいた。今号はA4・5頁。文字通りのミニコミ紙だが、さすがに素人離れした体裁と内容。自分で撮った現場の写真もなかなかのものだ。
「アジぶら」という紙名は、学生の作る「アジビラ」みたいなものという謙遜でもあろうが、欧米ではなく「アジア」を見据えてものを考えようという主張。そしてアジアのあちこちを「ぶらぶら」見聞しながら型にはまらない記事を発信しようというコンセプトとお見受けしている。
今号のメインタイトルは、「辺野古」座り込みパワー 4・23~28(小凡・記)」である。ご自身の座り込み体験記。
連続6日500人集中行動「辺野古ゲート前連続6日間500人集中行動」の呼びかけに応じて4月24日、沖縄へ行った。那覇空港に着いて早速、沖縄2紙を買った。集中行動は23日が初日だったから、それを報じる24日紙面は、ともに一面に大きな写真入りだった。朝日新聞(大阪)も23日夕刊は1面に写真入りだった。
見よ!民衆の底力
民衆の底力を見せるのが狙いだ。
辺野古に着いたのは午後2時頃だった。これまで辺野古ゲートには何回か来ているが、座り込みは少人数で静かな抗議だった。今回は違った。リーダーのスピーカーは「午前中で670人。2人が逮捕された」と言った。私のように午後に来る者、午前中で帰る人、延べにしたら700 人は越えるだろう。
森友問題を最初に告発した木村・豊中市議が呼びかけ人として挨拶し大きな拍手を浴びた。東京から来た女性3人のバンドも大きな拍手を浴びた。福島にも通っているという。
午後3時過ぎ、「道路を占拠するのは道交法違反です」などと警察のスピーカー。引っこ抜き規制が始まるようだ。
座り込みの両側を機動隊が囲む。座り込みのお尻に着いた。まだ先だろうと思っていたら、私が引き抜かれた。片腕ずつ2人、足を独り。70㌔を腕で支えるのは結構しんどい。装甲車の列まで来たところで降ろされた。装甲車とフェンスの間に押し込められて息苦しい空間だった。気がつくとトラックの巨大な列が出来ていた。昨23日は座り込みが終わった4時過ぎてトラックがゲートへ入ったという。この日は午後4時半頃からトラックがゲートへ入り始めた。リーダーの指示に従って少し離れたテント下で集会だった。
その後、逮捕された2人を励ますために名護署に集まった。雨が降り出していた。シュプレヒコールを繰り返しながら留置場のある裏に周り、警察署をひと回りした。解散したとき、日は暮れて、雨は強まっていた。
集中行動、最初の 5 日間は目標を上回る600~700人が詰めかけたが、政権側も機動隊員の数を増やして対応。完全阻止とはいかなかった。しかし最終日の4月28 日「屈辱の日」は県民大会として約1500人が参加し、工事車両はなかったという。
共闘? 分裂? オール沖縄
今回の「集中行動」のきっかけは、2月の名護市長選の敗北だ。保守系の立場からオール沖縄の共同代表だった呉屋守将・金秀グループ会長が共同代表を辞任。呉屋氏らは辺野古の賛否を問う県民投票を推進し、オール沖縄とはブリッジ方式で共闘するとした。これに対して、残った革新系のオール沖縄は「辺野古座り込みこそ民衆運動の原点」と今回の集中行動となった。
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ところで、「後書き」の「県民投票と撤回」という次の記事がやや気になる。
▼「県民投票」と「撤回」 オール沖縄は既に別居している。翁長知事支持、辺野古新基地の阻止では一致しているのに、である。問題は「撤回」と「県民投票」の関係らしい。▼本格的埋立てを7月にも始める、と政権側は公言。大浦湾の自然を守るには6月にも「撤回」せよという。一方は、県民投票での民意証明が撤回の最強武器という。森友・加計問題で首相夫妻関与の実態がいくら出てきても、公文書改ざんしてまで「知らぬ存ぜぬ」の政権が相手だから。▼沖縄タイムスは3、4月と両派識者の論考やシンポを掲載した。「県民投票の前でも撤回できる」と言えば、片や「百害あって一利なし」論をトーンダウンしたようだ。両者はかなり近づいたように私には見える。今回の「集中行動」は民衆運動の原点を見せつけた。一方「『辺野古』県民投票の会」が9月投票めざして署名集めに動き始めた。1+1=3 になる共闘になって欲しい。
辺野古の新基地建設反対運動に注目して丹念に報道を追っている者以外には、「大浦湾の自然を守るには6月にも《撤回》が必要」という文意が分かりにくい。この機会に行政行為における《撤回》の意味を確認しておきたい。
問題になっている《撤回》とは、仲井眞弘多・前沖縄県知事が、国に与えた「海面の埋め立て申請に対する『承認』」の《撤回》である。前知事がした「承認」を、後任の翁長知事が《撤回》すべきということなのだ。
辺野古新基地建設のためには、大浦湾を埋め立てねばならない。しかし、公有水面の勝手な埋立てが軽々に認められてよいはずはない。公有水面埋立法は、公有水面の「免許」を知事の権限とし、「国土利用上適正且合理的ナルコト」「埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」その他の諸要件を満たさない限り、「免許してはならない」と定める。
国が埋立工事をする場合については、特に「国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ」(同法42条1項)と定める。つまり、国が海面の埋立をしようとする場合でも、県知事の「承認」が必要なのだ。
仲井眞弘多・前沖縄県知事は2013年12月27日付で、辺野古移設に向けて国の埋め立てに「承認」を与えた。翁長知事は、この「承認」に瑕疵があったとして、「承認を取り消し」た。すなわち、「もともとしてはならない違法な承認だったから取り消す」としたのだ。
ところが、国は、「翁長知事の承認取消こそ違法」「だから、承認取消を取り消せ」という行政訴訟を起こした。紆余曲折はあったが、残念ながら翁長知事の「承認取消」は最高裁まで争って認められないと法的には決着が着けられた。
「承認取消」が通らなければ、これに代わる「承認撤回」で行こう、というのが運動体の中から提案されている。これが《撤回》の意味。
もともとすべきでなかった間違った承認について遡って効力をなくするのが「承認取消」であるのに比して、承認のときの違法はともかく現時点では承認すべきではなくなっているのだから承認の効力をなくするというのが「承認の撤回」。
昨年(17年)3月、翁長知事自身も集会では「撤回を必ずやる」と発言しているが、1年余を経てその実行はない。軽々にはできない。慎重を要すると考えているのだ。常識には、「承認時以後の事情変更」「承認時には知り得なかった違法事由」を特定して立証しなければならない。運動論としてはともかく、「承認取消」で敗訴している以上、法的には明確な根拠が必要なのだ。
迂闊な《撤回》は、国側から「承認撤回の取消を求める」訴訟提起に持ちこたえられない。これに関して、最近明らかになった知見として、埋立予定海域の活断層の存在と地盤の軟弱性の疑いが、撤回の根拠となり得るのではないかと、話題になっている。
自由法曹団沖縄支部の新垣勉弁護士は、ごく最近大要次の報告をしている。
撤回に向けた動き
県は、これまで行政法研究者の助言を得ながら、埋立承認撤回の法的根拠と理由を検討してきた。しかし、なかなか撤回に踏み切る適切な事由を探し出せずに苦しんできた。
ところが、上記活断層の存在及び軟弱地盤の存在は、状況に大きな変化を与えようとしている。これまで、知事を支援してきた撤回問題法的検討会(県内行政法研究者・団員弁護士で構成)は、2月に「県は、検討段階から撤回に向けた具体的準備に入ること」を提言する法的意見書を提出した。
同意見書は、
①活断層の存在が埋立地の安全性を大きく損なうこと(要件事後喪失事由)、
②埋立が辺野古の海の豊かな自然環境を破壊し、新基地建設が県民の生活・生命身体等の安全を損ない、沖縄の経済発展を大きく阻害すること(公益事由)
を主な理由に撤回の準備に入ることを提言している。
県も同様の認識を有しているようであり、今後の進展が期待されている。
今後に注目して見守りたいと思う。
(2018年5月7日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.5.7より許可を得て転載 http://article9.jp/wordpress/?p=10323
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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