武器比較から見る「民草」の命の軽さ
- 2018年 5月 11日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
憲法改正、中でも、九条を標的とする攻撃が激しさを増している昨今ですが、戦争反対を単なる教条として唱えるのみでは何等の抵抗にもならないのでは、と考えた末に、過去からの戦争の歴史を見詰める視点をある具体的な事物に当てればより深く見つめることが出来るのではないか、と思い、数点の試行錯誤を試みた処です。
その一つが、生きるものには、必須の食べるもの、軍隊では、兵食乃至糧食と呼ばれ、中でも前線で兵士一人宛支給される糧食、米英では、レーションにあたるものが、前線の日本軍兵士に対しては支給されず、飢餓の末に果てた兵士が戦死者の大半以上を占めていた事実が軍部の兵站無視等と言う技術的なものに禍根があるのでは無く、過去のこの国の根本にある国の成立ちにあるのではないか、との思いでした。
次には、この国では、焦点があまり当てられないもの、「武器」に当ててみたい、と思います。
それは、その昔の米国テレビ映画の「コンバット」(Combat)が発端でした。 つまり、この視点は、私の小中学校時代に遡ります。 あの時代から、彼我の武器の比較と言う具象的な視点が欠けた戦争の記録が普通でしたが、私には、そうした視点自体が不思議でした。
つまり、この国では、抽象的な戦争の歴史が跋扈しているようで、今に至るも釈然としないのです。
試みに、テレビ映画コンバットに登場するサンダース分隊の兵士達の武器を観ますと以下のとおりになります。
分隊単位火器比較 サンダース分隊 ヘンリー少尉随行と仮定して
ヘンリー少尉 M1カービン銃 30口径カービン 銃弾×20発
M1911ガバメント自動拳銃 45口径ガバメント拳銃弾×8発
サンダース軍曹 M1A1 トンプソン・サブ・マシンガン(短機関銃) 45口径ガバメ
ト拳銃弾×30発
M1911ガバメント自動拳銃 45口径ガバメント拳銃弾×8発
カービー ブローニング・オートマチック・ライフル30口径ライフル弾×20発
その他兵士 M1ガランド・ライフル 30口径 ライフル弾×8発
10人と措定して 8発×10 80発
各種銃器装填保持弾合計 166発(分隊総保有火器に係る装填して所持する火器中の弾丸)
対するに 日本軍歩兵で、分隊組成があったと仮定し、尚、将校一名随行として
少尉 軍刀
軍曹 下士官刀
その他兵士 三八式歩兵銃 三八式実包×5発×11人 55発
以上を単純比較すると、166発対55発で米軍は、日本軍の三倍以上の発射可能の実弾を装填した銃器を所持していることになります。 仮に、日本軍将校が私物の拳銃を所持していたとしても、対した相違は無いので相当な火力の差です。
日米の差が顕著なのは、銃器の自動化であり、米軍では、ガダルカナル戦で反攻開始後は狙撃兵を除く全ての兵士が所持する銃器が自動化されていたのでした。 中でも一般歩兵の所持する歩兵銃の自動化が物を言うことになります。
更に、日本軍には無い「分隊支援火器」の存在です。 第二次大戦当時に既に、今日言う処の「分隊支援火器」を保有していたのは米軍のみであり、機関銃並み連射が可能な火器一丁を分隊に装備していたのは、他の国には無いことでした。
決定的に日米で差があるのが、米軍にある短機関銃です。 これは、第一次大戦の後半でドイツが開発し実戦投入された銃種で、使用弾は拳銃弾です。 全自動発射が普通の火器として分隊の長が制圧射撃に用いることを想定したものでしたが、接近戦での使用には効果的な小型全自動火器で、第二次大戦では、より小型化されて用いられました。 日本軍では、末期にごく一部でドイツのベルグマン短機関銃に倣った百式機関短銃として用いられたのみです。
想定では、兵士各自が保有する手榴弾と、擲弾筒や機関銃等の火器、兵科の相違する兵が運用する迫撃砲等の武器については割愛しました。 小隊単位や、砲兵等兵科の相違する大規模部隊単位の火器比較では、その差が更に大きくなるのは言うまでもありません。
以上の分隊単位の想定での彼我比較でも、如何にも貧弱な武装で戦争に臨んだことになりますが、その真因は、技術的なものでは無く、やはり、当時のこの国の成立ちにあったと思われます。
と思い至って、インパール作戦で前線からの補給の矢の催促に対して、不平を言わず敵陣を戦い取れ、と命じた軍司令官の意図が判明するのです。
「一銭五厘」が何人死のうが構うものか、と。
「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」とはじめに国家ありきと定める自由民主党の日本国憲法改正草案を読むとき、国のために、民草が何人死のうが構うものか、とうそぶく「あの人たち」の姿が見えるようです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7630:180511〕
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