米朝首脳会談:金正恩の狙い
- 2018年 5月 11日
- 時代をみる
- 綛田芳憲
ここで検討する問は以下の4つである。
① 米朝首脳会談で、北朝鮮の非核化はどの程度進展するのか。
② 米朝首脳会談で、米朝国交正常化は実現するのか。
③ 米朝首脳会談後に、北朝鮮が核兵器開発、弾道ミサイル開発を再開する可能性はどの程度あるか。
④ 米朝首脳会談を開催する北朝鮮の狙いは何なのか。
2017年1月のトランプ政権発足後、米朝対立は緊張の度を強めたが、2018年2月の韓国の平昌五輪を契機に、北朝鮮は強硬路線から融和路線への政策転換を早い速度で進めてきた。2018年4月27日には南北首脳会談が開催され、6月12日には初の米朝首脳会談が開催される予定である。ここでは、上記の4つの問題を検討する。
非核化の進展については、基本的に、米国が北朝鮮の要求を受け入れる程度に左右されると思われる。より具体的には、米朝関係の改善が進み、国交正常化が実現するかどうかに大きく規定されると考えられる。北朝鮮は、これまで米国に対して朝鮮戦争を終結させる平和協定の締結を含む国交正常化を求めており、その要求はクリントン政権期の1994年に結ばれた米朝枠組み合意、ブッシュ政権期の2007年に結ばれた6者協議合意にも反映されることになった。
しかし、米国は合意後も北朝鮮との国交正常化に消極的な姿勢を示してきた。それは、米朝国交正常化に伴い北朝鮮の脅威が消失すれば、米国の韓国、日本への影響力が低下することが容易に予想されるからであると考えられる。その点を考慮すれば、今回の米朝首脳会談でトランプ大統領が金正恩委員長に非核化の見返りとして国交正常化を約束したとしても、再度履行が滞る可能性が否めない。
そうなった場合、枠組み合意、6者協議合意の崩壊後に見られたように、北朝鮮が核実験やICBM開発を再開するかどうかが問題となる。この点については、金正恩政権下で核兵器開発が進み、金正恩委員長が、2017年11月29日には「国家核戦力の完成」を宣言し、2018年4月20日には経済成長に重点を置くことを唱え、核実験場を廃棄する方針を示したことなどから判断すれば、以前に比べて核兵器開発を再開する可能性は低いと思われる。
金正恩政権としては、核実験場の廃棄などの非核化措置を実施して行くことで、米国との関係正常化、特に米国による経済制裁の緩和を実現したいと考えていると思われるが、米国が以前のように消極的な対応を取っても、北朝鮮としては、中国、韓国、ロシアとの経済関係を活性化できれば、それによって少なからぬ経済成長を遂げられると考えているのではないかと思われる。
中国、韓国、ロシアとしても、金正恩政権が主張する段階的な非核化に対して理解を示しており、また、北朝鮮との経済交流、或いは、北朝鮮を経由した貿易を拡大することに大きな利点を見出しており、北朝鮮が非核化措置を実施して行けば、これら三ヶ国との経済交流が活性化し、北朝鮮経済は着実に成長を遂げると思われる。また、中韓露との経済交流が拡大し、その重要性が高まれば、北朝鮮が核実験やICBM実験を再開する可能性は更に低下すると推測される。中韓露は、米日とは異なり「完全且つ不可逆的で検証可能な核廃棄(CVID)」を強く要求していないので、経済交流が拡大しても、米朝国交正常化の進展なしにはCVIDの実現は困難であろう。
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