「9条俳句訴訟」東京高裁控訴審判決を傍聴して
- 2018年 5月 21日
- 評論・紹介・意見
- ちきゅう座会員元小学校教員石川愛子
5月18日(金)、「9条俳句裁判」(詳細は「9条俳句市民応援団ホームページ」へ)の東京高裁での判決日。101法廷は傍聴人でいっぱいだった。2時からの裁判、2分間の報道機関撮影、その後開廷と思ったら、白石史子裁判長が、2分位で判決主文を読み上げ終わってしまった。
上記のものだから、「えっ?5万円が5千円に!、棄却はひどい、なに!訴訟費用は原告負担?」など思っているうちに閉廷。立ち去る裁判官に傍聴席から怒号や「出世したいのか?」などのヤジがとんだ。法廷を出たのは2時5分、本当にあっという間だった。
高裁正門前の「勝訴」「市の責任再び認める」の文字に、あれで勝訴だったんだと思った人は私ばかりではなかったようだ。
3時から、報告集会が憲政会館で行われるということで、そちらに向かった。
弁護団の方がたの記者会見の時間を待つ間、ビデオで、昨年11月3日の時論公論の「いま国民が憲法を議論する場は」を見せてくれた。それは、「NHKもこういうのを作っているんですね」と皆、口々にいうほどのものであった。
報告集会で、久保田和志弁護士らの報告、佐藤一子教授の解説で、勝訴の意味も、なかなか踏み込んだ判決文であったことも知らされた。その点について、判決文が9条俳句裁判判決にアップされたので、長くなるが、特筆すべき点を下記引用したい。
さいたま地裁判決の第1審に加えて「第3 当裁判所の判断」として、争点の一つの「本件俳句を、本件にたよりに掲載しなかったことが、第1審原告の人格権ないし人格的利益を侵害し、国家賠償法上、違法であるか」について、公民館の役割目的を社会教育法に則り提示したうえで
「(1)……公民館の上記のような目的、役割及び機能に照らせば、公民館は、住民の教養の向上、生活文化の進興、社会福祉の増進に寄与すること等を目的とする公的な場ということができ、公民館の職員は、……これを公正に取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきである。
そして、公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果を発表した住民の思想の自由、表現の自由が憲法上保障された基本的人権であり、最大限尊重されるべきものであることからすると、当該住民の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである。
(2)これを本件についてみると、……それまでの他の秀句の取り扱いと異なり、その内容に本件句会が提出した記の目的・役割を三橋公民館の上記掲載拒否行為は、公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、原告の思想、信条を理由にこれまでの他の住民が著作した秀句の取り扱いと異なる不公正な取り扱いをしたものであり、これによって、原告の上記人格的利益を違法に侵害したというべきである。
(3)第1審被告(さいたま市)は、三橋公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載することは、世論の一方の意見を取り上げ、憲法9条は集団的自衛権の行使を許容すると解釈する立場に反対する者の立場に偏することとなり、中立性に反し、また、公民館が、ある事柄に関して意見の対立がある場合、一方の意見についてのみ発表の場を与えることは、一部を優遇し、あるいは冷遇することになり、公平性・公正性を害するため、許されないから、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことには、正当な理由がある旨主張する。
しかし、…本件句会の名称及び作者名が明示されていることからすれば、本件たよりの読者としては、本件俳句の著作権の思想、信条として本件俳句の意味内容を理解するのであって、三橋公民館の立場として、本件俳句の意味内容について賛意を表明したものでないことは、その体裁上明らかであるから本件俳句を本件たよりに掲載することが、直ちに三橋公民館の中立性、公平性及び公正性を害するということはできない。
……以上によれば、本件俳句が詠まれた当時、集団的自衛権の行使につき世論が大きく分かれていたという背景事情があったとしても、三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにつき、正当な理由があったということはできず、三橋公民館及び桜木公民館の職員らは、本件俳句には、第1審原告が憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想、信条を有していることが表れていると解し、これを理由として不公正な取扱いをしたというべきであるから、上記職員らの故意過失も認められ、第1審被告の主張は採用することができない
(4)したがって、三橋公民館及び桜木公民館の職員らが、第1審原告の思想や信条を理由として、本件俳句を本件たよりに掲載しないという不公正な取扱いをしたことにより、第1審原告は、人格的利益を違法に侵害されたということができるから、三橋公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは、国家賠償法上、違法というべきである。」(下線、カッコ内は筆者)
人格的利益を違法に侵害するとし、なかなか真っ当な貴重な判断と言えるものと思う。白石裁判長らへの、怒号ヤジは明らかに間違いだった。裁判のこのわかりにくさ、何とかならぬものか。
9条俳句の公民館だよりへの掲載要求については、本人に請求する理由がなく、公民館が判断することだから、ここでは棄却という形になったと石川智士弁護士は、解説されていた。
さいたま市は、ただちにこの判決を受け入れ、原告に人権侵害を詫び、たよりに掲載するべきではないか。
つづく
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7660:180521〕
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