情報隠蔽が混乱を招く/個人的許容被曝線量
- 2011年 4月 10日
- 時代をみる
- 個人的許容被曝線量情報隠蔽近藤邦明
相変わらず、政府の情報管制が続いています。気象庁が放射性物質の拡散状況を分析していたにもかかわらず、一切公表してこなかった問題について、昨日の会見で枝野は「国民の中に混乱を招かないため」だったと述べました。類推するに、こうした政府の方針を受けて日本気象学会も会員研究者に対してこの問題に対して研究・発表を行わないように理事長新野宏が文書で指示したものだと考えられます(財団法人日本気象学会は気象庁内にあります。)。
今回の原発事故関係の官邸、経済産業省(原子力安全・保安院)、東電などによる基本的な事故に関する情報の隠蔽、あるいは放射線障害に対する正確な情報が公開されていないことによって、被災者や国民の間に事故の捉えかたに大きな開きがあることが混乱を招いているのです。
政府はたびたび「基準値は超えていてもすぐには影響の出るレベルではないから安心」と繰り返し宣伝し、マスコミも「政府による正しい情報に従ってください」とこれを追従しています。
放射線被曝による晩発的な疾病の発症において、閾値は存在しないというのが現在の世界的な認識です。自然科学的には基準値あるいはもっと言えば許容値というもの自体が存在しないのです。
この体制によって定められた基準値あるいは許容値というものは放射線障害に対する受忍限度を示したものであり、体制がここまでの障害は我慢せよと勝手に押し付けているだけのことです。冗談ではありません。自らの健康に対する判断を国家が管理するなどとんでもない話です。低放射線被曝による晩発的な障害の発症には閾値はなく、障害発症の確率は積算被曝線量に伴って増大するのです。
放射線被曝の影響、特に晩発的な影響の評価が難しいのは、実際に放射線に晒されている間に身体症状が現れないことであり(もし急性症状が顕著であれば、それは死に直結します。)、しかも数年後、数十年後に現れる影響は確率的だということです。仮に、同じ被曝線量を受けた人を診察したとしても、将来あなたは発症し、あなたは発症しないという個別の確定診断は不可能なのです。
あくまでもある被曝線量を受けた例えば1万人の集団があったとしたら、誰かはまったくわからないが、その集団において二人には障害が発症する、ということしか言えないのです。その結果、低線量被曝とその障害の因果関係を定量的、直接的に証明することは困難なのです。しかし、因果関係を証明できないことは安全であり、影響が無いこととはまったく意味が異なるのです。
現在政府は、食べたとしても(急性の)身体症状が出る心配はないから安心という一方で農産物などの出荷制限をかけるという措置をとっています。これはまったく理解不能であろうと考えます。生産者とすれば、なぜ身体症状が出ない安全なものが出荷できないのか、という当然の反発をするでしょう。
反対に、消費者は晩発的な障害を懸念して基準値以下の放射能レベルであっても、例えば福島県産の農産品は放射能に汚染されている可能性が高いので購入しないようにします。これまた自己防衛のための当然の危険回避行動であって、「風評被害」などと呼ぶものではありません。
放射能レベルが基準値以上であるか、以下であるかということに本来科学的な合理性は無いのですから、こうした混乱を避けるためにはまず行うべきことは、全ての汚染状況を公開することです。そして、放射線について、晩発的な影響も含めて全ての正確な情報を国民に提示することです。その上で国民が自らの判断でこれに対処するしか方法はないのです。
人が自分の納得した行動をすることは本質的な権利であり、公の名の下に情報を隠蔽して体制の定めた基準に従わせることで秩序を保つというのは戦時国家、あるいはファシズム体制です。
今回の福島第一原発事故で、図らずも行政や民主党政権の行動様式は「よらしむべし、知らしむべからず」という愚民政策を基本としており、戦前戦中の国家体制と変わるところがないということが明らかになりました。このような国の政府がお隣の国に向かってとやかく言うのは誠におこがましい話です。まず自ら律せよ!
—————————————————————–
(2011/04/06)
個人的許容被曝線量
今回の福島第一原発事故によって、既に九州から北海道まで程度の差はあるにしろ放射性物質による汚染が広がりました。その意味で、否応なく人工放射線と付き合って行かなければならないわけです。放射線被曝による何らかの障害の発症に対して閾値は存在しないことは既に述べたとおりです。人工放射性物質から一切の放射線を受けずに生活することは現実的には不可能です。しかし、だからと言って不用意に放射線を浴び続けて障害を受けたり寿命を縮めたくもありません。
前にも書きましたが、最終的にどの程度までのリスクを受忍するかは、自分自身の責任で決めるべきであり、他者から強制されるべきではないと考えます。そこで今回は、私自身の判断による許容被曝線量について考えてみることにします。
まず、それを判断するためには、被曝線量によってどのような障害発症の危険性があるのかを示しておきます。
この表は、3月26日の槌田氏の学習会の資料として配布されたものです。
放射線を取り扱う労働者に対する緊急の限度量は表の赤線で示す急性の弱い放射線障害が現れるという100mSvという積算線量を1年間で被曝するという限度でしたが、福島第一原発事故処理においては急遽250mSvに引き上げられました。表から判るように、この線量は急性の弱い放射線障害を容認するものです。報道によるとこの値を更に引き上げることを検討しているといいます。何とひどい話でしょうか。
現在、TVや新聞報道で伝えられる放射線レベルの単位はμSv/hという単位です。つまり一時間当たりの放射線量として表されています。年間積算線量と放射線レベルの換算法を以下に示します。
1mSv/年=1000μSv/(365×24)h=1000/8760μSv/h=0.114μSv/h
∴1μSv/h=8.76mSv/年
さて、私の余命が30年とし、生涯積算放射線量を100mSv以下にしたいとします。この場合、
100mSv/30年=3.33mSv/年=0.38μSv/h
つまり、私の余命を30年として急性の放射線障害を発症しないという条件を満足させようとすると、許される時間当たりの被曝放射線量は0.38μSv/hということになります。
仮に、弱い急性の放射線障害の発症までは許容する、つまり生涯積算放射線量を1Sv=1000mSv以下にしたいとします。この場合は次のようになります。
1000mSv/30年=33.3mSv/年=3.8μSv/h
http://radiation.goo.ne.jp/
上の図は、今朝8:40の福島県伊達、原発から北西55kmの観測点における値です。ここに私が30年間住み続ければ、弱い急性の放射線障害を発症する可能性がかなり高いということです。伊達の放射線レベルを年間積算線量に換算すると次の通りです。
3μSv/h=26.3mSv/年
私見ですが、定常的に6μSv/hを超えるような場所は年間積算線量に換算すると通常の放射線を扱う労働者の限度である50mSv/年を超える事になりますから、逃げ出した方がよいように思います。
今回示した許容被曝線量は、あくまでも私の余命を30年としてその中での積算線量によって判断を示したものです。もしあなたに子供がいれば、その安全を守るためには余命を60年あるいは70年として検討しなければなりません。最も影響を強く受ける子供を基準に行動を考えてください。
尚、今回紹介したのはあくまでも環境の放射線に対する外部被曝による確定的な影響(=誰にでも必ず現れる影響)と言われる急性の放射線障害についての安全性からの判断であり、内部被曝や晩発的な障害の発症はまた別の問題です。確率的な影響を考慮すれば、出来るだけ放射線を受けないことが重要です。
追記:低線量外部被曝による確率的なガン死亡リスク
福井県立大学の岡敏弘氏の『放射線リスクへの対処を間違えないために』によりますと、国際放射線防護委員会(ICRP)は、一人当たり100mSv以下という低線量被曝において、被曝線量が1Sv増加することによって1万人の集団に565件(≒570件)の確率でガン死が発生すると推定しており、リスク係数を次のように定めている。
570/10000(1/Sv)=0.057(1/Sv)=0.000057(1/mSv)
例えば、10mSvの被曝をした場合の晩発性のガン死亡者の発生確率は次のように推定されます。
0.000057(1/mSv)×10mSv=0.00057
人口10万人の都市の住民が10mSvの低線量被曝を受けた場合、この都市におけるガン死亡者の増加は次のように推定できます。
100,000人×0.00057=57人
ただし、このガンによる死亡者に一体誰が該当するのかはまったくわかりません。自分であるかもしれないし、そうではないかもしれません。この値をどう評価するのかはあなた自身の問題です。
現在、政府は福島第一原発の避難地域の見直しを検討しており、20mSv/年を目安とするとしています。この場合のリスクは、次のように推定されます。
0.000057(1/mSv)×20mSv/年=0.00114(1/年)
20mSv/年という放射線レベルの地域の1年間当たりの死亡確率が0.00114だと言うことです。例えば、人口10万人の都市であればガン死亡者の増加は次の通りです。
0.00114(1/年)×100,000人=114人/年
つまり、2年間では228人、3年間では342人、・・・、が低線量被曝を原因とするガンで死亡すると言うことです。
(2011/04/08追記)
『環境問題』を考える http://env01.cool.ne.jp/index02.htm より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1323:110410〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。