大災害が隠された自然の顔を見せる時
- 2018年 7月 19日
- 交流の広場
- 熊王信之
以下は、私と私の親族一家が身を以て経験した実話です。
阪神淡路大震災に先立つ数年前のこと。 親族一家が住む阪神間のある新興住宅地を訪れました。 男の子と女の子の二人の子供に贈り物を届けることが目的でした。
一家と話す内にその新興住宅地の排水路にはサワガニが生息していて、子供達が喜んで獲る、と聞きました。 山野ならば兎も角も、住宅地の中にサワガニとはとても珍しいことなので男の子の案内で見物に出かけました。
親族一家の住む一軒の家は、借家であり、斜面に建てられていて当該敷地下方の斜面には排水路が走り、石垣には、排水パイプがあり、晴天にも拘わらず水が流れていました。 そして、石垣に沿った排水路には、砂が堆積していました。 良く観れば、排水パイプから流れる水には砂が混じっていました。
男の子と二人で親族一家が借りている借家を離れて斜面を観察しながら歩きますと、住宅地になった東西に渡る斜面の用地には未だ新しい空き家があり、斜面を挟むように位置する南北両端の小高い用地に建てられた住宅は年月が経過しているようでした。
これは、自然の山の中ならば、沢だ、と気がつきました。 詰まり、小川が流れていたのであろう「沢」が位置する一角を宅地開発して住宅地にしたのであろうと思われたのでした。
それが証拠に、北側の一角には、長々と斜面を流れる小さい排水路があり、また、当該住宅地の真ん中には、水気のある土地に草木が青々と茂る空き家がありました。 空き家の敷地を訪れますと所々に水溜りまでありました。
自分の知識に照らしてこれは危険だ、と思われました。
山野を住宅地に宅地開発する場合には、一定の敷地以上ならば、都市計画法に基づいて許可が入用であり、更に山等の斜面を宅地にするには、宅地造成規制法の許可が入用です。 しかし、両者の許可を受ければ安全とは限りません。
人間社会の取り決めが自然に通用するか否かは自ずと明らかであり、古より人間はその事実を承知していて、山々を宅地化する場合には、安全な処から宅地化しました。 その経過はこの場合にも明らかでした。 詰まり、自然世界では「沢」であったであろう当該地の南北に位置する宅地に建つ住宅は相当の年月が経過したものであったのでした。 そしてその後で用地が少なくなり昔ならば宅地にしなかった「沢」まで宅地化した、と推理出来たのでした。
さて、その事実を言うべきか黙すべきか、困りましたが、男の子の顔を見ていて話すことにしました。
まず一家の母親に、用水路に砂が堆積していて、それは、一家の住む借家の敷地から砂が大量に流れたものと思われること。 そして、借家の敷地には空洞が出来ていて一定限度を超えると崩落すること。 対策は、地盤硬化剤を投入すること。 これをしないと敷地そのものが危険と言うことでした。 加えて此処は、「沢」であり、そもそも住宅地には適していない、と言うことでした。
「沢」である証拠は、上流には、急峻な川があり、斜面の端には水路が走り、麓には溜池まで位置する、と言う事実でした。 詰まり斜面には「伏流水」がある、と思われる、と。
確信に基づいての進言でしたので一家の母親は驚き、直ちに管理者に激しい要望を上げて地盤硬化剤の投入がされました。 何でも現地を下見に来た業者が驚く程の空隙が敷地の下に出来ていたそうでした。
これで、結果的には、阪神淡路大震災に際して、親族一家が亡くなると言う惨事は防げたのでした。 詰まり、地盤硬化剤を借家の敷地下に投入した御蔭で、敷地崩落を数日の間は防げたのでした。
親族一家が避難した後に一家が借りていた借家はその敷地とともに崩落しましたが、避難の時間が出来たのでした。
処で、当該地の現在はどうなっているのか、と言いますと、関連法令の許可等を新にしたのであろうと思われますが新規に住宅が建築されています。 もう当該地が「沢」であった過去の一切を消し去った如く当該斜面地には隙間なく住宅が建てられています。
ただ、当該斜面地の麓には、未だに溜池が残ります。 豊な伏流水は絶えることが無いのでしょう。
そして、また来るであろう大地震や豪雨の折には、その伏流水が表に出て来るでしょうし、隠された「沢」の過去が現れるであろうことは間違いが無い、と思われます。
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