NHKが政権におもねているのは政治報道だけではない
- 2018年 8月 3日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2018年8月1日
NHK:「政治報道以外は優れている」は本当か?
私も参加しているNHK問題に関わる各地の市民グループの間で、このところ、政権のマイナスイメージとなる話題(各場や与党国会議員の暴言・妄言など)は小さく扱う、あいは伝えないNHKの報道姿勢に「犯罪的」とさえ批判する意見が出ている。その意見には私も大いに賛同している。
ただ、そのような評価と前後して、「NHKはその他の分野ではよい番組が多いのに」という感想や、「政治報道以外ではNHKは奮闘している」(NHK・OB) という議論がある。同様の意見は、さまざまな市民運動に参加している人たちの間でも、これまでから見受けられた。
しかし、私は根本的に違った見方をしている。腰を据えて書き出すと長くなるので、ここでは、私がそう考える理由を分野ごとに簡潔に述べることにする。
かなりの時間帯を占める「ゴゴナマ」はどうなのか?
平日のNHKの午後の時間帯は、12時のニュース以降、15時のニュースまで、途中、1時間刻みのニュースを挟みながら、「ゴゴナマ」という番組が放送されている。それぞれの時間帯ごとにテーマが分けられているが、NHKの番組のなかで相当な時間帯を占めている。
そこで、例えば、7月30日~8月3日の時間帯ごとの番組を抜粋すると次のとおりである。
12時台:「特選女子旅、夏安美水族館」、「サラメシうなぎ特選」
13時台:「おしゃべり日和(日替わりで歌手やタレントが出演)
14時台:「夏を満喫する極め付きかき氷」、「苦み&ネバネバで夏を
乗り切れ!」、そーめんグレードアップ作戦」、「グルメ
で楽しむ甲子園」
15時台:「イケドク 夏のかゆみトラブル特集」、「東北・みちたん
ああ! すばらしきセカイ」
人によって受け止め方にばらつきがあることを承知の上で感想をまとめておく。
*昨今、料理番組や健康番組はテレビに欠かせない話題になって
いる。また、身近な話題も取りあげる趣旨はわかる。が、それ
を他愛もないバラエティに仕立てて出演者が、しばしばアナウ
ンサーも相乗りして、はしゃぐ番組が多すぎないか?
*多くの民放は、平日午後の時間帯に、横並びとはいえ、時事的
な政治・社会問題をお茶の間の話題として、それなりに突っ込
みを入れながら伝えている。しかし、NHKの「ゴゴナマ」は時
間帯ごとに、旅もの、料理もの、健康もの、タレントのトーク
などに割り振り、時事的な政治・社会問題は定時のニュースで
短かく、そそくさと伝えるだけだ。
*しかし、たとえば、オウム事件犯人の死刑が次々と執行された
ことについて、「国家が人を殺すライセンスを持つ(ある新聞
投稿者が使った言葉)死刑制度が存続してよいのか? 死刑制
度を廃止したり、執行を凍結したりする国が多いのはなぜなの
か? という素朴な疑問を「ゴゴナマ」で取り上げてもよいの
ではないか?
平日夜のゴールデンタイムの番組はどうなのか?
同じく、7月30日~8月3日の19時~20時台の番組を調べると、こんな番組が出ている。
「うたコン」「ガッテン」「大迫力 長岡の大花火」「夏の高校野球 特大スペシャル」(2夜連続、20時45分頃まで)「サラメシ オシばん」「探検バクモンプラモデル工場売上げ躍進のひみつ」・・・
*肩の凝らない娯楽番組があってもよい。しかし、「ゴゴナマ」に
似て、お手軽なお笑い番組、視聴者受けを狙って社会問題を娯楽
化し過ぎた番組が多すぎないか?
せめて週に2コマくらいは視聴者に、政治・社会・文化、国際問
題などをじっくり考える材料を提供する番組、あるいは日本在住
の外国人もまじえた市民参加型の討論番組、あるいはNHK経営委
員会の会合、放送番組審議会、視聴者とNHK経営委員が語る会の
録画中継を放送するといった企画があってもよいのではないか?
経済、社会問題をテーマにした番組はどうなのか?
ワーキング・プアなど貧困問題を取り上げた優れた番組があったことは確かだ。しかし、国の社会保障政策が絡んでくると、腰が引け、国の財政事情を前に出して、市民の命、健康と国の財政難を天秤にかけ、社会保障抑制政策を陰に陽に肯定するパターンが多いのが実態である。
(一例)「あなたはどう考えますか ~新薬高騰が医療を壊す?
~」(2016年7月13日放送「クローズアップ現代+」)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3838/1.html
しかし、社会保障の財源難というなら、今の社会保障抑制策は、「生産性のない人間は国家として面倒をみない」という棄民政策を公式に掲げるならともかく(実態は非公式に棄民政策が実施されているのだけれど)、そうでなければ、貧困放置の国策は社会保障費の付け替えと悪循環(医療費→生活保護費など)を生む結果になっていること、新薬高騰は製薬メーカーが言う様に新薬の開発費がかさむからなのか? むしろ、研究開発費を控除した後の製薬企業の営業利益率が製造業平均の3~5倍になっていること、海外企業の買収で巨額の減損損失を出した武田薬品工業を除くと製薬企業の売上高上位4社の留保利益は2010年度末に2兆6,209億円だったのが、2016年度末には3兆7,395億円へと約1.4倍も膨らんでいる実態を見ると、薬価には製薬メーカーに入るかなりの利ザヤが含まれているのではないか、新薬が上市される際に見込まれる市場規模が相当過少に見積もられているのではないか? それらを適正化すれば、薬価は大幅に下がり、医療費の高騰をかなり抑制できるのではないかーーーこういった点を調査報道する努力を手掛けるべきではないのか?
災害報道はどうなのか?
今回の西日本豪雨を題材にした検証番組が「NHKスペシャル」と「クローズアップ現代+」で放送された。
しかし、どちらも、事実報道は別にすると、土木工学的な視点からの編集となっていて、スタジオ・ゲストもその分野の研究者だった。
そのため、河川の氾濫が起こったメカニズムの解説、住民に自分の身を守るための心構えを説くのが基調だった。
しかし、いかに予報・予防に力を入れても避けるのが至難なのが大半の災害である。であれば、災害が発生した時に被害を最小限にするための政府・自治体・消防庁・自衛隊など救助組織の対応(救助の初動)はどうだったのかという検証が欠かせない。
ところが、NHKの検証番組ではそうした視点がまったく欠落していた。これでは、政府の初動対応を問う切り口は封印されたと考えざるを得ない。
大河ドラマはどうなのか?
以下は、大河ドラマの歴代のテーマを一覧したものである。
https://www.nhk.or.jp/segodon/taiga/
(出所:ウィキペディア)
一見して分かるが、なぜ、戦国・江戸時代の武家もの、明治維新期の志士物語がほとんどなのか? 現代史に関わるテーマをなぜ扱わないのか? 高校の歴史で現代史を扱う時間が極端に少ないのと共通した問題と思える。
が、そう言いながら、ネットを検索していると、偶然、「2019年の大河ドラマは、33年振りに近現代史に挑みます!」というNHK広報局の番宣に出会った。ただ、よく見ると、
「東京オリンピック開催を間近にした、2019年。オリンピックの歴史を題材に、宮藤官九郎オリジナル脚本で、“痛快&壮大な大河ドラマ”を制作します」となっている。
http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/257134.html
これでは、33年ぶりに現代史を取り上げたというより、2020年のオリンピックに翼賛する意図がありありのドラマである。
雑駁ではあるが、以上のような検討から、NHKでは報道番組以外は優れている、政治報道以外ではNHKは奮闘している、とはとても言えないというのが私の結論的な意見である。
では、良質の番組が多いと言われるNHKのドキュメンタリィ番組はどうなのか? 別の記事でこの点を考えてみたい。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye4425:180803〕
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