今年の8月も頑張ったNHKの戦史報道の数々
- 2018年 8月 22日
- 評論・紹介・意見
- 坂井定雄戦争
昨年も書いたが、今年の8月もNHKの戦史報道の数々に感動し、知らなかった事実を教えられた。報道された番組は見落としもあるとは思うがNHKスぺシャル(Nスぺ)「祖父が見た戦場」(11日)、「悪魔の兵器 原爆なぜ誕生 科学者の闇」(12日)、Nスぺ「戦争孤児の戦い」(12日)、Nスぺ「ノモンハン 責任なき戦い」(15日)、ETV特集「自由はこうして奪われた」(18日)、Nスぺ「届かなかった手紙」(19日)・・・いずれも番組制作に携わったNHKスタッフと参加、協力した人々に心から慰労したい。少しでも多くの太平洋戦争を経験してない人々、とくに若い人々には、これらの番組で伝えられた戦争の歴史、戦争がどれほど非人間的な、残酷な国家の行為であったことを、改めて知ってほしいと思う。
これらの報道をたぶん私以上に視ていた、文化・メディア界に詳しい友人の藤野雅之さんが、司馬遼太郎さん、半藤一利さんとのかかわりも含めて、今年のNHK戦史報道について書いてくれたので、以下に転載します。
NHKスぺシャル「ノモンハン 責任なき戦い」
―司馬遼太郎も「書きたい」が「書けない」と言い残す
藤野雅之(元共同通信記者)
NHKスペシアルの「ノモンハン 責任なき戦い」を見ました。よくできた番組だと思いました。
NHKは安倍寄りの姿勢が目立って、批判も多いですが、そういう姿勢は報道局で目立っています。いまの名前がどうなっているのか知りませんが、番組制作局にまでは会長の目は届いていないようで、昔からのNHKらしい、ジャーナリズム精神がまだ生きていると思います。
朝日などに対してもそうですが、NHKとか朝日とかの全社が政権寄りになっているような批判が世間で目立ちますが、きちんとしたジャーナリズム精神を維持しようと頑張っている人たちがいることも当然です。そういう批判は安倍シンパのネトウヨたちの主張の裏返しで、敵の手中にハマってしまうことにもなり、危険です。
批判するなら、どの記事が問題だ、と具体的に挙げて批判すべきで、良いところは具体的に挙げて褒めるべきです。その意味で、NHKの番制局はよく頑張っていると思います。
ところで、ノモンハンについては、NHKスぺシャル「ノモンハン 責任なき戦い」でも触れていましたが、司馬遼太郎さんが「書きたい」と言いながら「書けない」と言い残して、亡くなりました。私も直接付き合いがあって、聞いたことがありましたが、よく言っていたのは「統帥権」問題です。要するに、軍部や関東軍内で天皇の「統帥権」についての認識がどうだったのかがよくわからない、という面もあったのではないでしょうか。
この問題も含めて、私が最近読んで感銘を受けたのは半藤一利著『ノモンハンの夏』(文春文庫)です。軍部や関東軍の内部の動きを詳しく追究しています。ご一読をお勧めします。
ところで、半藤さんは私の好きな人で、今年が「明治維新150年」に当たり、長州人の末裔の安倍が大々的に礼賛しようとしていたのですが、半藤氏らの明治維新批判が影響力を持ち始めたのか、薩摩や長州に対する批判的な見方が一方で静かに広がっているように思います。
半藤さんは東京生まれですが、祖母は長岡の出身で「明治維新に際して、官軍は長岡藩の財産を奪った泥棒集団だった」と薩長を批判し続けるのを子供時代によく聞いた、と言っています。それが彼の薩長を批判する史観の元になっているようです。
私も薩長は大嫌いで、吉田松陰は、琉球、朝鮮、中国、シベリア、千島、太平洋諸島、東南アジアを侵略すべきだと「留魂録」に書いています。この思想を受けて日清、日露の戦争をしたのが、山縣有朋や伊藤博文たちです。伊藤はテロリストだったし、山縣は長州人であることを武器にのし上がった軍人です。また明治になって最初に政府が議論したのが「征韓論」です。
明治は開国という面では近代化を進めましたが、帝国主義的な侵略国家の道を歩みだしたのは、松蔭の教えを受けた長州人たちのゆえで、半藤さんはこの点で厳しく薩長を批判しています。
薩長が日本の近代を歪めたのですが、その間違いをいまも正すことが出来ていないのです。安倍は吉田松陰を尊敬すると公言し、その思想をいまも踏襲しているのではないでしょうか。ノモンハンの無責任は、いまの安倍政治の無責任に生き続けていると思います。
それから、司馬遼太郎さんはどうも長州好きだったようですね。長岡藩の河井継之助も描いたが、長州人を主人公にした小説も多いです。最近、司馬さんに対して批判的に見るようになりました。ただ、高名な人たちは誰も司馬遼太郎を批判しませんね。(了)
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