NHKに意見を送信~体操の宮川選手の勇気ある告発に応える調査報道を~
- 2018年 9月 1日
- 評論・紹介・意見
- 醍醐 聰
2018年8月31日
今日、NHKにFAXで次のような意見・要望を送った。
(参考)
宮川紗江選手の記者会見 冒頭本人発言ノーカット(19分34秒)
http://tsuisoku.com/archives/54065047.html
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2018年8月31日
NHK 御中
FAX:03-5453-4000
体操の宮川選手の会見を巡るNHKの報道に関する意見・要望
8月30日の「おはよう日本」は、宮川紗江選手が8月29日の記者会見で説明したコーチの暴力問題、日本体操協会幹部から受けたパワハラ問題を取り上げました。が、結びの語りは、「選手がパワハラと感じたと指摘するやりとりは、主に電話での会話や少ない関係者の間で行われたものだということで、事実の解明がどこまで進むかが焦点となります」というものでした。まるで、真相解明の行き詰まりを予断するかのような話しぶりです。
しかし、NHKの使命は、他人事のように真相解明の行き詰まりを予見することではなく、独自の取材・調査を手掛けて、真相解明の先頭に立つこと、具体的には、昨今、日本のスポーツツ界で頻出している選手の人権を蹂躙する連盟・協会幹部の権限の私物化の真相に迫ること、です。
現に宮川選手の会見以降、民放各局は、かなりの時間を割いて、体操の元オリンピック代表選手などに取材して得た有益な証言を報道しました。たとえば、日本テレビの「スッキリ」(8月30日)はバルセロナ五輪体操代表選手の池谷幸雄さんに取材し、「これはもう体操界の中では本当に激震ですよね。」「歴史が代わるというぐらい大きな出来事」と評した池谷さんの生の発言を伝えました。
また、複数の局は8月30日のワイド番組で、朝日生命体操クラブが有力選手を他のクラブから引き抜いた先例、その手法を証言する関係者の声を伝えました。
さらに、前記の「スッキリ」は、塚原千恵子氏のことを「ザ・パワハラ」「一言でいうと『女帝』」と語る、かつて朝日生命体操クラブに所属した人物の証言を伝えました。
ところが、これまでのNHKニュースは宮川選手と日本体操協会幹部の言い分をそのまま手短に伝えるだけで、独自の取材にもとづく情報を加味して真相に迫る場面は皆無といってよい状況です。
8月30日の夜は、報道ステーションとTBSニュース23がトップで宮川選手の告発が投げかけた波紋を続報したのに対し、NHKニュースウッチ9は、この問題を完全にスルーしました。
(意見・要望)
1.宮川選手が会見の中で「権力を使った暴力」と告発した日本体操協会幹部のパワハラ問題は、ワイドショ-で見受ける興味本位の話題ではなく、日本のスポーツツ界が抱える利権がらみの構造的腐敗の問題であり、選手個人の自己決定権と尊厳にかかわる社会問題です。また、オリンピック代表選考に象徴されるような権限を持つ者と権限に翻弄される者という力の格差がまかり通る世界で起る普遍的な問題です。
このような問題を取材・報道する時にNHKに求められるのは当事者の対立する言い分を「中立的に」伝えることではなく、権力の非対称性を念頭において、権力を持つものの力の行使のプロセスに迫り、国民に知らせる使命を果たすことです。
NHKは宮川選手が提起した問題をこのような視点から受け止め、この先、充実した調査報道を手掛けるよう要望します。
2.すでにNHKも十分、承知されていることと思いますが、宮川選手が告発した日本体操協会のパワハラ問題については、この先、宮川選手に続いて、体操競技の現・元オリンピック代表(候補)選手やコーチ、審判の中から自らの体験を語る証言が出てくる可能性が高いと考えられます。現に、ネット上では、数名の元オリンピック代表選手(体操)が実名で宮川選手の告発に共感したりコミットしたりする感想を発信しています。
NHKはこうした取材源に積極的にアプローチして、宮川選手が提起した問題を「言った、言わない」で終わらせない意欲的な調査報道を手掛けるよう期待します。
3. NHKは早くから2020年東京オリンピック・パラリンピックに協賛する番組編成や広報を手掛けてきたと私は受け止めています。他方、宮川選手の告発の中には、2020年オリンピックの代表選考、それに向けた強化練習体制等の歪みに触れた点があります。
この際、NHKは2020年オリンピックに協賛する「プレイヤー」的立場を一掃し、「ウオッチヤー」としての立場に徹することがますます重要になっていると考えます。
でなければ、今後、NHKはさまざまな場面でオリンピックにつき、「アクセル」と「ブレーキ」を踏み分ける利益相反――2020オリンピックの祝賀ムードに「水を差す」という配慮が働いて、オリンピック推進の負の側面を取材・報道するのを手控える萎縮効果――に遭遇すると予想します。
今回、宮川選手の問題提起を機に浮上した日本体操協会の宿罪についても、こうした報道萎縮が起こらないよう、強く要望するとともに、視聴者の1人として、NHKの報道をチェックしていきます。
4.会見の最後で宮川選手は次のように訴えました。
「言うことを聞けば優遇され、聞かなければ排除される、権力があればすべて許されてしまうのでしょうか? 女子の体操はすべての判断が言うことを聞くか、聞かないかで決まるんだと思いました。強化本部長のまわりには、言うことを聞く人たちしか存在しないように見えます。」
「言いたくても言えば、何をされるかわからないという理由で声を出せない選手、コーチ、審判の方も多くいらっしゃると思います。私はこれこそ権力を使った暴力だと感じます。」
「みんなが平等な権利を持って納得のいく基準での選考方法、先が描ける具体的なプランなど、一人一人が意見を言える強化体制が存在するべきだと強く感じます。」
「私はまだ18年しか生きていませんが、今、人生の中で一番の勇気を出してここに立っています。」
NHKの中にも、長く日本の体操競技・協会を取材してこられた記者、解説委員の方がおられると思います。皆さんの中には、宮川選手が告発した日本体操協会のパワハラ体質を以前から承知していた方がおられるのではないですか?
宮川選手の告発は他の同僚選手、コーチ、審判などの思いも代弁したものと言えますが、職業としてスポーツ界をウオッチしてきたメディアの皆さんは、ミニ巨悪を見て見ぬふりをしてきたと言われても仕方ありません。
取材対象に感情移入するのは禁物ですが、せめて、18歳の現役選手が勇気を奮って声を上げたこの機会にミニ巨悪の膿をあぶりだす調査取材に精力を傾けられるよう、強く要望します。
醍醐 聰
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7960:180901〕
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