共同体の夢──周回遅れの読書報告(その71)
- 2018年 9月 2日
- 評論・紹介・意見
- 脇野町善造
- 現代社会においては、このことが看過されているのではないか。果たしてそういうものを現代社会は必要としているのか
- つまり、基礎自治体(市町)ではなく、もっと小さな(すなわち「顔が見える」)、しかし家族を超える集団でやらなければならないことが存在するということが地域協議会(自治会、町内会)の存在理由である
- 道普請・川普請、共同で行う生産作業(田植え、稲刈り、衣服造り)。
- * 共同でやったほうがいい作業(家造り、祭り、冠婚葬祭)。
- このために地域協議会構成員(構成家族)はまとまりがいい。
- ヒトの社会は格差の拡大に比例して、宗教的共同体の紐帯の弱さに比例して、まとまりが弱くなる。ヒト(の現代社会)はあまりに格差が拡大し、人間どうしの「結びつき」が極端に希薄になっている。
- 電線をはることが出来ない。
- 無線での発信もできない。
- コンピュータはあるが、すべてスタンド・アローンである。
- 地域協議会の運営費用はある。
数年前に異郷で夢を見た。どうしてあんな夢を見たのか理由は今も分からないが、当時のメモ帳を見るとこう書いてある。「人間と同じ姿格好をしているが、大きさは人間の10分の1くらいしかない『借り暮らし族』という種族がいる。その種族と思しき少年と出会い、話をした夢を見た。詳しくはPCを見よ」。最近になってこのことを思い出して、PCのなかをあちこちと探したが、見つかったのは、去年の8月に作った次のメモだけである。
長いメモだが、全文を掲げておきたい(そのため、今回はいつもより長くなる)。
借り暮らし族の共同体
・家族単位の生活が基本(ヒトと同じ)
・家族を形成しない者(独身者、未婚の子連れ者を含む)の取り扱い
→ 子を持ったもの、満30歳に到達したものは、すべて「家族」とみなす
・地域協議会は個人ではなく家族代表で構成される(自治会と類似)
・地域協議会での協議事項
→ 地域協議会の運営にかかる費用とその分担方法
→ 社会的弱者(疾病障碍者、高齢者、未婚の子連れ、あるいは妊娠中)等の援助(そのための施設─病院など─の維持・運営にかかることを含む)
→ 子供たちの教育にかかること(集団的教育が必要という考え)
→ 規範の取り決めと、規範を犯した者の懲罰および懲罰のための施設の維持にかかること
→ 祭り
→ 共同行事(旅行その他)
なお、ゴミ出し(各家庭で対処)、社会インフラ(「借り暮らし」であり、生産活動を行わないことから、原則として不要)、外交・国防(「国」という概念がない)は協議事項ではない
・ここから見えてくる協議会の存在理由
少なくとも地方自治体(借り暮らし族にはそんなものはそもそも存在しない)の下請け機関ではない。家族だけでは実行不可能で、どうしても地域共同体でやらなければならないことがある。地域協議会はそのための機関である
→ 地域協議会で協議し、決定した事柄を家族単位で実施
協議会しかなかったとしたら、何が協議会の課題となるかを考えればいい
「借り暮らし族」は生産活動を行わないが、仮に生産活動を行うとしたら、どのようなことが協議会での協議事項となるか
借り暮らし族の社会の特徴(ヒトの社会との対比)
・最大の特徴は「格差のない社会」であること
・長寿である(平均年齢は170歳、成人年齢は30歳、妊娠期間は2年)
・生まれてすぐに歩ける(「おむつ」をするのは高齢者のみ)
・原則としてアナログ社会である。
印刷物(新聞と手紙を含む)はあるが、有線無線を問わず、それ以外の通信はない。
これで困ることはない。情報の発信速度を競うヒトの社会のほうがおかしい
・「国」という概念はない
したがって、「国の統治者」はいない(いるのは地域協議会の代表だけ)
また出入国審査も関税もない
国に治める税金というものもない
・言語は二重言語
借り暮らし族語(借り暮らし族の世界共通語)とヒトの社会の地方的な言葉(日本語など)の二つの言語を話せる
「夢」を書いただけのことである。この「夢」についてのメモを思い出した直後に、メアリー・ノートン『床下の小人たち』と言う本を見つけた。これが異郷で見た夢の原型らしい。古い本だが、面白く読んだ。しかし「借り暮らし族」の「共同体」のことなど、全く出てこなかった。「借り暮らし族」は類的存在ではないのだろうか。しかし、もし「借り暮らし族」が類的存在で、共同体があるとしたら、上記の「夢」に近いものとなっているのではないか。また「借り暮らし族」が生産活動を行うとしても(そうなれば、ヒトの社会と変わることはなくなるが)、社会インフラの整備とその費用の負担のことが地域協議会の協議事項となるだけで、他には大きな差はないかもしれない。そんな気がしてならない。
メアリー・ノートン『床下の小人たち』(岩波少年文庫、1956年)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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