日本気象学会理事長の弁明?!
- 2011年 4月 14日
- 評論・紹介・意見
- 日本気象学会近藤邦明
No.561(2011/04/03)原発事故と日本気象学会で紹介した日本気象学会理事長名の3月18日付の日本気象学会員に対する事実上の研究制限の指示を行った通達文章に対して、非難が集中しました。これに驚いたのか、同じく理事長名で3月18日付の文章に対する弁明の文章が公開されました。少し長くなりますが、そのまま紹介します。
日本気象学会理事長新野宏の弁明は論理的にまったく納得できるものではありません。
御承知のように、槌田敦氏と私は気温と大気中CO2濃度の二者関係について観測データを分析した結果、気温の変動によって大気中のCO2濃度が変動することを観測事実で示し、これを二編の論文にまとめて日本気象学会誌「天気」に投稿しております。しかし、気象学会誌編集委員会は数値モデルによるコンピューター・シミュレーションを唯一の根拠としている人為的CO2地球温暖化仮説を正しいものと主張し、彼らの主張に合わないから私たちの観測事実に基づく論文は気象学会誌に掲載するに値しないとしています。
彼らは観測事実の分析以上に彼らの数値モデルのシミュレーションの方がより真実に近いと主張しているのです。その組織のトップである新野宏は、彼らのモデルに対して『・・・大気運動のカオス的振る舞いに起因する気象場予測の不確定性の問題があり、最先端の大気科学を以ってしても大変困難な課題です。』だというのです。これは一体どういうことでしょうか!?
数値計算に少しでも関わっている方ならお分かりでしょうが、モデルの対象空間領域の大きさ、追跡時間のスパンが大きいほど、シミュレーションの精度は急速に悪化するものです。百年先の全地球的な規模の気候予測が可能だと日頃言っている気象学会が、原発周辺の限られた領域における僅か数日の予測シミュレーションは難しすぎて手に負えないといっているわけです。これは論理的にありえない話です。
新野は『・・・しかしながら、放射性物質の拡散に関しては、これら以外の複雑な過程に関しても・・・』といいますが、拡散シミュレーションでは、拡散するものは放射性物質であろうが煙の粒子であろうが構わないのではないですか?これら以外の複雑な過程とは一体何なのでしょうか??
私は数値モデルによるコンピューター・シミュレーションで百年先の気候予測を行うことは無謀であり、とても信頼できるとは考えていませんが、原発周辺の限られた領域の数日間程度の時間スパンの放射性物質の拡散問題であれば実用上十分な精度で予測可能だと考えます。
いずれにしても前回の通達において、福島原発の放射性物質の拡散に対する研究の自粛を指示した事はどのように弁明しても学問・研究の自由の侵害行為であることは明らかです。勿論、国民に対する避難指示などを行うのは国の専権事項であって、その根拠は政府による統一見解に基づいてなされるのは当然ですが、統一見解を決定するためには多様な検討こそ必要であり、そこに日本気象学会員の自由な研究が保障されることが必要なのだと考えます。SPEEDIによる単一の検討だけを用いるというのはむしろ非常に危険な判断です。重大な問題であればあるほど複数の手法やプログラムによって多角的に検討することで信頼性が高まると考えるのが科学的・合理的な判断だと考えます。
いくら弁明したところで、前回の研究自粛の指示は国ないし気象庁の意向を新野が代弁して気象学会員の自由な研究活動を制限するために出したものであると考える以外に合理的な解釈は無いと考えます。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0419:110414〕
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