外務省条約課・国際法課と交わしたやりとりメモ~元徴用工の賠償請求について~
- 2018年 11月 14日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2018年11月12日
今日の14時20分頃、件名のことで外務省の代表番号に電話したところ、北東アジア課→条約課→国際法課、と3つ課の担当職員と延べ約30分間やりとりする結果になった。
以下は、中身のやりとりをした2つの課の応対者との問答メモである。
(醍醐) 外務省ですね。日本政府は(韓国最高裁が下した)元徴用工の賠償請求判決について「国際法に明確に違反している。毅然と対処する」と発言しています。政府が言う「国際法」とは何を指すのか、マスコミは伝えていないのでわかりません。それを教えてほしくて電話しました。
(代表) お待ちください。
(北東アジア課) 北東アジア課ですが。
(醍醐) <先ほどの用件の繰り返し> 政府が言う「国際法とは何を指しているのですか?
(北東アジア課)その件でしたら、私どもではなく、条約課ですので、そちらに回します。
条約課とのやりとり
(条約課) 韓国の最高裁で判決が確定した時点で、(1965年の)日韓請求権協定に違反する状態になったので、政府としてそのような発言をしています。
(醍醐)とすると、政府が言う「国際法」とは1965年の日韓協定を指しているということですか?
(条約課) そうです。
(醍醐) 「国際法」というと、多国間の法のことかと思ったのですが、そうではなくて、日韓2国間の協定のことなのですね?
(条約課) そうです。
(醍醐) その点は、外務省の理解は事実としては分かりました。
他方、外務省は1990年頃、国会で、日韓協定で国の外交保護権は消滅したが、個人の賠償請求を消滅させたものではないと複数回、答弁しています。たとえば柳井(俊二)さんは伊東秀子議員、土井たか子議員の質問に対して、そのように答弁されています。
そうした外務省の国会答弁と今回の政府発言は、どのような関係になるのですか?
(条約課)その点はこの課ではなく、国際法課になりますので、回します。
<国際法課に転送される>
国際法課とのやりとり
(醍醐)<上と同じ質問>
(国際法課) 日韓協定で完全かつ最終的に解決済みということです。外交保護権と個人の請求権に関する解釈は、お話しのとおりですが、個人の請求権も含めて解決済みということです。
(醍醐) しかし、外交保護権は消滅したとしても、今回の裁判は韓国の個人と日本の企業間の争いです。とすれば、個人の賠償請求権は消滅していないと言いながら、解決済みというのでは一貫しないと思いますが。
(国際法課)個人は裁判所に訴えることはできても「出口」はなくなっているということです。
(醍醐)「出口」? 出口がなくなっているようなら、請求権がないのも同然で、無理な解釈ではないですか?
日本政府は韓国政府に対して善処をと言っていますが、韓国政府に対して、司法当局に働きかけを求めるような発言は韓国での三権分立を否定するに等しく、おかしな発言ですよ。
(国際法課)おっしゃっている意味は分かりますが・・・
(醍醐)河野外務大臣はずいぶん、強気の発言をされていますが、大丈夫なんですか? 専門の職員の方からご覧になって、どう思われますか?
(国際法課)・・・・
(醍醐)政府は賠償請求を受ける日本企業を集めて、説明会を開き、請求に応じるな、と言っていますが、それこそ、日本企業に対して、消滅したはずの外交保護権を使っていることになりませんか?
(国際法課)それは外務省ではなく、政府がやっていることなので・・・・
(醍醐)最後ですが、そちら様のお名前を教えていただけませんか? 私も名前を伝えますので。
(国際法課)名前は伝えないことになっていますので。
(醍醐)そうですか、ありがとうございました。
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強気に反して拠り所を欠いた日本政府の対韓逆切れの言動
「国際法に反する」と日本政府が連日、声高に発言するので、何か具体的な「国際法」があるのかと確かめたら、1965年の日韓協定のことだった。それなら、あえて「国際法」と語らなくても済む話である。
私の一番の関心事だった、日韓請求権協定で個人の賠償請求権まで消滅したわけではないというこれまでの外務省の国会答弁と、政府がいう「国際法違反」は、どうつながるのか、について、外務省の担当課の説明は結局、「日韓協定で完全かつ最終的に解決済み」という空回りの説明だけだった。
これでは、日韓請求権協定で個人の賠償請求権まで消滅したわけではない、という外務省の見解と全くつじつまが合わない。
政府の強気の発言に追随する日本のマスコミ
日本のマスコミは、今回の韓国最高裁(大審院)の判決を受けて、連日、「韓国大統領府 沈黙 元徴用工判決 対応に苦慮」(『朝日新聞』2018年11月4;「韓国政府 対応に苦慮」(『東京新聞』2018年11月1日;「韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更」『『毎日新聞』2018年10月31日、社説、などと韓国政府の状況を伝えている。
これまでの韓国政府の対応を辿ると、そのような状況があることは間違いない。
しかし、それなら、日本政府の自信満々の発言に確たる根拠があるのか・・・・この点を日本のマスコミはなぜ検証し、真相を伝えないのか?
そもそも、今回の裁判は、韓国の個人と日本の企業の間で争われた事件であって、国と国の係争ではない。
そのような基礎的事実を国家間の係争かのようにすり替えて、強気の発言を繰り返す自国政府の対応に引きずられるように、追随する日本のマスコミに「自立」した報道は見る影もない。
こうした日本のマスコミの政権追随報道を正すのは、日本の市民の務めである。
初出;醍醐聡のブログから許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye4481:181114〕
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