来年2月が最初の正念場? 貿易、華為、米中新冷戦の2戦線
- 2018年 12月 13日
- 時代をみる
- 中国田畑光永貿易戦争
新・管見中国(41)
さる1日、南半球のブエノスアイレスで米中首脳会談が開かれたその日に、北半球のバンクーバーでは中国の通信機器トップメーカー「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の長女で、同社の副会長兼最高財務責任者(CFO)を務める孟晩秋女史が、米の要請を受けたカナダ警察の手によって逮捕された。
あまりの符節の合いように驚くばかりだが、この逮捕劇を米側のボルトン補佐官(安全保障担当)は知っていたことをメディアに公言し、トランプ大統領については「大統領はなんでも知っているとは限らない」と知らなかったことをほのめかした。
首脳会談については、7日の本欄で検討したので、今回はこの孟晩秋事件について考えることにする。
前回も紹介したように華為は中国政府がもっとも力を入れている技術革新(イノベーション)の分野でのリーディング・カンパニーである。1987年創立だから、社歴は古いとは言えないが、創業者の任正非氏は軍出身で、当然のことながら党政府の要路との関係は深い。現在、170か国と取引があり、中国の民営企業売上ランキングの1位を占めている。
通信基地局の世界シェアでも同社は27.9%を占めて1位。2位がスウェーデンのエリクソン(26.6%)、3位フィンランドのノキア(23.3%)、4位には今年、イラン制裁違反で米司法省から手痛い処分を受けてひん死の状態に陥った中国の「中興通訊(ZTE)」の13%と続く。
スマホの世界シェアでは韓国のサムスンに次ぐ世界2位、米アップルを3位に従えている。というわけで華為は目前に迫ったITの5G世代に向けて世界の覇者の座をねらう位置にある。
それだけに中国を今や最大の対立相手と見る米にとっては、なんとかその鼻柱をへし折ってやりたい相手である。しかも華為にしろ、中興にしろ、製品の基幹部品の半導体などはクアルコムなど米企業の供給を受けている。華為が米企業から購入する部品は年間18憶ドルにも達すると言われている。米の技術にたよりながら、巨大な国内市場と低コストを武器に世界の至るところへ触手を伸ばしてゆく華為は、米にとってはなんとも小癪な存在であるはずだ。
米が貿易赤字縮減に名を借りて、来年2月いっぱいまでの90日間に協議をまとめる5項目の中の1,2に掲げた「米企業への技術移転の強要」禁止、「知的財産権の保護」はまさに華為、中興などを念頭に置いている。
とはいえ、その華為の最高幹部を第3国で逮捕するとはずいぶん乱暴な話である。もっとも米はだいぶ前から華為の財務責任者を、米が制裁対象としているイランと取引をしながら米金融機関に虚偽の説明をしていたとして、詐欺罪で逮捕する構えでいたといわれる。しかし、華為側がそれを察知して、孟女史も米に入国しなかったため、カナダに逮捕を要請したのだそうだが、事前の聴取も捜査もなしに、いきなり中国社会のセレブの星を手錠、足かせで逮捕というのは、米の憤懣のはけ口と同時に中国にもそれを目に見える形で突きつける政治的効果を狙ったのではないかとさえ思える。
当然、中国政府は怒った。米、カナダ両国の大使に強硬な抗議を突きつけると同時に孟女史の釈放を要求したばかりでなく、北京に在勤したことのあるカナダの元外交官を逮捕する挙にでた。容疑内容が明らかにされていないので、事情が分からないのだが、孟女史の保釈の後、すぐに釈放されるようだと報復逮捕の疑いが持ちがる。
その孟女史はバンクーバーの裁判所での3回の聴聞を経て、11日、逮捕から11日ぶりに保釈が認められた。保釈金は1000万カナダドル(約8億5000万円)、同女史がバンクーバーに持つ自宅で暮らせるが、夜間は外出禁止、パスポートは押収、本人にはGPSを使った追跡装置を付けるという条件とのこと。
しかし、まだまだ一件落着とは程遠く、この後はカナダ・米両国の当局間で、本人を米に引き渡すかどうかの話し合いが行われ、結論が出るのは来年の2月頃との由、そしてその頃は米中の貿易協議も大詰めを迎えているはずだ。
しかも、米CNNの報道によれば、孟女史の保釈決定を受けて11日、この件に介入する気があるかどうかを問われた米トランプ大統領は「国家にとって有利なら、それもする」と答えたそうである。
珍しい答えである。こういう場合、司法の問題だから政府が介入することはないと(嘘でも)答えるのが、政治家の常識だが、ご本人はそういう常識とは無関係のようで、つい本音が出たのであろう。そうなると、貿易と先端技術と2つの戦線がないまぜとなって大会戦が展開されることになる。
しかも3月は中国では全国人民代表大会が開かれる政治の季節である。それを前に習近平政権も国民に弱い姿は見せられない。来年の2月、3月、太平洋をはさんで、どんな春がくることやら。
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