セルビアにおける「リベラリズム」=大使館政治――アメリカ大使の自省的述懐――
- 2019年 1月 9日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
最後の駐ユーゴスラヴィア大使W.モンゴメリー著『民主的移行闘争』(2010年、ベオグラード)は、紹介に値する注目すべき内容を有する。去年の10月末日にベオグラードの書店見本市でその英語版を入手出来たので、セルビア語版と対照でき、安心して紹介できる。両書は、ベオグラードのDangraf社から同じ年に出版されている。英語版500部、セルビア語版1000部である。アメリカで出版されているのか否か、確認していない。
W.モンゴメリーはその序文で以下のように記す。
――私の外交官生活において、三つの権威主義レジームの崩壊、そしてスロボダン・ミロシェヴィチの逮捕とハーグへの移送を目撃し、また何等かの形でそれに参画する特権にあずかった。
――これら異なる状況におけるきつい体験を通して私が学んだ事は、タイミングが正しければ権威主義的で不人気なレジームを打倒する事は、比較的に容易だと言う事だ。
――デイトン和平協定を仲介する為の我々によるボスニアへの介入(1995年8月31日から約2週間 ボスニア・セルビア人軍に対する空爆作戦:岩田)、1999年のNATOによるコソヴォ(とセルビア:岩田)空爆作戦、2000年のミロシェヴィチ(セルビア大統領:岩田)打倒、2002年におけるタリバンに対する勝利、2003年におけるイラクのサダム・フセイン体制終焉、それらに共通する要素は、「使命完遂」なる誇らかなる宣言である。(英語版p.13)
――本書は、ミロシェヴィチが権力から転落する動乱期セルビアとモンテネグロの完全な歴史書ではない。セルビアとモンテネグロ、2000-2004年の時期における私の役割とアメリカ政府の役割を記述する。そこにおける民主主義と競争的市場経済へ移行する闘争とその高揚と低調を記す。これは、その闘争の実行と試行にもっとも責任のあった人達の一人による現場から見た「恒例の整理」である。
――我々が良くも悪しくも諸事件の形成に助力し、影響を与え、それ故にこれらの国々の運命を形成し、影響した事は疑いない。但し、我々は、自分自身の――セルビア/モンテネグロのそれとは異なる――優先順位を持ち込んだ。情況の複雑性の不完全な理解があり、若干の誤れる想定、そして結果を求める短気があった。
――私がブタペストの「ユーゴスラヴィア問題事務所」を指導する任務を引き受けて以来十年余が経った。疑いなく、多くの進歩がこの時期になされた。・・・・・・。しかしまた、そのコストも大きかった。それは、外交の高みから見れば、「レーダー画面」に全く映らないか、それに近い状態だ。しかしながら、塹壕からは大変違って見える。闘争は終わってなんかいない。我々が今日直面している諸問題の多くは、事実、我々自身がとった、あるいは脆弱な民主政志向政府に我々が圧力をかけてとらせた諸活動の結果なのである。(p.15)
W・モンゴメリーはその結論の末尾に以下のように記す。
――結局の所、外部によって勇気付けられる、あるいは外部によって実行されるような社会変革プロセスは、我々の誰もが信じていたよりもはるかにはるかに困難である。そのような事をなそうと試みることにすら、従来そうであったよりもはるかに高い障壁を設ける必要がある。(p.185)
このように自分達アメリカ外交官が他国民と他国社会に対して「最高の善意」から為した政治的・社会的実践活動を自己批判的に総括した最後の駐ユーゴスラヴィア大使は、更なる栄転のチャンスをふって、2004年2月に外交官生活30有余年を閉じる。
――夏の盛り(2003年:岩田)、ジェリー・ブレマーJerry Bremer、新任のイラク首席行政官Head Administrator in Iraqから電話があった。私が彼の副官の一人として至急イラクに来るように望んだ。・・・・・・。・・・。自分がそこで有効な仕事が出来るとは思えない、その地域で働いたことがなかったし、人々も習慣も全く知らないし、言葉も話せない。そう答えた。彼はすべて承知していると言った。更にまた、私が諸NGOや諸市民団体を立ち上げ、民主的移行を前へ進める事にキャリアーの大部分を使って来たことを承知している。それこそイラクが必要としているのだと言った。・・・・・・。はるかに有利な諸条件の下にあるセルビアで前に進むことが如何に困難であったかを一人考えた。そしてイラクではおそらく不可能だと確信した。・・・・・・。翌日、ことわりの電話をいれた。(p.172)
平成31年1月8日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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