自治会総会の季節がやってくる~自治会の法人化は何をもたらすか
- 2019年 3月 17日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
私の住む町内の自治会の総会は、いつもは四月に入っての日曜日なのだが、地方選挙もあってか、まさに年度末の3月31日に開催となった。その回覧板のリストから、お隣さんの欄に線が引かれていた。退会らしい。昨年は、東のお隣さんが退会している。寂しい限り。私たちの班は、現在、何世帯になってしまったのか。私が役員をやっていたころは、たしか22世帯であった。世帯の多い班は、回覧板を二手か三手に分けていた。自治会全員の会員名簿は、2・3年に1度は発行していたが、2005年個人情報保護法施行後は中止した。なので、現在は、自分の班の世帯数も把握できない状態だ。昨年、法人化されたので、役員執行部には、家族会員を含めた会員名簿が集約され、市役所にも提出されているはずだ。
昨年、ご近所の友人から相談を受けた。お連れ合いを亡くされ、ひとり暮らしの彼女は、法人化にあたって、自治会への名簿提出の際、ひとり暮らしということも、年齢もわかってしまうので、書きたくない、でも自治会には入っていたい。やめたら回覧板とか来なくなるのでしょ?」と心配していた。私は、自治会を退会するよりは、名前だけは、仕方ないので書いて、年齢は不記入でもいいはず。自治会にとどまってはと、答えたのだった。名簿は役員限りといっても、役員は年々替わるし、名簿の類はいつ、どこで漏えいされるか予測がつかない時代なので、個人情報は最小限度でいいのではないかと思っている。
これまでは、世帯主の名前と高齢者や要介護者がいる場合は申告によって、その人数が班長によって確認されていた。法人化されると、自治会員は、赤ちゃんまでが対象になるから、世帯全員の名前を書類で登録することを勧められる。何しろ対象区域内の全人口の3分の2をクリアするのが法人化の要件なのだ。2017年、法人化のための臨時総会が開かれた時も、世帯のプライバシーは、どう保護されるのかが問題になった。ある出席者は、子どもの名前まで書かせるのはおかしいのではないか、との疑問を投げかけていた。また、意思表示ができない子どもまで自治会員として議決権を与えるのはおかしいのではないか、という疑問もある。法人化を推進している市役所の担当課も総務省の住民制度課も、民法上、親権者が替わって意思表示できるから問題はないという。もちろん、子どもの名前を、自治会員としての名簿に登録しない選択はできるが、自治会の執行部は、ひたすら「協力」を呼び掛け、会員にならないと、会員としての利益は受けられない、みたいなことも言う。隣接の自治会の知人からは、もう決まったことなのだから、家族全員の名前を書くか、自治会を辞めるかどちらかだと迫られた、という話も聞いている。
では、こうして、法人化された自治会のメリットは何なのだろう。強調されるのは、家族内、とくに夫婦や世代の違いで意見が異なる場合でも、その意思表示を議決に反映できる、自治会名で不動産登記ができる、住民であれば入会を拒めない点などである。
さらに、都市部を離れると、入会地などの共同使用の山林を持つ集落の不動産登記などで明確化されることもあり、自治会執行部の恣意によって特定の住民を排除したり、村八分のような状況を避けたりできるという点で意味はあるかもしれない。
しかし、私が一番不安に思うのは、家族まで会員にして、その議決権を個人単位で行使できるというのは、あくまで建前というより擬制であって、多くの世帯では、世帯主が家族の会員分を束ねて、議決権行使を代行しているのが実態ではないか。となると、家族会員分の複数の議決権を一人の意思で行使できることになり、その結果としての議決は、多数票が複数倍となることで、圧倒的な多数の議決になってしまう。ということは、多くの場合、役員執行部提案の議決などは、総会などに参加せずにいわば議論を経ないままの書類による議決権行使によって、あらかじめ趨勢が決まってしまうだろう。いわば「執行部へお任せ」に陥りやすく、総会などの議論の場の形骸化を招いてしまわないか。
そして、さらに、私たちの自治会の規約のように、議決権を行使しない世帯の議決は、議長委任となると、圧倒的多数のさらなる強化になり、少数票は埋没してしまう。地域での決めごとにおける、議論の大切さや少数意見の尊重という理念はどこかに吹っ飛んでしまい、自治会自体への無関心を助長することになるだろう。この件については、私も一会員として、役員会に意見書を提出しているが、議論された形跡や報告もない。
自治会からの退会者が増えるのは、高齢化により、班長の持ち回りや町内の一斉清掃、自治会館清掃、会費などが負担になるという理由も確かにあるだろうが、法人化による名簿の提出とその管理への不安や少数意見の切り捨てへの反発があるからではないか。現に、退会者の一人は、自分の意見や賛否がカウントされていない報告がなされていたと怒っていたのを思い出す。これからは、前述のような、めぐりめぐっての無関心層が増えていくのではないか。 法人化も、コミュニティ形成の基本を見失うと、コミュニティの崩壊にもつながりかねないと心配している。
3・11の前後には、災害や事故の防災や減災が叫ばれ、公助は当てにできないから、自助や共助が大事と行政はいつも逃げ腰だが、顔の見えるコミュニティが、今こそ、必要なのではないか。
なお、当ブログへのアクセス順位のトップは、この一年、変わらず、下記の自治会法人化の記事(2017年7月13日)であった。それに続くのが、社協や日赤、消防団への自治会の寄付を扱った記事なのである。私も不安要素がいっぱいな自治会のゆくえが心配になってくる。当ブログ閲覧の方々も各地で、悩まれているのだろうな、と思う。
ご意見やお住いの地域での自治会の実態をご教示いただけたら幸いである。
<参考>
◇自治会の法人化って、そのメリットは、デメリットは~自治の力を弱めないか(2017年7月13日) http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/07/post-3373-1.html
◇自治会の法人化について~総務省に尋ねました(2017年7月15日http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/07/post-20c9.html
◇自治会総会に出席、ふたたび自治会の法人化について(2018年4月2日) http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2018/04/post-9356.html
初出:「内野光子のブログ」2019.03.14より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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