知的障害あるAさん普通高校へ
- 2019年 3月 18日
- 評論・紹介・意見
- 石川愛子
去る3月1日、Aさん(ダウン症)、の高校入試合格の朗報が入った。第1希望の都立工芸高校定時制で、本人もお母さんも喜びはひとしおだった。
Aさんは東京都下の市在住で、小学校入学の際教育委員会との交渉など、私も所属していた「障害者の教育権を実現する会」が支援して、普通小学校に入学した。
高校入学には入試があるから、これまでのようにはいかない。お母さんも悩まれ当初は、特別支援学校に属する高等特別支援学校の受験も考えられた。東京都では障害があっても普通高校で学んでいる生徒も少なくない。「障害児も都立高校へ連絡協議会」の長年の運動蓄積もあって、知的障害ある子の場合でも定員割れ等があれば入学できるので、定時制高校への入学は可能であること等もお知らせした。
時期としては、ぎりぎりだったがその運動に長いこと取り組んでこられた北村小夜さんに相談し、会合にも参加され、知的障害があっても普通高校で学ばせてこられた親御さんとも知り合われた。
それまでずっとダウン症のわが子も健常な子の中で育てたいと小学校・中学校と考え、実行されてきたお母さんは、娘さんとともにいろいろ見学もされたうえで、最終的に高等支援学校でなく、都立の定時制高校を選択された。中学の先生は、アドバイスをくれるどころか都立高受験と聞いて驚いて、入ってから単位をとれず進級も無理などいうばかりで、否定的だった。
第1希望を決めてからの親子の勉強はたいへんだっと思うが、定員割れでもないのに、この結果はすばらしい!
「障害児も都立高校へ連絡協議会」によると、2019年度入試の結果8人以上の生徒の都立高校合格が決まったという。
法律はどうなっているのか
日本国憲法で「教育を受ける権利」は保障され、その権利は子どもにあるのだから、どこで学ぶかは親(本来的には本人)が決定できることである。権利とは、それを行使するもしないも、どこで行使するかも本人に有するものである(結婚する権利、投票する権利を思い浮かべてもらうとわかりやすい)。
また、日本も2014年に批准した国連の「障害者権利条約」、に照らしても、それに基づいて改訂された「障害者基本法」(2016年)においても「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を有するかけがえの個人として尊重されるとの理念にのっとり、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら、共生する社会を実現するため……」と第1条に掲げられている。また「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(差別解消法、2016年)に於いても、内閣府からの啓発リーフレットに「この法律は、障害のある人もない人も、互いに、その人らしさを認め合いながら、共に生きる社会をつくることを目指しています」とし、不当な差別的取扱い例として、「学校の受験や入学を拒否すること」も挙げられている。
ところが、現実は、特別支援学校が増え、ますます分けられる教育ばかりが目立っている。普通小中学校で学ばせることの大変さや、あるいは知らなくて、親御さんが、そちらを選択できなくなっているのだと思う。普通小中学校で学べることの啓発や受け入れ体制の充実が望まれる。
障害学生・生徒への支援――国会答弁から
たまたま、NHKの国会中継(3月13日)を見ていたら、参議院の予算委員会で、公明党の佐々木さやか議員の質問に、浮嶋智子文部科学副大臣(内閣府副大臣、高校教育担当)が答えていた。
「高等学校に於いて、障害ある生徒一人一人に光をあて、誰一人置き去りにすることなく、適切な指導をし、必要な支援を受けられるようにすることは、たいへん重要であると認識しています。文科省としては来年度から、高校の通級指導を制度化しまして、教員定数の加配の措置、指導専門性を高めるためのモデル事業の実施、…中略…。今後とも障害ある生徒とない生徒がともに学ぶとりくみをしっかりとすすめていきたい」
また、柴山昌彦文部科学大臣も大学での障害学生の学びに関して次のように答えている。
「障害の有無にかかわらず、すべての学生がその意欲と能力に応じて学べる機会を作ることは重要と考えている。障害学生の相談窓口などの支援体制づくりは95%やっているが、実際に授業などの支援などは63%位にとどまっている。…中略…今後とも合理的配慮の提供など啓発につとめたい」
法にのっとった立派な回答をされているが現実とはギャップもありすぎることを、ご存知ないのだろうか。
質問された議員は小中学校の障害児教育に問題ないと思っておられるのか知らぬのか、高校・大学での問題しか出されなかったが、義務教育場面でも問題は尽きない。未だに、みんなといっしょに遠足に行くために付き添いを迫られる親御さん(Aさんのばあいも)、日々の排泄介助を迫られてる親御さんもいるのである。しっかり合理的配慮がされるよう、文科省は指導し、予算もしっかりとって、体制づくりにつとめてほしい。
私たちも、我が国の立派な法を、絵に描いた餅にせぬよう活かしていきたいものと思う。
〈参考文献〉
『障害児が地域校に学ぶとき―新マニュアル障害児の学校選択』野村みどり・宮永潔、社会評論社
『マニュアル 障害児が普通学級に入ったら読む本』石川愛子・宮永潔、社会評論社
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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