「トランプ再選」のカギ握るか - 「Z世代」の時代が始まった 党派またいだリベラル傾斜 -
- 2019年 4月 8日
- 時代をみる
- アメリカ金子敦郎
米国ではスマホで育ったZ世代と呼ばれる若者が大きな発言力を持ち始めていることに注目が寄せられている。彼らは「Z世代」と名付けられ、それまでの世代と比べて、社会や政治の問題についてはるかにリベラルで、行動力にも富んでいる。民族・人種、性的少数派などの問題では党派を超えて多様性の支持者が多く、政党支持では民主党寄り。トランプ大統領支持は30%と低い。1年半後の大統領選挙までには、Z世代の有権者数は増える一方、トランプ支持率が高い高齢者の数は自然減をたどる。Z世代はトランプ再選阻止・政権奪還を目指す民主党を後押しするのか。トランプ大統領再選を左右する存在になる可能性を秘めている。
各種の世論調査によれば、米国では高齢者の世代ほど保守的で、共和党支持が強い。これに対して若い世代ほどリベラルで、民主党支持者が多い。特にこれまでの最も若い世代である「新世紀世代」(1981ー96年生まれ、年齢は2019年初現在で23-38歳)は民主党支持の中核を形成、昨年の中間選挙で民主党が下院の多数派奪還の原動力になった。「Z世代」はこの「新世紀世代」よりもさらにリベラル色が強いとされている。
ジャーナリスト、政治学者、社会学者の間で、2年ほど前から「新世紀世代」に代わる新しい世代が生まれているとの議論が交わされてきた。社会・政治問題や人口動態に関する調査機関であるPEW調査センターは2018年、13∼-17歳の少年・少女920人、18歳以上の成人11,00人(概数)を対象にオンライン調査を実施,その結果を2019年初めに公表するとともに、「新世紀世代」は1996生まれまでと区切り、1997年以降の生まれを「Z世代」と名付けた。
歴史を見ると、それぞれの時代にはその時代の特徴を反映した世代が形成される。米国
ではこうした時代の変遷をとらえて、第2次世界大戦の前夜から現在にいたる約90 年の流れを以下のような世代分けで説明してきた。そして今、「新世紀世代」に代わって「Z世代」が若者の代表として登場した。
▽沈黙の世代(1928-45年):2019年初現在で74∼91歳。国家(時代)の要請に従って黙々(silent)と戦場に向かった世代。
▽ベビーブーマー世代(1946-64年):55∼73歳。戦争終結で将兵が帰国、多数の子どもが生まれた(ベビーブーム)。テレビ時代が始まり、家族が長時間テレビに釘付けになり、椅子やソファーがそれまでより3∼4倍も早く壊れたと話題に。
▽Ⅹ世代(1965-80年):39∼54歳。公民権運動(黒人差別反対・平等)とベトナム反戦運動が一体化して、大学キャンパスや大都市をデモが覆い、若者の間に「カウンターカルチャー」(対抗文化)が広がり、米国の政治と社会が混乱と混迷に陥った。Xはそれの表現。
▽新世紀世代(1981-96年):23∼38歳。Ⅹ世代に続くY世代、あるいは「9:11テロ世代」とする主張もあったが、冷戦が終結し21世紀という新たな時代への希望を背負った世代と名付けることに落ち着いた。ベビーブーマーやX世代と違って、インターネット時代にすぐ適応した。社会問題に対する関心は前の世代より高く、リベラル寄りだ。
以上の4世代と、新世紀世代を継ぐZ世代が、どう違っているのか、PEWセンターの調査結果の一部を紹介する。
共和党にもリベラル支持
この調査結果を見ると、X世代を中間点として、右側に保守寄りのベビーブーマー世代と沈黙世代が位置。共和党支持層と重なっていると思われる。左側の新世代とZ世代がリベラル寄りで、こちらは民主党支持層と思われる。しかし、調査によると、この分布は必ずしも共和、民主両党への支持とぴたり重なっているわけでもない。一例をあげると、カトリック信者で共和党員の家庭に育ったZ世代の女性は、人工中絶を含めて、性や男女問題、あるいは気候変動問題ではほとんど民主党寄りである。分厚い同調査を詳しく分析したニューヨーク・タイムズ紙(2019・1・25)は、Z世代の若者の間では政策面ではっきりとした左(リベラル)への傾斜がみられ、その中には共和党員も相当数含まれていると報じている。
Z世代の行動力
この世代のもう一つの特徴は、行動力に富んでいることだ。2011年秋、富を独占する1%に対して貧困にあえぐ99 %gが「ウォールストリート占拠」を掲げたデモを全米で展開したが、これは一時の花火に終わった。それから7年後の2018年2月、フロリダ州パークランド、M.J.ダグラス高校で19歳の元生徒が半自動小銃を乱射し、生徒や職員17人が死亡、十数人が負傷した。
こうした銃乱射事件が続発しているにも関わらず、全米ライフル協会(NRA)の圧力で政府や議会が必要な対策を怠ってきたことに対して、生徒が抗議に立ち上がった。彼らはZ世代である。全米の高校に呼びかけて1 カ月後に首都ワシントンをはじめ全米3000校以上、18万5000人が参加する「命のための行進」を掲げた抗議行動を実現した。この行動は国際的にも大きな影響を与えた。3月15日に米国をはじめ世界各地で同時に温暖化対策の強化を求めるデモ行動が行われたが、このきっかけはスウェーデンの女子高生が1人で始めた抗議の座り込みだった。
PEW調査の結果はまた、ベビーブーマー世代と沈黙世代という50歳半ば以後の高齢者世代がトランプ大統領の支持層を形成しているものの、人種問題や男女問題でトランプ氏及びその強固な支持層とさえるキリスト教福音派(右派とも呼ばれる)よりは、ずっと穏健な立場をとっていることを示している。
トランプ氏は中東問題で米大使館のエルサレムへの移設、1967戦争で軍事占領したシリア領ゴラン高原にイスラエルの主権を認める宣言、あるいはイランの核開発の制約する国際合意を破棄するなど、中東のさらなる破綻を食い止めてきた国際合意を次々に破り捨ててきた。これはすべて再選を目指して自分の支持基盤を固め直す選挙戦略に一環とみられている。こうした政策は保守派一般が支持しているわけではないとみていい。
Z世代票の行方がカギ
トランプ氏は2016年選挙で各州の人口に応じた選挙人の多数を獲得して当選したが、一般投票の獲得総数ではクリントン候補に300万票もの差をつけられている。再選を確実にするには、共和党右派と「ラストベルト」の白人低所得層の票に、中間層の支持を開拓して上乗せする必要がある。しかし、「ロシア疑惑」に対する司法省特別検察官捜査の焦点、ロシア情報機関の選挙介入との「共謀容疑」は証拠なしとなったが、関連する「司法妨害」については「疑惑」は持ち越しになったままだ。2016年票への上乗せが容易とは思えない。加えて中高年の支持票が自然減の一方、Z世代は6,800万人、総人口の 22%を占め、かつてのベビーブーマー世代に次ぐ大所帯。この票を民主党に抑えられたとすれば、再選が難しくなることは間違いない。
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