井上元東北大総長の研究不正疑惑の解消を要望する会 新着情報 No. 39
- 2019年 4月 10日
- スタディルーム
- 井上合金事件大村泉東北大学
新着情報 No. 39, 2019年4月8日
日本金属学会欧文誌編集委員会は2019年3月25日付で井上明久東北大学元総長の3つの論文撤回を公表した。この論文撤回理由は、「不適切行為」であった。前回の新着情報No.38で、この撤回理由の含蓄を掘り下げた。ここでは、井上元総長の3つの論文の「不適切行為」の詳細と、東北大学に突きつけられている課題を明確にしよう。この新着情報は関連連載記事の第4号である。
[不適切行為の内容]
元学会長ら6氏の「申し入れ」では、撤回措置が講じられた第(1)論文(Mater. Trans., JIM 38 (1997) 749-755)は、直接には不正疑惑がある論文として挙示されていなかった。しかし、この論文もまた「不適切行為」が見られる論文として「撤回」されている。この「不適切行為」とは何か? 学会編集委員会のアナウンスメントでは、井上元総長を筆頭著者とする第(1)論文では、その前年に公表された1996年論文(Mater. Trans., JIM 37 (1996) 99-108)のNd基アモルファスの製作試料外観写真をZr基アモルファスの製作試料外観写真だとして掲げているばかりか、両者の試料直径が異なるキャプションが付いているからだというのである。言い換えると、「金属分野の研究者として、Nd基合金の試料写真とZr基合金の試料写真とを間違えるなど論外だ」ということである。
第(2)論文(Mater. Trans., JIM 40 (1999) 1382-1389)はどうか。撤回基準は同一だが、内容はさらにひどい。上記第(1)論文のZr基アモルファスだと偽った写真に、さらに別の写真を貼り付けて製作試料外観写真だと偽り(二重の改ざん=捏造)、キャプション、本文に記載された製作試料の直径が写真そのものの実測値と一致しない。加えて、本論文の核心は、100%アモルファスの試料を熱処理して第2相として準結晶を析出させ、準結晶の析出度合いに応じて合金の引張破断強度が次第に増加したのち低下することを実証するものだが、その土台となる試料が真実100%アモルファスであったことを示すX線回折図形(Fig.2)、さらには熱処理により現れる第2相が準結晶であることを根拠づけるX線回折図形(Fig.6)そのものは、いずれも第(1)論文のX線回折図と同一なのに、その転載の事実を明示しない無断流用であり、しかも、Fig.6 に異なる熱処理時間が記載されている。その実験条件変更の理由は説明されておらず、かつ析出した第2相について 第(1)論文では微結晶(金属間化合物)としていたものを、第(2)論文では準結晶と変更しているにも拘わらず、その変更理由の説明もない、と言うのである。
第(3)論文(Mater. Trans., JIM 41(2000) 1511-1520)は、米国材料学会機関誌に掲載された論文(J. Mater. R. Vol. 15, Issue 10 October 2000 , pp. 2195-2208)の二重投稿で、タイトルや執筆者名こそ違うものの、結論部分は一言半句同一で「究極の二重投稿」であった。これをオリジナル論文と偽って井上元総長は、自身が編集者を務めた日本金属学会欧文誌当該号に掲載した。これを、元東北大学附置研所長・名誉教授2氏が咎め、一部にデータ改ざん疑惑も含まれることを指摘したのが2010年であった。2012年に日本金属学会欧文誌編集委員会は、この指摘を受け、第(3)論文にオリジナリティはなく、上記J.M.R論文の「二次出版」(二重投稿論文といわずにこのような術語を使った)で掲載に相応しいものではないことを認めた。しかし連絡著著者(井上元東北大総長)が詫びているので「撤回しない」という措置を執った。今回の第(3)論文撤回措置の理由は、その元論文のJ.M.R論文が、雑誌の編集長権限で、多重投稿を理由に撤回され、「二次出版」という以前の日本金属学会そのものの定義が崩壊したことによる。ちなみにこの米国材料学会の決定では、当該J.M.R論文が、別の3つの論文(うち1つは既に二重投稿で撤回済み)データから「自己盗用」を至る所で繰り返していると厳しく指弾されている。)
[東北大学の責任]
このような日本金属学会欧文誌編集委員会の決定は、第(1)、(2)論文の研究不正疑惑を、東北大学が調査委員会内部の「少数意見」を排して、不正認定しなかったことに対して強い反省と審査のやり直しを示唆するものである。学会組織=専門家集団の判定は極めて重いものがある。
朝日新聞記者の質問に答えて、学会に「申し入れ」を行った一人の本間基文東北大学名誉教授(日本金属学会元会長)は、「当然の判断だが、時間がかかりすぎた。私は調査委でも不正を訴えたが、少数意見として報告書に書かれただけで大学側に押し切られた。今まで動かなかった大学の責任は大きい」と述べたという。
また同じくこの「申し入れ」を行った早稲田嘉夫東北大学名誉教授(日本金属学会元会長)は、「もっと早く疑惑解明が進んでいい問題だ。東北大やJST(科学技術振興機構)がどう対応するか注目したい」と言ったという。
さらに井上元総長を同じ研究室で指導した増本健東北大学名誉教授(日本金属学会元会長/東北大学金属材料研究所元所長)は「学会は事なかれ主義だったが,学術的に問題があったことをようやく認めた」と述べたという(朝日新聞2019年3月27日第12版、第29面、宮城版記事、新着情報No.36、参照)。現時点で東北大学は、今回の3論文の日本金属学会欧文誌編集委員会の撤回措置を全く無視している。しかし学術的真理に背を向け続けることが指定国立大学の立場と相容れないのと考えるのは我々だけではないであろう。
初出:「東北フォーラムホームページ 井上[元]総長の研究不正疑惑の解消を要望する会」より許可を得て転載:https://sites.google.com/site/wwwforumtohoku3rd/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1031:190410〕
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