中西進さん、「令和」批判への反論・弁明は、お見苦しい。
- 2019年 4月 14日
- 評論・紹介・意見
- 元号天皇制澤藤統一郎
「世の中は三日見ぬまの桜かな」(寥太)という句がある。
作者の眼前には、満開の桜があるのだろうか。花はすっかり散った葉桜なのだろうか。三日見ぬ間に、花は咲いたのか、散ったのか。どちらとも解することが可能だ。
得意の人生を歩んできた者の眼前には満開の桜が見え、失意の人生を送った者には葉桜の句としか解せないのではなかろうか。句の解釈は、人それぞれである。また、人それぞれの立場やら人生経験が、解釈を決定する者でもあろう。
さて、新元号「令和」である。私は、「令」も「和」も、イヤーな漢字と繰り返し述べてきた。「令」は、命令・法令・勅令・訓令・威令・禁令・軍令・指令・家令・号令・布令…の令を連想する。令とは、権力者から民衆に、お上から下々への命令と、これをひざまずいて受け容れる民衆の様を表すイヤーな漢字。
ところが昨日(4月12日)、これを正反対に解する人物の言が話題となっている。その人の名は中西進。大阪女子大元学長という方。万葉集の講座を東京都内で開いた。令和の「令」は発音が美しいと評価し、「命令」の「令」との指摘は当たらないと説明した。そして、こう言ったと報じられている。
「命令の令との指摘は、こじつけだ。令嬢や令夫人などと同様に、和を形容する意味に取るのが普通だ」と強調した。
この元学長は、「中西進という人が考案者と言われているが、ここにいるのは違う人間だ」とも述べたという。私は、中西進著「万葉の秀歌 上・下」(講談社新書)の愛読者である。中西進という人が令和の考案者だとしたら、実につまらぬことをしたと、興ざめだ。さらに、令和への批判を快しとせず再批判を試みる態度は見苦しい。「裁判官は弁明せず」という法諺がある。その美学を見習うべきだろう。
「令嬢や令夫人などと同様に、和を形容する意味に取るのが普通だ」という言語感覚にはなじめない。それこそ、こじつけではなかろうか。多くの国民は、「令嬢や令夫人や令室」などという言葉とは無縁の生活圏にいる。「令」と出てきたら、「令嬢や令夫人」を連想しろというのが、無理な話だ。
「令和」とならべて、「令」を修飾語、「和」を被修飾語と解して、「令なる和」と読めというのも無理な話。「令嬢・令夫人・令室」など、人や物に付く「令」はともかく、「和」に修飾語が付くとは、普通は思いもよらないのではないか。「令」を修飾語とする令で思いつくのは、「令状」の令であり「巧言令色」の令など。
少なくとも、両様とれることを、一方の解釈だけが正しくて、他を「こじつけ」という尊大さが、元号というものにまつわる雰囲気をよく表している。
さらに、令和の「レイ」は発音が美しいとの評価となると噴飯物である。高村薫は、「「れい」という音も冷たい響きで、長く使いたくなるような明るい語感ではない」と言った。こちらが常識的な言語感覚だろう。
令和のレイからは、冷血、冷酷、怜悧…、確かに冷たい響きしか聞こえてこない。
また、報道では「令和の典拠である万葉集に先行する漢籍「文選」に類似の文章があるとの指摘には『並ぶべくもない。冷静に見ると、万葉集が出典というのはいいと思う』と解説した。」とある。「並ぶべくもない」の意味が不明である。文選が万葉集に並ぶべくもないのか、あるいはその反対なのか。
「万葉の秀歌 上」131~133頁に、「巻五・822」の旅人の歌の解説の中で、中西先生はこう書いている。「旅人は、32首に先だって、漢文で当日の模様を書いて序文としているが、その書き方も中国の王羲之の名篇「蘭亭序」を真似たものであり、華麗な四六文によるものである」と。「蘭亭序」の文中には、「天朗氣清、惠風和暢」という文書があるそうだ。令和はこの真似から採ったか。
また、つとに話題となっているとおり、「文選」中に漢の張衡による「帰田賦」があり、その一節に「於是仲春令月、時和氣清」と「令和」がしっかり出てくるという。「冷静に見ると、万葉集が出典というのはいいと思う」などとがんばっても仕方なかろう。「結局漢籍に行き着くね」と、余裕で破顔一笑してみせればよかったのに。
中西進といえば、大先生。その道の権威である。だから、自分の解釈が正しい、他はこじつけという姿勢が不愉快なのだ。天皇制も権威である。学問上の権威を笠に着て、「令和」批判は間違っていると言うその姿勢こそ、まちがっている。天皇制に対してのものにせよ、元号に対するものにせよ、批判があって当然なのだ。天皇に関わることだから、斯界の権威が言うことだから、と批判を躊躇してはならない。
(2019年4月13日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.4.13より許可を得て転載
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〔opinion8567:190414〕
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