『週刊金曜日』4月15日号特集「広河隆一氏による性暴力・パワハラと『DAYS JAPAN』最終号を考える」Shukan Kinyobi’s special on DAYS JAPAN’s last issue — on photojournalist Hirokawa Ryuichi’s sexual assault and power abuse
- 2019年 4月 14日
- 評論・紹介・意見
- 「ピースフィロソフィー」
4月12日号『週刊金曜日』に、「広河隆一氏による性暴力・パワハラと『DAYS JAPAN』最終号を考える」という特集が出ました。以下の3本の記事で、当ブログの運営人も参加しています。
渡部睦美「扱われなかったパワハラと劣悪な労働環境の問題」
角田由紀子「加害の事実認定なしのまま、なぜ『報告』できるのか」
乗松聡子「広河氏の言いたい放題を許した最終号の責任」
渡部睦美氏の記事で注目の点は、いろいろありますが、敢えて3点挙げると、
★2018年の夏から最終号発行までの時系列が丁寧に示されています。私は前回のブログで、1月20日発売の2月号で、横溝氏含む3人の編集部員が最終号での真相究明への固い決意を語っているのにその3人が全員、最終号編集から除外されているのを、外部から招かれた編集者はなぜ疑問に思わなかったのかと問いました。今回の記事によると、横溝氏の辞任が1月28日。外部編集者が打診を受けたのが1月末。残る2人の編集部員はその後2月7日に退職合意書にサインさせられています。2人の退職は2月末でした。編集部員が辞めたから外部の編集者が招かれたわけではなく、会社にとって都合の悪いことも含め最終号にしっかり真実を書こうとしていた編集部員を排除するプロセスの進行中に、外部の編集者を招き入れていたのです。
★広河氏は数々の「パワハラ」告発にこれまで応答してきていないですが、この記事でも、「突然、怒りを爆発させ怒鳴り声を上げることが日常茶飯事」などいくつもの証言が出ています。デイズジャパンは会社としても12月31日発表のコメントで広河氏のパワハラを認めていますが、今回の金曜日の元スタッフへの取材では、パワハラについての会社の対応は、役員から「広河氏が被害者であるかのような対応をされた」、「役員や上司に相談したが聞く耳を持ってもらえなかった」といった、被害者中心の対応とは言えなかったようです。
★『週刊文春』でライターの田村栄治氏は、1月3&10日号の7人の告発に続き、2月7日号では海外出張先で広河氏に2週間も性暴力を受け、その後も望まぬ性を強いられたり写真やビデオを撮られたりした女性の証言を掲載しました。この被害者について広河氏は沈黙を保ってきましたが、今回初めて金曜日の取材に対し広河氏の代理人は「『週刊文春』2月7日号の記事については、間違いが多くあると考えています。その報告は検証委員会に提出しますので、検証委員会の判断を待ちたいと思っています」と返答しています。広河氏は1月3&10日号で告発した人たちについては「一部は事実」、会社は「おおむね事実である」と認めています(1月16日毎日新聞配信)が、この2月7日号の被害者証言について広河氏は初めて、「間違いが多くある」という踏み込んだ否定をしました。
『文春』2月7日号の被害者の証言は、広河氏による脅迫を伴う性の強制に加え、行為中に被害者の非合意を認識した上で非合意の禁止、つまり合意の強要まで行ったことを示唆する大変深刻な内容です(もちろん1月3&10日号の証言も大変深刻です)。これを認めたら、広河氏の、自分の権力に無自覚であったとか、合意があったと思っていたとか、暴力がなかったとかの主張が崩壊することになります。だから否定しているのか?と思わざるを得ません。
★★★
角田由紀子弁護士の記事では、被害者の聴き取りがなく、加害の事実認定のない「検証」など考えられず、「被害者の救済は念頭にないのでしょうか」と問い、検証委の「報告」は「結果として広河氏に弁明の場を与え、株式会社デイズジャパンを免罪しただけで、得をしたのは広河氏とデイズジャパンのみです」と述べています。第二部については「付録」に過ぎず、いま話すべきは広河氏とデイズジャパンについてなのにこのような「付録」は会社のアリバイ作りにしかならず、「会社の責任を置き去りにして、広河氏の弁明とともに出すべきではなかった」と。
また角田弁護士は、「検証委員や第二部に関わった人ちの中には知り合いが多くいますので、このような批判的意見を述べることに躊躇しなかったわけではありません。でも、仕事の内容への批判は、個々人の関係とは別物だと思っています。日本社会では仕事を批判すると、その人間を否定したかのように受け取られてしまう。そうではないということが通用する社会になってほしい」と述べており、その通りと思います。
私の記事では、性暴力の加害者を利する「暴行・脅迫要件」を持つ日本の刑法を利用するかの如く広河氏が暴行の不在と合意を主張し続けていることに触れ、この事件についての語り方は月刊誌『世界』で加害者が語る重要さを説いた金子雅臣氏が検証委を率いることになったことで、「加害者に語らせ、個別の責任追及を避けるかの如く『構造問題』に飛ばす路線」を辿ることになったとの見方を示しました。第二部についてはその内容と構成に疑問を呈し、角田弁護士と同様、「全体的に個別責任を拡散し、広河氏や株式会社デイズジャパンの責任逃れに加担した結果になった」と述べました。
ぜひ『週刊金曜日』4月15日号を手に取ってお読みください。
この特集や私の記事についてもご感想やご意見がありましたら、下のコメント欄で受けつけます。ツイッター@Peacephilosophy でも受けつけます。
最後に、この特集全体を通して訴えたのは、包み隠さず、一般論で薄めず、広河氏による性暴力、セクハラ、パワハラの事実を明らかにし、広河氏と会社の責任を追及することこそが、被害者に正義をもたらす一歩となるのではないか、という問題意識であると思います。一緒に考え、行動しましょう。
乗松聡子
初出:「ピースフィロソフィー」2019.04.13より許可を得て転載
http://peacephilosophy.blogspot.com/2019/04/days-japanshukan-kinyobis-special-on.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8569:190414〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。