ビンラディン襲撃の状況は殺害が目的を強く示唆
- 2011年 5月 7日
- 時代をみる
- ビンラディン殺害鈴木顕介
オサマ・ビンラディンが米海軍特殊部隊の襲撃で殺害された時、武器を手にしておらず、射殺されたことが明らかにされた。ホワイトハウス当局者の記者会見での公式発言である。逮捕でなく射殺した理由として、「抵抗したから」としているがその状況説明は極めて歯切れが悪く説得力がない。現在までのところ、襲撃の模様は、アメリカ側の情報のみで、襲われた側からの直接の情報はない。しかも、この襲撃について公式政府情報を伝えるホワイトハウス当局者の発言内容は作戦の詳報入手とともに訂正されている。事件後4回目となる4日(日本時間5日)の記者会見では、それまでの多弁から一転、襲撃内容の詳細に立ち入ること一切避けた。
ホワイトハウスのカーニー報道官は3日午後(日本時間4日未明)の記者会見で、国防総省が用意したメモに基づいて作戦の骨子を明らかにした。ワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、ウオールストリートジャーナル3紙の電子版が伝えた米当局者の話でこれを補強すると、襲撃の概要は次のようになる。
米海軍特殊部隊「シールズ」の隊員20数人を乗せたMH60ブラックホーク・ヘリ2機は、現地時間1日の深夜、パキスタン国境に近いアフガニスタン・ジャララバードの米軍基地を離陸、2日午前零時過ぎ目標のビンラディンが潜んでいるとみたアボタバードの大邸宅に到着した。この際1機は邸宅の高い塀に接触して邸宅の敷地内に着地、尾部が壊れて使用不能になった。
敷地内にはビンラディンとその家族が住む3階建ての本邸と別棟がある。襲撃隊員は本邸1階で、潜伏先割り出しのきっかけを米側に与えることになった連絡要員アブ・アフメド・アルクウェイティとその兄弟の2人を射殺。銃火に巻き込まれた女性1人も殺された。
ニューヨークタイムズ紙は政府当局者の話として、この説明と異なり連絡要員と女性が殺されたのは、本邸でなく別棟であるとしている。同紙の報道で注目されるのは、侵入隊員に対する攻撃は別棟でドアの内側からあった発砲が唯一としている点である。ホワイトハウス当局者は、約40分間邸内で交戦があったとしているが、同紙は邸内での交戦は一方的な戦闘であったと伝えている。本邸内で殺されたのは、武器を持っていると見られた連絡員の兄弟と、階段を上がるところで銃を突き出したビンラディンの息子の2人で、ともに侵入隊員へ発砲していない。
ビンラディンがいた3階に上る階段には想定されていなかったバリケードがあり、建物爆破用の爆薬が仕掛けられているのではという懸念もあった。隊員の一人が明かりの消えた3階の寝室に入ると、そこにビンラディンが一人の女性とともにいた。女性はビンラディンの妻の一人で、侵入した隊員に走り寄ってきた。隊員は彼女の足を撃った。
ビンラディンの反応についてカーニー大統領報道官は「それに続いてビンラディンが撃たれ、殺された。彼は武器を持っていなかった」「彼は生け捕り作戦に抵抗するだろうと懸念していた。実際抵抗した」「非常に緊迫した銃撃戦であった。抵抗に出会ったから、作戦で彼は殺された」と記者会見で状況を説明した。しかし、抵抗が具体的に何を指すかについては言及できなかった。ニューヨークタイムズ紙は「隊員(複数)が一つの部屋に入ると、AK47カラシニコフ自動小銃とマカロフ拳銃を手の届くところに置いたビンラディンを見つけた。彼らはビンラディンを撃ち殺した」と伝えている。
これらの情報を総合すると、ビンラディンは降伏する意思表示をしていなかったが、発砲して抵抗する姿勢も見せていなかったことが分かる。シールズの隊員が部屋に踏み込んだのは、約40分間の作戦の最終段階。当然階下の部屋での発砲音で隊員が迫っていることを察知していたはずである。銃を構えず、脇に置いたままで、逃げ隠れしなかったのは、彼自身が殺される道を選んだとも受け取れる。同時に隊員に走り寄った妻を殺さず足を撃ったように、暗闇の緊迫した状況下であっても、暗視装置を付けている隊員が発砲、殴打などの手段で抵抗を抑えて、逮捕する道を取れたことも十分推測できる。
オバマ大統領はビンラディン殺害を発表した演説で「大統領就任後すぐにパネッタCIA長官にビンラディン殺害もしくは逮捕を対アルカイダ戦の最優先課題にするよう命じた。本日私の命によって、アメリカはアボタバードの邸宅に的を絞った作戦を展開した」と述べた。これからも推測できるように優先順位の先に上げられたのは殺害である。この演説で「アルカイダのテロに愛する者たちを失った家族に言いたい。正義はなされた」とうたいあげた。この言葉は「仇は討たれた」と言い換えることができる。
今度の作戦のコード名は「ジェロニモ」であった。ジェロニモは西部に領域を広げるアメリカ白人に最後まで抵抗を続けたアパッチ・インデアンの英雄である。ともに西部開拓史にアメリカの原点を見るアメリカ人気質を垣間見る思いがする。
共同通信は6日今度の作戦の全容を知る米政府筋の話しとして、作戦命令は当初から殺害で、逮捕ではなかったと伝えた。裁判にかかる膨大な経費と、それを通じたアルカイダの宣伝を避ける意味が背景にあったという。
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