韓国への経済制裁発動――日本政府は、冷戦体制下の「大いなる勘違い」に気づくべきだ
- 2019年 7月 3日
- 評論・紹介・意見
- 矢沢国光
日本政府は、7月1日、韓国に対する半導体材料の輸出規制を決定した。徴用工問題での経済制裁である。
だが、日本政府の経済制裁発動は、慰安婦問題以来の、一貫した「大きな勘違い」にもとずいている。
日本政府の勘違いとは何か?「歴史問題は解決された」という勘違いである。
日本と韓国のあいだの「歴史問題」――日本という国家が、朝鮮半島の住民に対して数十年にわたって植民地支配したという歴史的犯罪行為をどう償うかという問題――は、解決されたのではなく、「棚上げされた」だけだったのだ。
なぜ「棚上げされた」のか?冷戦体制への移行に伴って、アメリカが「米日韓」の軍事同盟の構築を必要としたからだ。東条内閣の商工大臣・岸信介は、巣鴨プリズンから釈放されて、戦後日本の指導者として復活した。復活させたのは、冷戦体制の構築に日本を必要としたアメリカである。朝鮮戦争では、米軍は在日基地を前線基地として韓国軍とともに戦った。日韓は、ともにアメリカの極東安全保障体制に組み込まれた。こうして、日本の韓国に対する「歴史問題」は、棚上げされた。
日本は、韓国への植民地支配を本気で謝罪していない。謝罪しなくても、アメリカの東アジア体制の一翼を担うことが許されたからだ。
韓国は、日本の植民地支配への糾弾を貫徹できなかった。朴正熙軍事政権が日本からの経済支援によって北朝鮮に対抗しうる経済的軍事的体制を作ることを優先させたからだ。アメリカも、「歴史問題」の解決よりも、米日韓が結束して対ソ対中の軍事体制――冷戦体制――を構築する方を優先した。
被害者が加害者に対してより徹底した謝罪を求めるとき、加害者が「謝罪はもう済んだ、つべこべ言うな」と、脅迫まがいの言動をするのは、ふつうはあり得ない。冷戦体制下で例外的に「歴史問題の棚上げ」という特殊事情があり、しかもその特殊事情のあったことを忘れてしまった日本政府だけが「ふつうはありえない」言動を平気で行っている。恥ずかしいかぎりだ。
だが、いまや冷戦体制そのものが過去のものとなった。
アメリカ自身が「世界の警察官をやめる」と公言している。オバマ大統領と、オバマきらいのトランプ大統領も、この点では、一致している。
トランプ・金正恩の米朝トップ会談が3度実現し、世界で唯一残っている「冷戦による分断国家」は、分断の解消に向けて舵を切った。
トランプは「日米安全保障条約の解消」を口にするようになった。ソ連・東欧体制崩壊から30年経ったいま、「冷戦体制」はヨーロッパでも東南アジアでも解消し、中東で液状化し、唯一残った東アジアでも解体しつつある。
「歴史問題は解決した」という前提で韓国に経済制裁を発動した日本政府の言動は、冷戦体制の崩壊という事態の進行によって、その前提が崩れる。大いなる「勘違い」が立ちゆかなくなる。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8781:190703〕
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