『ラディカルズ』の勧め
- 2019年 7月 26日
- 評論・紹介・意見
- 塩原俊彦
多くのみなさんに夏休みの「宿題」として、ジェイミー・バートレット著『ラディカルズ:世界を塗り替える〈過激な人たち〉』(双葉社、2019年)を読むことを心からお勧めしたいと思います。とても興味深い本です。ついでに、拙著『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法的規制のゆくえ』(社会評論社、2019年)もあげておきましょう。
わたしは先の参議院選挙の比例区で「れいわ新選組」に投票しました。その背景には既成政党批判があります。同時に、インターネットの可能性に賭けたいという希望がありました。そして、そう思わせたのはイタリアにおける「五つ星運動」の成功にあります。
「五つ星運動」(Mo Vimento 5 Stelle)
『ラディカルズ』の第5章においては、イタリアでの「五つ星運動」(Mo Vimento 5 Stelle)のことが詳しく解説されています。「結社ではない集まり」であるこの運動体は政党ではありません。Mo Vimento(movement)のなかの大文字のVはVaffancullo(失せやがれ!)という意味を示しているそうです。英語で言えば、Fuck offといったところでしょうか。
2009年にコメディアンのベッペ・グリッコが自分のブログへの書き込みをツ浮いて五つ星運動を共同で立ち上げたとき、その主張は「政治家は寄生虫だ」、「全員、家に帰らせろ!」であったといいます。疲弊した古い政治体制を改め、直接民主制や徹底的な透明性を取り入れて腐敗をなくすと宣言したのです。
このシンプルな主張は心に響くものがあります。わたしは自分の本(『なぜ「官僚」は腐敗するのか』や『民意と政治の断絶はなぜ起きた』)で、Dishonest Abeと揶揄されている安倍晋三を筆頭とする世襲政治家を厳しく批判してきました。しかし、冷静になって考えれば、日本の政治家はほとんどすべて政治をビジネスにしている「政治活動家」です。ほとんど大同小異ではないでしょうか。司法試験に受かっただけの弁護士、上級国家公務員試験に受かっただけの公務員らが政治家に転身するのは、いわば政治を新たなビジネスの場にするだけで、そこには誠実さを見出すのは困難です。
たとえば、立憲民主党は、アイドルグループ「モーニング娘。」の元メンバーの市井紗耶香を比例代表として出馬させました。結局は落選しましたが、この人選の根拠はまったく理解できません。カラオケ好きの枝野幸男の「政党の私物化」の結果だと批判されても仕方ないでしょう。言うまでもなく、自民党にはこんな候補者ばかりが目立ちますが、どちらも大同小異ですね。要するに、何の根拠もなく候補者を選ぶ傍若無人な態度は同じであり、有権者をバカにしきった態度は共通しているように思えます。因みに、五つ星運動では、候補者をインターネットでみんなで選びます。
五つ星運動の公約
『ラディカルズ』に紹介されている五つ星運動の公約のいくつかを紹介しましょう。第一に、汚職撲滅です。第二に、国からの補助を断り、議員報酬の上限を国の平均的な給与レベルとし、提案されたすべての法案を承認の3カ月前にネット上で公開して国民の意見を求めることを誓約しました。犯罪歴のない候補者のみが立候補できるようにし(こうすることでベッペは排除されます。1981年に自動車事故で過失致死の有罪判決を受けたからです)、職業的政治家に堕してしまうのを防ぐ目的で3期以上は務めないことを確約しました。
結果として、五つ星運動は2018年の総選挙で上下両院の第一党となりました。連立与党を形成するに至っています。
しかし、この運動はポピュリズムを煽る運動として、批判にさらされることが多いようです。ただし、わたしはそうは思いません。大学で学生たちと向き合っていると、政治的会話自体がダサく感じられ、ほとんどまったく政治的会話自体がかわされない現状に驚きます。「外で政治的な話はするな」と教えられているという学生たちは、たわいもない話題だけを材料に人生を浪費しているようにみえます。こうした「徹底した無関心」に対抗するには、「煽動」こそ、「必要悪」と思うのです。国政選挙で投票率が50%を割り込んでいる状況に対しては、ポピュリズムを動員してでも投票率を引き上げるべきであると思えます。もっと言えば、「れいわ新選組」(わたしはFuck off運動と名前を変更したほうがいいと思っていますが)は「強制投票制」を公約にすべきでしょう。ベルギーのようにです。口では「投票に行け」といいながら、本当は低投票率でほっとしている政党が多いのが「現実」です。既存政党の議員ははっきり言って、「鼻もちならない政治屋ばかり」なのです。実現できそうもない公約をあえて高々と掲げることで、既存の政治屋の鼻を明かすのです。
ポピュリズムへの警戒
もちろん、インターネットを通じたポピュリズムの煽動は危険をともなっています。しかし、その危険を理解しつつ、インターネットを活用しなければ、事態を改善すること自体が困難になってしまうのではないでしょうか。
その典型がDishonest Abe一派による「ディスインフォメーション」工作の怖さでしょう。このちきゅう座のサイトにおいて「ディスインフォメーション」については書いたことがある(http://chikyuza.net/archives/81864)ので、ここでは再論しませんが、嘘を意図的に流して情報操作をするやり口に対抗するには、同じくインターネットを使った「煽動」しかないように思えるのです。「政治家は寄生虫だ」、「全員、家に帰らせろ!」という事実を声高に指摘するのではなく(悪い癖でわたし自身がそうでしたが)、既存政治家を憐れむ余裕をもって新しいヴィジョンを示すことが大切です。しかも、それは「ラディカルなもの」であっていい。そうすることが新しい活力や関心を呼び寄せるからです。
日本では、テレビにおいて芸人は政治的発言をほとんどしません。吉本興業のごたごたなどはどうでもいい問題であるにもかかわらず、何時間も使ってこの問題が取り上げられているようですが、そもそも日本の芸人は「憐れみ」の対象であることに気づいてほしいと思います。ベッペのように政治的発言ができるコメディアンがいなのです。ビードたけしにしても、「憐れな芸人」にすぎません。爆笑問題にやや期待をしていましたが、まあ、「毒」が失われてしまいました。「憐れな芸人」ばかりがテレビに登場する日本のテレビ局はテレビ局自体が「憐れみの対象」です。テレビ局はDishonest AbeあるいはVile Abeの本性を批判する金子勝のような人物に冷淡になっていますね。「ラディカルズ」こそ、社会を活性化させることに気づいてほしいと切望しています。
「21世紀龍馬会」
わたしは「21世紀龍馬会」(http://www.21cryomakai.com/)の代表を務めています。なぜこんな任意団体をつくったのかといえば、坂本龍馬のような「ラディカル」な人物が必要だと確信したからです。龍馬は当時の最先端技術と言えるピストルを保持し、寺田屋事件では実際に使用したことが知られています。高知県立坂本龍馬記念館のHPによれば、スミス&ウェッソンⅡ型アーミー 32口径回転弾倉付き六連発を高杉晋作が上海で購入し、慶応2年1月、下関から薩長同盟締結に向かう龍馬に贈ったとされているものです。龍馬は寺田屋事件の際このピストルで応戦しましたが、手に刀傷を受けピストルも紛失したと言われています。
このピストルは「1861年に米国で開発されたS&Wシリーズの第2号、通称アーミーモデル」で、開発間もない拳銃が龍馬の手に渡っていたことになります。龍馬は技術革新の重要性をよく理解し、そうした新技術を利用することになんの躊躇もなかったのでした。龍馬はその後、スミス&ウェッソンⅠ型 22口径を入手し、寺田屋事件で受けた刀傷の保養のために鹿児島に出かけた際、携行した。「鳥を撃って面白かった」というのですが、このピストルは近江屋で暗殺されたときには使われることはありませんでした。それだけ急に襲われたのでしょう。
はっきりと認識すべきことは龍馬が「ラディカルズ」の一員であったことです。いまで言えば、「過激派」であったと言ってもいい。あるいは、「テロリスト」であったとみなしたほうが適切かもしれません。しかし、そうした人物がいたからこそ、いまがあるのです。
そうであるなら、「ラディカルズ」にあこがれをいだくことはまんざら悪いことではないでしょう。「ラディカルズ」をめざすところまでゆくと、抵抗感が生まれるかもしれません。それでも、「ラディカルズ」をある程度許容することこそ時代を切り拓くためには絶対に必要なのです。
バートレットは『ラディカルズ』のプロローグのはじめに、興味深い逸話を紹介しています。
「たとえば、リベラル派の哲学者でイギリスの下院議員を務めたジョン・スチュアート・ミルが1867年人民代表法の条文改正にあたって選挙権の主体を示す単語を「men(男)」から「persons(人)」に改正しようとしたときには、怒りと嘲笑の猛反撃にあった。「そんなことをすれば、イングランド人の男らしさが脅かされる」と反対者たちは主張した。そして、ミルが提案した改正は女性の価値をもおとしめるものだ、と。完全にミルの負けだった。「ミル氏は自分の意見にもう少し常識を取り入れてはいかがか」と忠告する議員までいた。
それから60年後、別の急進的な運動家たちの努力=婦人参政権運動が実を結び、1928年人民代表法により、イギリスでは男性と同じ選挙権が女性にも認められるようになった。」
「ラディカルズ」こそ、時代を切り拓いてきたことをはっきりと肝に銘じてほしいと思います。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8846:190726〕
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