オ-ストリアと日本の相違ー太郎氏の街宣映像を2つ,3つ観てからにして-
- 2019年 8月 21日
- 評論・紹介・意見
- 箒川兵庫助
久しぶりに故・加藤周一の『夕陽妄語Ⅵ』を読み返した。その中で興味を引いたのが「殷鑑遠からず」。
オーストリアのハイダ-自由党首の話が出てくる。60年代5%の支持しかなかったがハイダ-氏が党首になると,90年には16.5%,94年には22.5%,99年10月には26.5%になって遂に二大政党の一つ,保守的な国民党を抜いて第二党となった。00年には国民党と自由党の連立政権が誕生。「ヨーロッパEU」14ヶ国は圧力をかけたが果たさず。ハイダ-氏は公然とナチ賛美の言動を繰り返し,移民排斥の政策を掲げ,EUの東への拡大に反対してきた。しかしハイダ-氏と自由党は何故政権を取ることに成功したのか。多くの分析によれば第一に,長く続いた二大政党への不満を持つ市民は極右政党支持に向かった。第二に,90年代の失業の増大,外国人労働者の流入,EU加入と企業の私有化に伴う市場の不安定が極右政党台頭の背景である。日本はどうか。第三にハイダ-氏個人のカリスマ。若くて健康,・・弁舌巧みで,大衆の意を迎えるのに機敏な指導者・・・。
第四は省く(おそらくナチ賛美という現状維持願望B)。日本にとって外国人移民流入の問題は今のところないが,オ-ストリアと共通の状況と経験がある。特に政権与党と野党第一党や連合に見捨てられた非正規雇用者や貧困若年層は既成政党を嫌うだろう。そして先の参院選で彼らの一部は「れいわ新選組」に投票し,228万票を集めた。共同通信の調査によれば,2.1%から支持率が4.3%にハネ上がったという。これを得票数に直せば456万票である。TVや新聞に登場することが多くなったから支持率が2倍になったものと推測される。しかし,「れいわ」が掲げる消費税0%は直ちに,あるいは短期的に実現するものではない。政権交代が必要である。すなわち「れいわ」の『8つの緊急政策』は盛田常夫氏の「国民の短期的目線に訴え、国民の即時的要求に応えるポピュリズム政策は必要不可欠になっている。有権者のほとんどは日々の生活のことで精一杯だから、社会の中長期のことには関心があっても、それが投票行動を決める大きな要因にはならない」説と真っ向から対立する政策提言である。すなわち228万人は中長期的にものを考え「れいわ」に投票したのである(盛田常夫 右であれ左であれ、ポピュリズムは社会の存立基盤を毀損する - 日本でもヨーロッパでも、左派の退潮が著しい -サイトちきゅう座 8月19日付)。
また立憲民主党は約300万票を減らしたが10議席伸ばした。自民党は240万票,公明党は100万票強を減らした。存亡の危機にあった社民党は息を吹き返した。そしてさらにれいわ新選組を左翼に数えるとすれば,そのどこに左翼の退潮があるのか。まことに盛田氏の見方は粗雑である。
オ-ストリアと日本の相違- その2
ところで盛田氏はベルリンの壁が崩れた後のソ連邦や東欧諸国の超インフレを論じていらっしゃる。しかし反MMT論者はギリシアの財政破綻や,敗戦による供給体制の破壊による超インフレとなったドイツや日本,あるいは米国による経済制裁と時刻政策によって失敗したヴェネスエラやアルゼンチンの超インフレを例に挙げてMM理論の間違いを指摘したが悉く反駁され最近はみない。そこで出てきたのが盛田論考だがあるジャーナリストAと同じである。「れいわ」の安富歩氏との対談で旧ソ連邦の超インフレを持ちだしたが,両者は政治体制の混乱を無視している。放送局は占領されゴルビーはオデッサに3日間幽閉されクーデタが発生したことが無視されている。投資家が国家混乱すればその国の国債を売るのは当然である。またウクライナのように独立・分離する国がいくつか出ればなおさら国債の価値は下がり,売られるから超インフレになるのは不思議ではない。しかし日本をみて超インフレになると恐れる理由は何だろうか。インフレ率は0.15%位である。国家官僚の給料は上がり,貧しき者はますます貧しくなった。デフレは20年間続いている。母子家庭の80.7%以上が生活が苦しいと応えている。子ども7人に一人は貧困である等。そのどこにインフレの芽があるのか。あるのは減税された富裕層と法人そして生活苦に喘ぐ貧困家庭である。自民党支持者が国民の20%ぐらいいそうだからこの人たちは中間層または富裕層であろう。そういう中でどうして新規国債を発行して突然,サドン・デスが来るのか。超インフレが来るのか。
「れいわ」の山本太郎氏はインフレ率が5%ぐらいになったら,増税政策(スタビライザー)を入れると言っている。無制限の国債発行はない。盛田論考はMMTを知らないかまたは故意に曲げている。せめて山本太郎の街宣映像を2,3本(YouTube)観てからMMT批判をされたい。
追記:ベルリンの壁が崩れる1年前,小生はハンガリ-のブタ・ペストに旅装を解いたことがある。ドナウ川の流れを初めて見た。その川辺のベンチ,安倍晋太郎外務大臣が泊ったというセントラルホテルに近い,に座ったところ女性が近づいて来て何かを囁いた。しばらく事態が飲み込めなかったが,米ドル欲しさの行為であった。
地下鉄がロンドンより先に走ったというブダ・ペスト。北に行くほど美人が多く,ラジオの部品が威風堂々と売られていた郊外。ワインの醸造所もいくつかあった。一緒に鎌倉まで観光に行ったペスト大学の教授を知っているが,すでに定年を迎えたのであろうか。盛田氏がハンガリ-在住と聞いて懐かしい国を思い出した次第。
追記2:昨年のトンデモ法案成立により,外国人人材が約35万人はいってくる。おそらく日本はオ-ストリア化するのではないだろうか。政治的には愛国心を訴える保守的な政党や,「れいわ」のような弱者の味方になる政党がさらに票を伸ばす。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8920:190821〕
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