あらためて、髙村光太郎を読んでみた(4)光太郎の世界地図帳
- 2019年 9月 19日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子髙村光太郎
若いころ、国際関係論を専攻した同僚が「地政学」という言葉をよく口にしていた。なんとも古めかしく、怪しげな・・・などと思っていた。ナチスの国土拡張、侵略の理論的な支柱になっていたことなどのうろ覚えでもあったのだろう。しかし、最近になって、ときどき、「地政学」の言葉を聞くようにもなった。先日も、トランプ大統領がノルウェーの自治領であるグリーンランドを買収したいと言い出したとき、ある番組の解説者は「地政学的問題だけでなく・・・」といった形で発言していた。グリーンランドは日本の約6倍近くの広さに、6万人弱の人々が暮らしているといい、地下資源などを持つという。中国の一帯一路をけん制する意味もあると書く新聞記事もあった。サウジアラビアの石油施設攻撃のニュースでは、『石油地政学』という著書を持つ「専門家」が登場していた。現代の「地政学」とは何なのだろう。
前の記事の「地理の書」が「日本列島の地理第一課だ」を題名にも考えていたような草稿を前の記事にも収めた。このフレーズで締めくくっている詩は、まさに、当時のナチス流の「地政学」が日本にも横行していたからだろう。光太郎は、他にも、この「地政学」を踏まえたかのような詩をたくさん書いている。以下の作品など典型的なものであろう。光太郎は、どんな地図帳と百科事典をもっていたのだろう。
余談ながら、私の小学校時代は、『少年朝日年鑑』(1949年創刊、1988年終刊)を毎年買ってもらっていた。いまでも、地図帳と年表が嫌いではない。「紳士録」的な関心はないのだけれど、近代の歴史や文学関係の人名辞典が気になって仕方がない時代があり、古いものは若干手元にあるのだが、いまは、とりあえず、ウィイペディアのお世話になることがが多い。
「ビルマの独立」
印度と支那と仏印と泰との山嶽を押しわけ、
サルウィン、イラワヂ、シッタンの大河を縦に並べ、
東南アジヤの大陸に巨大な楔をうちこむもの、
西蔵、雲南の高みからベンガル湾の波打ち際まで
チークと稲と木綿とに地表を被はれ、
天のきざはしの如く壮大に位置するもの、
北回帰線を頭上にいただき、
雨季と乾燥季と一年を恵まれ、
黄金のパゴダに國をあげて信篤きもの
ビルマはいま独立を宣する。
(後略)
(1943年7月30日作、8月1日放送。『記録』収録)
「マキン、タラワの武人達」
(1943年12月27日作。『少国民文化』(少国民文化協会)1944年2月号、『全詩集』のみに収録)
引用が長くなるので、その冒頭部分を画像とした。1943年11月21日マキン、タラワ両島は、米軍5万人による攻撃を受け、日本軍3000人は玉砕した戦いだった。
初出:「内野光子のブログ」2019.9.18より許可を得て転載
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〔opinion9007:190919〕
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