改めて原子力ムラの歴史的犯罪とその背景にメスを!
- 2019年 10月 2日
- 時代をみる
- アベ加藤哲郎原発
2019.10.1 前回安倍内閣改造をチェックしたローレンス・ブリット「14のファシズムの初期症候」には、「人権の軽視」「団結のための敵国づくり」「マスメディアのコントロール」「身びいきの横行と腐敗」に加えて、「企業の保護」「労働者の抑圧」という経済的指標がありました。そこに、とんでもないニュースが飛び込んできました。今日の政治情勢の発端となった2011年3月日東日本大震災・大津波・福島第一原発メルトダウンに関わる二つの問題。本来とっくに塀の中にいるべき事故当時の東京電力旧経営陣に対する業務上過失致死罪での東京地裁判決は「無罪」。「巨大津波を予見できなかった」という、幾度も繰り返されてきた東電側の弁明が、裁判所によって認められました。安全担当の勇気ある労働者が、事故の三年前に「最大津波15.7メートル」という予測値が東電経営陣に提示されていたと証言したにもかかわらず。その判決の10日後には、 東電に代わって原発再稼働の中心になってきた関西電力のスキャンダル発覚。関西電力の社長・会長等役員20人が、高浜原子力発電所が立地する福井県高浜町の原発推進派元助役(今年3月に90歳で死去)から、3.11後に計3億2千万円相当を受領していたという汚職・背任・原発マネー疑獄です。全容解明はこれからですが、関電は3.11後に2度も電力料金を値上げして消費者にしわ寄せしながら、その経営陣は、安全対策名目の原発関連工事の受注先から「地元のドン」を通じて、個々の役員の個人銀行口座まで知らせて、マネーを環流していたことになります。すでに関電会長は、この構図が3.11前から行われていたと認めていますが、もともと3.11後の反原発・脱原発の運動が、原発立地段階からずっと続いていた「原子力ムラ」の構造として指摘し告発してきた問題の氷山の一角が、たまたま税務調査でオモテに出たものです。東電とフクシマの関係も、再チェックが必要です。あいだに政治家や御用学者が介在しないかどうかを含め、すべての電力会社について、徹底解明すべき問題です。
労働者・庶民の経済生活の環境は最悪なのに、今日から消費税 10%、テレビが報じるのは、5円・10円の値上げからいかに逃れるかのポイント還元など「生活の知恵」ばかり、日経新聞によれば、「ニンジンの皮もおいしく! 増税に勝つ食べ切り術」だとか。なぜ消費税が必要なのか、それは本当に社会保障や年金・医療に使われるのかの議論は、ほとんどありません。他方で安倍首相は、千葉の台風被害長期化・停電断水を斜めに見たまま、恒例9月国連総会へ。現代のファシズム化の指標には、第15番目として、「自然環境と国民に対する科学技術による操作と支配」を加えるべきでしょう。グレタ・トゥーンベリさんのスピーチと、世界160ヵ国400万人の若者のデモでもっとも注目された気候変動サミットには、安倍首相は出席できませんでした。石炭火力の大量使用で地球温暖化の元凶とされ、BBCによれば、日本とオーストラリアの首相は、出席も認められませんでした。かといって、福島原発事故の「前科」がありますから、「再稼働した原子力はクリーンで安全」と開き直ることもできません。国連総会での首相演説は、聴衆もまばらの閑古鳥、「令和」の新元号など無内容な話ですから、関心も持たれません。まだ韓国文大統領の南北国境線非武装化構想の方が、国連演説にふさわしいものでした。イランと北朝鮮の核問題でも、仲介どころか期待もされませんでした。そして、日本の公共放送では「Win-Win」と唯一の「成果」のはずの日米貿易協定締結も、アメリカ側の発表によれば、「自動車のために農産物やデジタルを差し出した日本」という不平等条約です。
国際社会での存在感喪失と日本経済の長期の衰退・沈没は、いつまで続くのでしょうか。国際的には韓国批判に典型的な排外的「強情なナショナリズム」、国内的には「軍事の優先」「国家の治安に対する執着」が強まるでしょう。それを読み解くヒントのいくつかを、今夏の読書から。一つは、日本の核兵器保有への環境作りが、着々と進んでいるらしいこと。志垣民郎『内閣調査室秘録』(文春新書)と岸俊光『核武装と知識人ーー内閣調査室でつくられた非核政策』(勁草書房)は、1960年代後半の佐藤栄作内閣が、中国核実験と核拡散防止条約(NPT) に対抗して自主的核開発を秘かに検討し、そのため当時の内閣調査室は、「現実主義」知識人・科学者127人を「委託研究」名目の資金援助等で組織化していたことを、明らかにしました。ちょうど「原子力の平和利用」による原発稼働開始期でもあり、「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャル保持」を決めた上で、当面「アメリカの核の傘」に入ることを柱にした「核4政策」を採りました。その一部として「非核3原則」を作って沖縄返還を実現し、佐藤栄作のノーベル平和賞受賞に導きましたが、その裏では、内調御用達学者の中核にいた若泉敬を使った沖縄核密約を結んでいました。『内閣調査室秘録』では、その127人の実名入りで、核政策の内調主導での継続、3.11後も「国策」として原発を持ち続ける背景が示唆されています。つまり、原発は「潜在的核兵器」で、原爆保有と原発推進は、早くから日本の核政策の両輪でした。東電や関電は、その国策のエンジンであり、その膨大な利権に寄生する地域・企業・政治家・学者・メディアを育成してきました。
もう一冊、ロバート・ウィルコックス『成功していた日本の原爆実験ーー隠蔽された核開発史』が、ついに翻訳され、日本語訳が出ました(勉誠出版)。「ついに」というのは、広島・長崎原爆の直後、昭和天皇「玉音放送」直前の1945年8月12日、日本軍は朝鮮興南の日本窒素(後の水俣病のチッソ)で秘かに核開発を成功させ核実験を行った、という、アメリカでは1946年以来繰り返し現れるフェイクニュース・陰謀史観の日本上陸だからです。米国政府の否定やジョン・ダワー等の学術的批判にもかかわらず、こうしたトンデモ本が出るのは、米国国内では、マンハッタン計画による原爆製造を正当化し、戦時日本の核技術と朝鮮北部のウラン鉱石が戦後ソ連の核開発に連なり、ひいては北朝鮮の核保有につながった、という陰謀説を導くためでした。日本でも、時々ニュースになりましたが、学術的には、ほとんど相手にされませんでした。私は、今年2月の講演で、こうしたトンデモ本が繰り返し現れる「米国の神話」を批判しましたが、日本語版翻訳者たちは、歴史的事実と考え、現代日本でも核を作れるという根拠の一つ、日本核武装論の世論作りに使うつもりのようです。こうした日本の核開発については、拙著『日本の社会主義ー原爆反対・原発推進の論理』(岩波書店、2013年)で一部述べ、you tube の講演もありますが、10月19日(土)午後、東京駒込で「日本の核開発ーー原爆反対・原発推進の論理」と題して講演します。この問題に関心のある方はどうぞ。
核政策も、対中・対韓政策も、憲法改正をめざす現代のファシスト・安倍晋三にとっては、「国体護持」の一環です。官邸主導のメディア操作と統制、言論の不自由、文化の萎縮、人権意識の後退は、多くの人々が指摘しています。治安維持法研究の内田博文教授は、「改憲すれば戦時体制完成 今は『昭和3年』と酷似」という談話を、毎日新聞に寄せています。昭和3年=1928年とは、第一回普通選挙結果を踏まえ、25年制定の治安維持法に、共産党を念頭に置いた「国体の変革及び私有財産の否定」に「結社の目的の為にする行為」=目的遂行罪を加えて、労働運動・学生運動・女性運動から文化サークルまであらゆる疑わしい団体を監視し検挙しうるようにし、最高刑に死刑を加えて厳罰を課す、緊急勅令による治安維持法「改正」がなされた年です。この間、特定秘密保護法や組織的犯罪処罰法改正による共謀罪に反対しながら成立を許してきた法学者の危惧は、当然のことです。しかし私は、「ファシズムの初期症候」が「中期」に入ったと前回指摘した立場から、満州事変につながる1928年よりも、むしろ日中戦争から「紀元2600年」=1940年につながる1930年代後半の日本の国内体制に、相似性を見ます。国際社会から孤立して、「いだてん」が描く40年東京オリンピックは「返上」され、同じ年に決まっていた東京万国博覧会は「無期延期」となりました。治安維持法でいえば、28年改正よりもさらに徹底した1941年改正ーー「予防拘禁」が入り「国防保安法」制定とセットになったーーの、戦争前夜を想起します。当時の日独同盟は、いまや日米同盟に変わっていますが。前回更新で新内閣の「マスメディアのコントロール」の元凶として挙げた、「官邸のアイヒマン」こと北村滋内閣情報官の国家安全保障局(NSS)局長への登用を調べてみて、ちょうどゾルゲ事件時に治安維持法41年改正、国防保安法制定に関わった思想検事・太田耐造の影を見出しました。
その直接の典拠は、高級警察官僚北村滋が内閣情報官時代に書いた「外事警察史素描」という論文を、『講座警察法』第3巻(立花書房、2014年)という、地味な専門書中に見出したことです。ちょうど特定秘密保護法制定・国家安全保障会議成立の時期に書かれ、どうやら「国益・国策護持の安全保障」を基軸にした現代的法体系を構想しているようです。その高等安倍ブレーンが、日本版NSC=NSS局長に上り詰めたのです。この問題については、10月12日(土)午後2時から、早稲田大学3号館5階502教室で開かれるインテリジェンス研究所・20世紀メディア研究所共催の第29回諜報研究会で、報告する予定です。鈴木規夫 (愛知大学教授) 「ゾルゲ事件への英国流視角ーーC・アンドリューの新著『秘密の世界:インテリジェンスの歴史』から」と共に、私が 「ゾルゲ事件研究の新段階ーー思想検事太田耐造と特高警察、天皇上奏、報道統制」を報告する際に、イントロとします。報告資料はできましたので、ここに入れておきます。無論、この報告は、昨年から毎日新聞や朝日新聞で大きく報じられてきた国会図書館憲政資料室「太田耐造関係文書」のゾルゲ事件関係新資料を中心にした最新の編著『ゾルゲ事件史料集成――太田耐造関係文書』 全10巻(不二出版)をもとにしたものです。すでに1・2巻は発売され、全巻のカタログも公開されています。ただし個人では大変なセット価28万円の高価な図書館・公共機関向けの本ですので、出版社の許しを得て、ここに発売された第1巻所収の「解説ーーゾルゲ事件研究と『太田耐造文書』」も公開しておきます。ただし、第29回諜報研究会参加希望者は、「お名前と懇親会参加希望の有無を明記の上、npointelligence@gmail.comまでご連絡ください。 準備の関係上、10月9日(水)を締切とさせていただきます」とのことです。 もう一つの現在の研究テーマ、「15年戦争と日本の医学医療研究会(戦医研)」で行った私の731部隊についての記念講演は、you tube に入っています。その後の研究で厳密にした学術論文「731部隊員・長友浪男軍医少佐の戦中・戦後」は、同研究会誌19巻2号(2019年5月)に発表されました。ご笑覧ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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〔eye4653:191002〕
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