不安?焦り?それともほかに?――国慶節、何故の大騒ぎ ――習近平の中国(5)
- 2019年 10月 2日
- 時代をみる
- 中国田畑光永
昨10月1日は中国の建国記念日、国慶節だった。ことしは建国70周年ということで、盛大なお祝いになるらしいと言われていたので、さてどんなものかと、インターネットの中継を見ていた。驚いた。なんといったらいいか、何かに向かって虚勢をはっているとしか思えない大騒ぎだった。
昔、東西対立が世界の最大の矛盾だったころは、ソ連の赤の広場のパレードに象徴されたようなデモンストレーションにも東側としてはそれなりの意味があったろうが、今となっては北朝鮮のパレードが他国から失笑を買うものでしかなくなっているように、パレードなるものは国家が先立ちになっておこなうものではなくなっている。
習近平は2015年9月3日に抗日戦争勝利70周年と銘打って、天安門広場で軍事パレードをおこなった。この時は2012年に国のトップの座について3年、1度は閲兵を行って威信を示すのは、中国のトップのなかば慣例ともいえるので、まあそれほど違和感はなかった。
ところが習近平は2017年7月30日にも閲兵をおこなった。この時は中国軍の建軍90年を記念するというのが名目で、そこにいささか無理があったが、それでも場所は北京でなく、内蒙古の朱日和演習場という砂漠の中だったから、習近平もわきまえるべきことはわきまえているなと思ったものだった。
そこで今度である。建国70周年が名目だが、若い国ならいざ知らず、70年という中途半端な年に大騒ぎするのは野暮というものである。それもけた外れの大騒ぎであった。
パレードは軍隊のそれと一般国民のそれとの2段重ねで行われたのだが、軍隊は道に何重にも整列して閲兵を受ける部隊が長さ2キロ分くらいいて、その後、今度は兵員が足音高く天安門前を行進するのだが、道幅いっぱい(と見えるくらい)に広がって四角形を形作る(これを「方隊」という)。一方隊あたり数百人になる。儀仗隊に始まって、陸、海、空軍それにロケット部隊だの女性部隊だの合わせて、今回は17方隊が行進した。
そして次が各種武器の行進。今年は注目された東風41という最新型の多弾装大陸間弾道ミサイルも登場した。最後は空に各種航空機が次々と飛来した。
軍隊が終わると、今度は国民の出番。各分野から思い思いの装飾や展示を施した大型の「彩車」(日本風にいえばダシ=山車)が70輌、そして徒歩(中には自転車もいた)の群衆が10万人(主催者発表)。行列はえんえんと続いた。
見ていて疲れた。3時間近くかかった。何日も前から、夜間や休日に国慶節のパレードの練習が行われているという報道があったが、なるほどこれではよほど練習しなければならなかっただろうなと納得した。
そこで話を戻す。なぜ習近平はこんな大騒ぎをしたのだろう。米との貿易摩擦はまだ解決の糸口も見出せていないし、香港の民衆の怒り、不安にも答えていない。来年1月の台湾の総統選挙にしても、情勢は親大陸の国民党にますます不利と伝えられている。どれもそれぞれに難しい問題だが、不思議なのは習近平政権が頭を絞って対策を考えているように見えないところだ。どの問題についても、中国が言うことは同じことの繰り返しだ。一見、筋を曲げないようにも見えるが、それは頭を使わないのと紙一重だ。
たとえば香港だが、問題の根っこは1997年の英からの返還時に、20年後には行政長官の民選を実現すると約束しておきながら、それを平気で覆したことだ。香港を見くびっての仕業であることはよそ目にもはっきりしている。そこを考え直そうという気配すらない。
台湾にしても、国の大きさをかさに着て、国際的に台湾を窒息させようとするばかりで、台湾の人間の気持ちをおもんばかる気配もない。これでは台湾内で大陸と一緒になろうという声が多数を占めるとは到底考えられない。
習近平は焦っているはずだ。いくら国内で一強体制を固めても、だからといってこうした難題が自然に解決するはずもない。その焦りが昨日の大騒ぎ、ただただ「中国万歳!」を大声で唱えさせることで、なんとかなるという思いにつながっているのではなかろうか。
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