東京大地震の社会経済的影響
- 2019年 12月 10日
- 評論・紹介・意見
- 東京盛田常夫経済震災
NHKは12月2日から週を通して、東京直下地震の被害を体感させる番組「パラレル東京」を放映し、都民のみならず国民の注意を喚起している。今後30年間に70%の確率で起こるとされる東京直下地震にたいして、東京都のみならず、政府は万全の事前措置を講じることが必要である。
番組では、最悪の場合、東京大空襲に匹敵する惨劇が起こることを想定している。まさに終戦直後に似た状況が再現されるという強いメッセージが送られている。これだけ高い確率で起きることが予想されている自然災害にたいして、人々が無策でいることは許されない。番組では物理的かつ人的な被害が詳細に伝えられている。すさまじい被害である。それを現実のものにしない準備が必要である。
他方、この直下地震が及ぼす社会経済的な影響について、番組は触れていない。あくまで物理的人的被害に焦点を当てた番組である。しかし、われわれは人的被害を最小限にする準備のみならず、地震被害が社会経済的にどのような影響や帰結をもたらすかについても、十分に検討を加え準備する必要がある。なぜなら、被害の規模によって、日本の社会経済的機能の中枢的な部分が失われるからである。
首都に甚大な被害が生じれば、主要な経済機能、とくに金融機能が失われる。政府は社会的混乱を避けるために、銀行預金の一時的封鎖あるいは、預金引出しの一時的制限を導入せざるを得ない。被害の深刻さにも依るが、預金封鎖あるいは引出し制限の導入は、物価の高騰と円為替の暴落を惹き起こすことは確実である。とくに膨大な政府累積債務を抱える日本には、危機的な地震被害を契機に、円売りが浴びせられ、為替の下落は輸入物資の高騰を惹き起こす。人々の生活物資の高騰のみならず、復興のための輸入物資が高騰し、それがハイパーインフレを惹き起こすことが予想される。この時になって、巨額の累積債務という「体制負債」が社会に重くのしかかってくる。
このような事態に陥る可能性がきわめて高いのは、政府が抱える累積債務があまりに巨額だからである。巨額の債務を抱えたままでは、日本は復興への態勢をとることができない。日本は終戦からの再出発を余儀なくされる。ハイパーインフレによって、国民の資産は限りなく無に帰す。一般庶民が失う資産より、金持ちが失う資産の方がはるかに大きいが、それにしてもこつこつ貯めてきた資産は無に帰す。他方、GDPの200%を超える政府債務は限りなくゼロになり、経済再建のためのリセットが行われる。まさに第二の敗戦である。
政治家や政党は当座の選挙で議席を増やす政策に汲々するのではなく、日本を襲う災害の被害を最小限に抑える政策に力を注ぐべきである。そのためにも、当座の景気対策でしかないアベノミクス政策を止め、国家債務の削減に向けた財政健全化政策を行うことが不可欠である。可能な限り国家債務の水準を下げ、自然災害にたいして余裕をもって対処できる体力をつけることが必要である。
ところが、与党も野党も、右も左も、国債発行すれば、国家資金は無尽蔵にあると考えているようだ。本当に財政問題を深刻に考えているなら、政治家がホテルや料亭で会食するはずがないし、公金を私的に流用することもないはずである。しかし、安倍政権にはそのような堅実な姿勢は見られない。もともと安倍政権や安倍晋三自身がそのような日本社会の将来を憂う知性を持ち合わせていないから、それを期待することもできない。しかし、日本社会の平均が安倍晋三の知性レベルにある限り、日本の将来は明るくない。
他方、野党はどうか。安倍晋三を凌駕する知性を発揮しているとは到底思われない。アベノミクスの旗振り役で、アベノヨイショの代表である高橋洋一を講師に招き、ありがたくご意見拝聴している「消費減税研究会」の知的水準は、アベノヨイショの御仁とさほど大差ない。ポピュリズムという点で、アベノヨイショと五十歩百歩だからである。
アベノヨイショの御仁たちは自らの見解に責任を持つことはない。東京直下地震によって日本の社会経済機能が失われ、日本売りが始まっても、それがアベノミクスによる無責任な経済政策の一つの帰結であることを認めようとはしないだろう。まさに原発事故と同様に、与党とその政治家、御用学者は過去の政策の誤りを認めず、「天災」に責任を負わせるだろう。
庶民は財産を失い、終戦の混乱に乗じた一部の政商や悪徳業者が再び富を蓄積する。戦前は軍国主義に騙され、今はアベノミクスに騙され、庶民は富を失う。人々が賢くならない限り、歴史は繰り返えされるのである。
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