「いじめっ子だが仲良くしたい」

八ヶ岳山麓から(550)

トランプ政権は、1月3日ベネズエラで奇襲作戦を実施し、100人を殺害してマドゥロ大統領夫妻を拘束、拉致し、ついでベネズエラ石油生産の利権を確保すると発言した。これについて、中国外交部(省)の報道官は「断固として反対する」 「アメリカが主権国家に対し公然と武力を行使し、一国の大統領にまで手を出したことに強い衝撃を受け、強く非難する」とアメリカの対応を批判した。中国メディアもそろってこれにならった。

冒頭の中国外交部の談話には、トランプ氏の公然たる国際法違反、国連憲章の無視に対する批判はあるが、こういう時通常使われる「帝国主義」「覇権主義」といった言葉がないことが気になった。むしろ高市早苗首相の「台湾有事」発言を「軍国主義」とする非難よりもあっさりした「あいさつ」である。

これについて、人民日報国際版の環球時報紙は、1月7日南京大学国際関係学院の朱鋒院長の注目すべき論評を掲載した。朱鋒氏は、中国はトランプ氏のいう「G2」という言い方を受入れないし、アメリカと国際政治の責任を分け合うつもりはない、だが2国間関係を重視し米中協力が国際政治の「新たな秩序構築を推進するもの」と考えているという。
以下朱鋒論評からとびとびに引く。

〇2025年に韓国・釜山で行われた米中首脳会談の際、トランプ大統領はソーシャルメディアで「G2」概念に言及し、中国指導者との会談を「G2サミット」と誇張して表現した。しかし、中国側はトランプ氏が米中両国を「G2」と位置付ける主張を受け入れたわけではない。

〇第一に、人類運命共同体の構築が強調するのは、世界各国が相互尊重し、普遍的な発展と平等な協力を実現する多国間主義の理念であり、二つの経済大国が自らを「G2」と称して高みに立つ姿を見せることではない。

〇第二に、現在アメリカが経済、安全保障、対外関係において推進しているのは、貿易保護主義やアメリカ利益中心主義のいじめや乱暴な手法である。中国は「G2」という概念のためにアメリカの責任を分担する気はない。ましてやアメリカの好き勝手な国際行動の代償や責任を負うことなどありえない。

〇実際、西側世論もワシントンが再び「G2」を主張する現状を楽観視しておらず、アメリカが中国との戦略的協調・協力を強化することは、西側の戦略的利益を弱めるだけでなく、中国の台頭と強大化を助長するものと見ている。

〇2026年新年早々、アメリカはベネズエラに対し特殊部隊を派遣してカラカスで現職のマドゥロ大統領を強制拘束しアメリカへ連行した。……1月3日のトランプ氏の記者会見では、アメリカはさらにキューバとパナマもワシントンが「問題を解決」すべき対象国に含まれると表明した。

〇中国は、ラテンアメリカにおいて重要な資源、市場、海運上の利権を有している。発展途上国の一員として、またグローバル・サウス(南半球諸国)の自然な構成員として、中国は常にラテンアメリカ・カリブ地域を含むグローバル・サウスと運命を共にし、呼吸を共にしている。

〇我々は、「G2」という概念を受け入れないとはいえ、それは米中関係を軽視するものではない。我々は、米中協力が国際政治・経済の新たな秩序構築を推進し、世界の平和・安定・繁栄を促進する上で独特の役割を果たし得ると考えている。

〇米中関係は、今日の世界で最も重要な二国間関係の一つであると同時に、最も複雑で競争的な二国間関係でもある。協力は常に米中が共存する上で最も正しい選択である。過去数十年にわたり、テロ対策、国際金融危機への対応、エボラ対策、ホットスポット問題の政治的解決など、世界は常に米中協力の力を目の当たりにしてきた。

〇米中の力関係や戦略的認識が、どのように変化しようとも、習近平国家主席は一貫して「相互尊重、平和的共存、協力によるウィンウィン(関係)」を両国が追求すべきだと強調している。

〇釜山の米中首脳会談で、習主席はトランプ大統領に対し「両国がパートナーとなり、友人となることは、歴史の示唆であり、現実の必要でもある」と特に強調した。2025年、ワシントンが仕掛けた「対等な関税戦争」を経験したものの、米中首脳外交の戦略性的なリーダーシップのもと、世界最大の二つの経済体は最終的に多層的なコミュニケーションを継続的に推進した。

〇歴史の大勢を見据え、時代の使命を担い、互いの発展を促し、世界に利益をもたらすこと——これが中国指導者が米中関係の巨船を安定させ、確かな方向へ導き、前進させ続けるための戦略的知恵と保証である。2026年の米中関係は依然として期待に値する。
(引用終り)

朱鋒氏は、中国特使がベネズエラ大統領と会見した直後のアメリカの帝国主義的やり方を強くは非難せず、アメリカとともに「国際政治・経済の新たな秩序構築を推進」することを強調する。また「中国はラテンアメリカにおいて重要な資源、市場、海運上の利権を有している」にもかかわらず、「協力は常に米中が共存する上で最も正しい選択である」ともいう。

その後のトランプ氏による「ドンロー主義(新モンロー主義)」発言によって、トランプ氏が習近平氏が取引をし、グリーンランドを含めた西半球(中南米、カリブ海)をアメリカの勢力圏として中国・ロシアをこれら地域から退出させ、その代わり東アジアあるいは太平洋の西半分を「中国の勢力圏」と認め、アメリカは台湾などへも手出しはしないといった「新たな秩序構築を推進」する可能性が生まれている。これは日本にとって非常に悪い国際環境になることは明らかである。

トランプ氏は今年4月の中国への国賓訪問に加え、11月に中国深圳で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席する予定である。また習近平氏は今年中にアメリカに国賓として招かれる。さらに習近平氏はフロリダでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席予定である。予定通りならば、今年、米中首脳は4回顔を合わせることになる。

日本の言論界には、ベネズエラ事件によって首脳間の交流計画が「ご破算」になるかもしれないと見る向きもある。だが、「環球時報」は中国共産党の準機関紙である。党中央とかけ離れた主張を掲載することはあり得ない。朱鋒氏の言説は中国首脳の意向を反映したもので、両首脳の相互訪問計画に変更はないものと見るべきである。

中国は、以前から高市早苗氏を安倍晋三後継者の反中国分子、極右軍国主義者と見ていた。だから彼女が首相になり国会で存立危機事態の判断基準を具体的に発言するや、待ってましたとばかりに日本水産物の輸入禁止、中国国民の訪日の事実上の禁止措置をとった。

そして1月6日中国商務部は日本への軍民両用品の輸出規制強化を発表した。具体的な品目はまだ公表されていないが、レアアースが含まれないはずはない。わかりきった話だが、その影響は深刻で長引く可能性がある。

日本は、つぎは尖閣諸島などへの今まで以上の軍事的圧力を覚悟しなければならない。高市首相は自らの発言によってまもなく困難な事態に陥る。だから彼女は4月の米中会談の前に、自分の都合のよいようにトランプ氏の頭を変えさせ、対中国関係をとりもってもらわなければならない。だが、去年トランプ訪日時、彼女が横須賀のアメリカ「戦艦」上でやったような媚態を尽くしても、思惑通りに彼が動くとは限らない。

トランプ氏は自由だの民主主義だののイデオロギーには無関心で、頭にはアメリカ第一と金もうけしかない。 scarletそして現在までのところ、習近平氏にもアメリカと事を構えようとする気はない。11月のアメリカ中間選挙まではこの状態が続くかもしれない。
(2026・01・08)

「リベラル21」2026.01.10より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14612:260110〕