2018.2.15 平昌オリンピックの真っ最中です。オリンピック憲章には、「オリンピズムの目標は、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、 人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある」とあります。日本のメディアは、もっぱら日本選手のメダル獲得とメダルの色に注目し、連日、新聞もテレビも、大きなスペースと時間を割きます。しかし、オリンピック憲章に沿った 「平和な社会を推進すること」への貢献という場外レースでは、国際社会の判定は、日本のメディア報道とは、正反対です。金銀銅のメダルの色には議論がありますが、国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長、開催地韓国の文在寅大統領、それに北朝鮮の金与正特使の3人が 、緊張緩和の主役・プレイヤーとみなされます。最下位かブービー賞かの議論はありえますが、ペンス副大統領を派遣したが何もできなかった米国、それに追随して韓国大統領に内政干渉まがいの要求を出してかつての朝鮮半島への侵略・植民地支配を想起させ、対話の現場で「対話より圧力」「微笑み外交に目を奪われてはならない」と繰り返して、アメリカの忠犬の遠吠えとひんしゅくを買った安倍晋三首相の日本が、マイナス判定でしょう。トランプ大統領のツイッター政治、メディア批判は大手メディアからも反撃を受けていますが、日本の安倍首相はメディアは押さえ込んだと慢心してか、SNSでの暴言をまねています。何よりも、北朝鮮の核・ミサイル開発への「対話と圧力」が焦点になっている最中に、IOC・南北朝鮮が対話による平和維持・緊張緩和をすすめている最中に、米国トランプ大統領が「使える核」を増やす新核戦略(NPR)を発表し、「唯一の戦争被爆国」を一枚看板にしてきた日本政府がそのNPRを真っ先に歓迎するのですから、 昨年の核兵器禁止条約・ノーベル平和賞ICAN受賞への冷淡な態度に続く、日本外交の権威失墜です。
オリンピック政治の力関係は、明らかに「対話」の方に傾き、IOCバッハ会長の北朝鮮訪問、南北首脳会談の可能性が現実に近づき、米朝直接交渉への模索さえ生まれているようです。これを、北朝鮮・金正恩の「微笑み外交」に乗せられた韓国・文在寅大統領の融和主義=米日離れとして非難するのが、日本のメディアとネトウヨ・ヘイトの常道ですが、バックに中国、ロシア、IOCバッハ会長、メルケル独首相とEUなどがいます。日本にとっては唯一のパートナーであるアメリカは、今や国際政治の中でパワーが衰退し、中国・ロシア・インドや中東・南米諸国も、世界平和の重要なアクターになっています。今回の南北融和に「アリラン」の歌が触媒になっていることは、注目すべきです。つまり、日本帝国主義に支配されていた時代についての南北朝鮮の共通の歴史的記憶が、「アリラン」を一緒に唱うことで、よみがえってくるのです。朝鮮半島にくらす人々の、ナショナルなノスタルジアの故郷です。開会式のハイライトで唱われたのは、ジョン・レノンの「イマジン」でした。イマジンは、19世紀のフランス革命歌「ラ・マルセイエーズ」、20世紀のロシア革命ソ連国歌・国際連帯歌「インターナショナル」に代わって、冷戦崩壊と米国9.11以降にグローバルに定着した、21世紀の平和・非戦歌です。本サイトも、21世紀に入って、特別コーナー「イマジン」を立ち上げました。すぐれた歌は、時代も民族も超えて、平和を愛する人々の接着剤になりうるのです。
本サイトの「イマジン」コーナーに、「戦争の記憶・大正生れの歌・探索記」が入っています。2001年9.11直後に立ち上げ、ちょうど老年期に入った「大正生れ」の方々から大きな反響をえたもので、作詞・作曲者を歴史探偵したり、替え歌・別ヴァージョンを収集したりと、「イマジン」の目玉の一つでした。しかし2009年に作者の小林朗さんが亡くなった頃から、問いあわせも少なくなり、アジア太平洋戦争の「戦友会」や「大正会」という同世代の交流会も次第に消滅して、もう役割を終えたと思われ、本サイトの窓口も、最小限にしてきました。ところが平昌オリンピックのさなか、丁寧な長文のリクエスト・メールが届きました。神奈川県川崎市の91歳というSさんからで、昔、会社員の現役時代、「大正生れの歌」 を聞いて大変感動し、何とかもう一度聞きたいと思ってきたが果たせなかった。最近パソコン操作を覚えて、「ネチズンカレッジ」にこの歌についての記述があるのを見つけ、何とか曲そのものをもう一度聞けないか、というリクエストでした。幸い私の手元には、作詞作曲者の故小林朗さんからもらったSPレコードやカセットテープ版の歌があったので、これらをお送りしたところ、懐かしく、嬉しくて、涙した、という感謝感激の御礼が届きました。
この91歳Sさんのリクエストを機に、改めて「大正生れの歌・探索記(2018年版) 」 を作り、あわせてMIDI版の歌がリンク切れになっていたものを、カセットテープからmp3 版デジタル音源に転換し、iTunesで簡単に聞けるように更新しました。軍歌調で、よく戦友会でも歌われたようですが、作者の小林朗さんによれば、「大正生れ」はアジア・太平洋戦争敗戦時20-35歳の、最も犠牲の多かった世代であり、自分自身も徴兵され、多くの友人を喪いました。戦後は日中友好のボランティア活動に尽くした小林さんの、鎮魂の想いと平和の願いを歌ったものでした。改めて本サイトに歴史資料として残し、いま安倍ファシズムのもとで、ひょっとしたら甚大な被害者になりかねない「平成生れ」の皆さんにも味わってもらおう、と思います。「平成生れ 」の鎮魂歌を作らせないためには、安倍内閣の9条改憲の狙いを見定め、「平成生れ」世代に、日本国憲法の平和主義・民主主義・立憲主義の意義を、理解して貰わなければなりません。日本「本土」と沖縄米軍基地との歴史的関係を、見つめてもらう必要があります。幸い「学術論文データベ ース」の常連寄稿者・神戸の深草徹弁護士から、深草徹「「9条加憲」は自衛隊を普通の軍隊とする一里塚 — 国民は托卵を拒否する」(2018.2)という新規寄稿がありました。さっそくアップです。また、この間の私の731部隊研究の論文・講演記録等を、 昨年公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)をもとにした1月20日第304回現代史研究会の報告レジメとパワポ原稿と共に、「ネチズンカレッジ」カリキュラム「現代史研究・専門課程5」に加えました。あわせてご参照下さい。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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