「イスラム国(IS)」イラク・シリアで壊滅(3)- 生き残り組は投降、分散、再建不可能 -

 「イスラム国(IS)」はついに壊滅した。最終段階まで、シリア、イラクで抵抗し続けたISの指導部と戦闘員たちは、おそらく数千人。その大部分が、都市で地下壕を掘り、包囲作戦に抵抗し続けたが、地上の戦闘、空爆、砲撃で死亡するか、投降した。両国は投降者の総数は発表していないが、イラク当局者は多くが死刑になると予想している。しかし、最終段階の前に、ISの中核だった旧イラク軍とフセイン時代の支配政党バース党の幹部級、宗教指導者らは、イラクのモスルからシリアのラッカへと逃れ、さらにラッカがクルド人勢力に完全包囲される前に逃げ出し、一部はイラクに戻って協力者、近親者のもとに潜んだと思われる。また一部はトルコに向かい、さらにエジプトのシナイ半島やリビアの「イスラム国」を名乗る武装集団の下へ、一部はアフガニスタンにまで逃げたとみられている。
 このうちリビアでは、16年1月以来、中部の石油施設や地中海岸の都市シルトの港湾部などを「イスラム国」を名乗る武装勢力が占領したが、リビア暫定政権下の政府軍が米軍の支援爆撃を得て反撃し、6月には奪回している。
 またエジプトのシナイ半島では、2011年の民主革命以来、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派が活動していたが、14年のクーデターで政権を握ったシシ政権に対して、「シナイ半島のイスラム国(IS)」と改称して、テロ攻撃を開始した。以後、政権側は軍を動員して同組織の壊滅に努めているが、(IS)のテロ攻撃が繰り返されている。
 また、アフガニスタンでは、東部ナンガハル州に、「イスラム国(IS)」が16年以来拠点を築き、首都カブールなどへのテロを繰り返し始めた。17年に入って、発足間もないトランプ政権下の米軍はナンガハル州のIS拠点を空爆し、地下深くまで破壊できる巨大爆弾を使用してIS側に打撃を与えたが、その後もISのテロは繰り返されている。
 さらに、フィリピンでもミンダナオ島に入り込み、同島のイスラム武装勢力に支援を得て根拠地を築き始めたが、政府軍がいち早く鎮圧作戦を開始して、ほとんど絶滅した。
 こうして列挙すると、ISの勢力は中東からアフガニスタンさらにはフィリピンへ、中東から北アフリカ、中央アジア、東南アジアに勢力を広げているように見えるが、決してそうではない。ISは豊富な資金力によって、各地のイスラム過激派に接近し、支援して「イスラム国(IS)」を名乗らせるが、実態は各地の紛争の歴史的、政治的経過、民族性の違いに阻まれ、一体化、指揮命令系統を築くことは困難だった。
 まして現在、イラク、シリアでのIS本体の巨大な資金源はなくなり、各地のISを名乗るイスラム過激派組織に逃げ込んでも、主導権を握るどころか、合体することもできないだろう。バグダーディが死亡して、彼の卓越したカリスマ性に導かれた「イスラム国(IS)」の再建はできるはずがない。(続く)

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