「ウクライナ戦争は欧米国家が原因だ」

――八ヶ岳山麓から(399)――
 
 ロシア軍は10月10、11日と、ウクライナ各地の主要都市に対し、ミサイルで発電所などのインフラ攻撃を行った。中国でも、クリミア橋爆破とその報復攻撃についてのニュースがあったが、もろ手を挙げてロシアを支持したわけではない。そのかわり、ロシアでは動員に抵抗する人がいるとか、ウクライナ東部・南部でロシアが苦戦しているといった記事もない。
 だが、ウクライナ戦争に対して習近平政権が見せかけの「中間的態度」をとるときでも、追随者はロシア・ウクライナの衝突はNATO側に責任があるといい、親露感情をもって中露連帯の意志を表明する。
 以下にその要約を記す楊光斌氏の論評は、中国政府ブレーンの欧米に対する本音が端的に示されたものである(人民日報系国際紙「環球時報」2022・10・11)。劉氏は中国人民大学国際関係学院長。(小見出しは阿部、――は引用)
 

ロシア・ウクライナ衝突から世界政治の本質を見る

劉光斌

 
 ロシア・ウクライナ戦争の背景
 ――民族性は世界政治を理解する出発点である。ならば「西洋人」はどのような民族性を持っているか。W.マクニールはこういう。「他のひとびとが彼らとそのほかの主な文明形態を対比すると、……まさに、ヨーロッパ人は血を好み好戦的な特性と認識される」と。
 (ヨーロッパ人は)無鉄砲で戦いを好む頑強堅固な性格をもち、半世紀内に全世界の海洋を制圧し、ただ一代の「実践」でアメリカ大陸のもっとも発達した地域を征服したのである。

 アングロサクソンはロシア人に警戒心をもっている
 ――この数世紀以来、世界体系の構築過程を主導してきたのは、アングロサクソン民族である。彼らの多くは、ロシア人を外見は白人だが東方正教を信仰する韃靼人(この場合モンゴルをさすものと思われる――阿部)だとみている。だから非アングロサクソン人の巨大国家はどんな制度を持とうとも、ただ発展したというだけで脅威とみなされるのである。すなわちアングロサクソン人がビラミットの頂点に立つ、300年来の世界体系への脅威である。

 欧米は中露の勃興を敵視する
 ――ある意味において、世界政治は、「生活政治」に似ている。たとえば、ある村のボス一家は長年税金を取り立て、村民を威圧してきたとする。ところが、だれかが突然金持になって税金を払わないと言い出し、その影響で他の村人も平等権を主張し、ボス一家の地位と合法性を揺さぶりだす。ボス一家は当然のように手段を択ばずにこれを攻撃する。
 ――世界政治は「生活政治」に比べてはるかに険悪であり、これは文化上の民族性・政治経済構造と軍事体制がその帝国主義・覇権主義の必然性を決定するからである。

 欧米国家の性格はなにか
 ――我々は一般に、1648年の「ウェストファリア条約」をヨーロッパ的な近代国家の出発点と見ているが、「ウェストファリア条約」は実際には二つの結果を生み出したのである。
 ひとつは近代国家、すなわち民族を単位とする国家である。民族国家は自然の民族主義が要求した近代国家であり、生まれながらの拡張的・帝国主義的性格を持つものである。第二は拡張性を持った近代国家が世界体系を打ち立てたことだ。好戦的な民族性・拡張性を持った近代国家は、対外貿易を通して形成した資本主義精神に助けられて、世界的なネットワークを編成したのである。

 欧米国家、それは「戦車型体制」である
 ――資本主義世界経済体の中のアメリカは、資本権力の怪獣が駆動する「戦車型体制」であり、さらに生れながらの民族的拡張性を持ち、その対外拡張の動力は前代未聞のものである。アメリカ人が自称する「原則と利益」は、対外政策の二つの標準である。
 思うに、「(自由と民主主義という)普遍的価値」原則は美しく飾った言説に過ぎない。そうでないとしたら、すでに「自由市場」「自由民主」を実行したロシアが、なぜ依然としてアメリカの無情の圧力に遭遇するのか。

 西側国家は戦争がなければ何に依存して生きつづけるか
 ――その路線が頼るのは、敵がなくなれば新たな敵を探し出すことであり、その結果は、ひとつまた一つと自己実現の予言になり、敵をどんどん多くするのである。(冷戦はアメリカの軍産複合体にとって都合の良い体制だったが)それが終わったばかりのとき、アメリカはペルシア湾で比類のないハイテク戦争に打って出た。この戦争は、アメリカの軍需産業の試験場であり、更なる市場を見つけるものでもあった。
 ――甘い汁を吸ったアメリカは、さらにその拡張体制をほしいままにし、軍事的覇権はとどまるところがなくなった。まずはイラク戦争とシリア内戦の支持などを通して、中東の秩序を攪乱したのち、ロシア・中国との緊張関係を激化させた。

 では、ウクライナ戦争の原因は何か
 ――アメリカはロシアに対して冷戦期の抑圧戦略を実施し、さらに抑圧を通してロシアの国内体制を劇変させようとした。これがロシア・ウクライナ衝突の直接の背景である。
 ――アメリカが主導権を持つNATOは、もともとの12ヶ国から30ヶ国に拡大し、その帝国主義的拡張性はうたがうべくもない。……冷戦が終わってから、はじめのうちアメリカはロシアに東方拡大は絶対にしないと約束し、そののち、5回にわたって東進してウクライナをその手に収めた。それはロシアの生存空間にとって直接の脅威となった。

 中国にとっての欧米国家の存在とは
 ――ロシア・ウクライナの衝突は、西側文明の野蛮性がいささかも変わらないこと、帝国主義は依然世界の動揺と不安の根源であること、覇権主義は依然中華民族の偉大な復興の障害物であることを我々に教えている。しかも、NATOはその触角をアジアに延ばし、「世界のNATO化」を目指している。

 わたしの感想
 ウクライナ戦争がはじまったころは、「中国はロシアと距離を置くべきだ」とか、「プーチンとは手を切れ」といった中国人研究者の主張がゲリラ的にネット上に現れることがあった。しかし言論統制が強化された今日ではほとんど見られない。
 知識人のなかには少数だが、西側の政治や歴史について拡張主義だとか覇権主義だといった単純な見方に陥らない人がいる。そういう人は、劉氏のようにロシアが「自由市場」の経済、「自由民主」の政治体制だと思ってはいない。だがこの人々は、沈黙する以外に生きる手段がない。
 劉氏は、アングロサクソンは狂暴性を持つ民族であり、アメリカはそれを相続した野蛮な国家であり、中国が世界の指導国家になるのを妨害し、ロシアの政変をたくらみ、NATOを拡大してロシアの生存空間を奪ったという。
 中国はこの20年間に、GDPが日本の3.5倍という成長を遂げた。その経済力によって最新鋭軍備を増強し軍事大国になった。だが劉氏は、ロシアとともに中国を欧米帝国主義の被害者として描いている。被害者意識の裏側には強烈な排外主義が存在することは氏の言説から読み取ることができる。
 中国メディアと政府の宣伝を担う人の努力によって、いまや中国世論は民族主義に傾いている。とりわけ若者にその傾向が著しい。台湾への武力侵攻はその強い支持を得ている。核軍事大国中国の世論から眼をそらすことはできない。 (2022・10・22)
 
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