くどいと思われるかもしれないが、中国の習近平国家主席が4月7日にフランスのマクロン大統領にもちかけた、フランスがウクライナでの戦闘について解決案を出し、それを中国が支持して、「建設的な役割を果たしたい」という、「中仏の連携で和平を」という提案について、もう一度考えてみたい。
この案は表に出た途端に、やや大げさに言えば袋叩きに遭って、もはや生命力を失ってしまった。反対論は、提案者の中国自身が次の発火点かと世界が危惧する台湾海峡危機の当事者であって、自ら「力による現状変更」を否定しない立場を公言しているではないか、という点に尽きるだろう。
日本で開かれたG7外相会議が4月18日の共同声明で、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して、「ロシア軍の即時、無条件撤退」を求めたのは当然だが、一方、中国にも次のように注文をつけた。
「東・南シナ海における状況を深刻に懸念する。力や威圧によるいかなる現状変更の試みにも強く反対する。台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和解決を促す」。これではほとんど中国は被告扱いである。仏と手を組んで、調停にひと肌脱ごうというのに、国際社会の全体とは言えないにしても、有力国に手足を抑えつけられてしまった、という感じである。
中国にしてみれば、「台湾海峡で武力を使わない」と約束しないからといって、別に他国を攻撃するわけではない、自国を統一するためであって、文句を言われる筋合いはないということになるだろう。また、中国の武力誇示に恐怖を感ずる国があるとしても、統一の邪魔をされなければ、こちらから攻撃することはない、心配ご無用と言いたいところだろう。
現に4月20日の新華社電は、「商務部の最新数字」では今年1月から3月の間、外国企業の中国への投資額は 昨年同期比で大きく伸びていると伝えている。仏635%、独60.8%、英680.3%、カナダ179.7%、日本47.7%、スイス47.4%、韓国36.5%である。
昨年の冬はまだコロナ禍が続いていて、外国の駐在員たちは中国への出入りにひどく苦労していたから、投資どころではなかったという事情はあったにせよ、この数字は国際情勢と投資は別という一面をはっきり見せてはいる。昨年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台に対する中国軍の激しい砲撃演習も投資へのためらいは生まなかった。
ここに台湾海峡の緊張、といっても、それは従来の国際緊張とは違う一面がはっきり出ているように思う。従来の戦争とは曖昧な言い方だが、領土を奪う、資源を奪う、他国民を支配する、さらには市場を奪う、といったことが原因であり、より深刻な戦争には宗教戦争、社会体制の優劣を争う資本主義対社会主義という戦争もあった。
しかし、台湾海峡の緊張はこれらのどれとも違う。これらのうちのどれかがなにがしか含まれているかも知れないが、そのための緊張ではない。中国の政権が言っているようにことは内政なのである。歴史的経緯から、国内に二つの政権があって、そのうちの一方が他方にこちらに従属せよと迫り、言われた方がそれを拒否しているだけである。
その争いが軍事的緊張を伴うのは、従属せよと迫っている方が「武力を使うことはしないと、約束はしない」と公言しているからである。それで周りが心配して、「武力はやめろ」と忠告すると、「余計なことを言うな」と怒って、口実を見つけては相手の周りでミサイルなどを撃って脅しているのである。
政権が二つあるからと言っても、これも歴史的経緯で現在のところ双方の国民も他国も別に不便はないし、当の2つの政権もそれぞれの領域を統治するのに特に不便はなさそうである。
ところが一方は是が非でも相手を従属させようとする。いったい何のためか。自分たち、というか、とりわけ政権のトップがそれを果たしたいのである。統一を実現して、自分を優れた統治者と国民に信じてもらいたいのである。
しかし、そのために武力まで使うのは行き過ぎではないか、と考えるのが常識であるが、当人は場合によっては武力でねじ伏せてでも優れた指導者と認められたいのである。何のために?いつまでも統治者でいるために。
では小さい方ははどうして大きい方を支配している政権に従うのをいやがるのか。いつまでも今の統治者がその座に居続けようという考え方がいやなのである。国民が選挙で統治の責任者を選び、期限が来たら交代するという仕組みにして、誰でもその座を目指して立候補できるという普通の制度にしたら、台湾も統一をあくまで拒否することはないだろう。絵に描いたような二律背反である。
しかも中国の憲法には国家主席は1期5年で2期までという規定があった。それを習近平の2期目の入り口の2018年に全国人民代表大会で「2期まで」を廃止する改正が議決されたのである。
投票結果がすごい。賛成2958、反対2、棄権3,無効票1であった。機械による投票だから、誰が誰に投票したかは、公表するしないにかかわらず、政権には分かる。だから反対すれば、権力者に知られる。それがこういう結果を生む。
そういう状況で、なおかつ賛成票を投じなかった6人は誰だかは分からないまま、ひそかに「6君子」と呼ばれて尊敬されているという話もある。それにしても国家主席という制度から任期をなくしたら、本人が自ら辞めたいというか、あるいは死ぬか、さもなければ誰かが力づくで引き下ろす、つまり暴力革命しか、交代はないことになる。現代の奇譚である。
ウクライナ戦争であらためて台湾海峡が注目を集めたことは、考えようによっては中国政治の民主化のチャンスである。中国、台湾双方の国民はもとより周りの国からも「台湾海峡の緊張を解消するには中国政治の民主化を」という声を上げ続けよう、習近平が耐えられなくなるまで。私はロシアの政治はよく知らないが、プーチンの考えも似たようなものと思っている。来年、彼は大統領5期目を目指す。もっとも大統領選挙があるだけ、中国より進んでいるとは言えるのかもしれないが。(230421)
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