――八ヶ岳山麓から(444)――
9月21日、人民日報国際版の「環球時報」は、「中国・ロシア・北朝鮮の 『枢軸 』を捏造する下心は明白だ」という、ちょっと変わった表題の記事を掲載した。筆者は趙隆。趙氏は上海国際問題研究院・全球治理研究所副所長という(「全球治理」は地球規模の統治、Global Gavernanceといった意味)。
冒頭で、北朝鮮金正恩の極東ロシア訪問とプーチンとの会談、また中国外相王毅のロシア訪問は、「本来ロシアと北朝鮮、中国とロシアの2国間関係の範囲内のものであるのに、他国の政治家やメディアは、これを中露朝によるいわゆる新しい『枢軸』の形成と受け止めている」 「ウクライナ戦争勃発以来、西側メディアは『中露朝の接近により、朝鮮半島に新たな冷戦構造が出現した』とか、『朝鮮戦争終結後、最も深刻な時期(が来た)』と宣伝し始めた」と強い不満を表明している。
ウクライナ戦争が始まってから、日本でも中露朝の「(ブッシュ元米大統領のいった)悪の枢軸」が語られるようになった。たとえば、昨年5月、産経新聞は「中露朝の挑発エスカレート 新『悪の枢軸』 日本警戒」という見出しで、「日本周辺で中国、ロシア、北朝鮮による挑発行動がエスカレートしている」として、中露両軍の爆撃機が日本周辺を編隊飛行したこと、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したことを伝えた(2022・05・25)。また、右翼の論客中西輝政氏が今年1月「中露朝“3国同盟” に備えよ」と題して同じ趣旨の発言をしている(文藝春秋digital 2023・01・09)
趙氏は、「『中露朝3国の接近がもたらす現実の脅威』は非常に誇張されている」とし、「中露朝3国の結束力はキャンプ・デービッド日米韓首脳会談で、米日韓が示した相互信頼と合作のレベルにはるかに及ばない」 「中露・中朝・露朝の二国間交流にすぎないものを、中露朝3国(同盟)の論理に嵌め込もうとするのは、日米韓の『三角』軍事同盟再現を正当化するためである」と批判する。
さらに中国封じ込めのために、同会談は3国をむりやり結びつけて緊張を製造し、その対象を朝鮮半島だけでなく、「ASEANと太平洋島嶼国を含むインド太平洋地域と世界の平和と繁栄」とし、南シナ海問題についても強硬な表現で語り、「インド太平洋地域における3国対話」の立ち上げや、定期的な3国合同軍事演習の実施も計画しているというのである。
たしかに米韓は朝鮮戦争以来の同盟である。日米関係は米韓関係とはやや異なるが、やはり同盟関係にある。二つの同盟には、良くも悪くも対米従属と常設的な軍事同盟という共通点がある。ただし、日韓関係は韓国保守派の尹錫悦大統領が登場するまでは、友好関係というには程遠かった。その後日韓の接近は急速だが、まだ軍事的連携にはいたっていない。三角形の一辺が抜けているのである。
たしかにウクライナ戦争以来、中露朝の関係は緊密になった。だが、3国はそれぞれアメリカと対立する事情があるから、対米矛盾が激しくなれば結集するのは自然のなりゆきである。
あらためていうと、9月13日、金正恩のロシア極東訪問では、プーチンは金正恩に武器弾薬の輸出を求め、また北朝鮮への食糧と軍事技術の援助を約束したといわれる。またプーチンは中露間の貿易額は近年、毎年3分の1近く増加しており、2023年1~7月の貿易額は前年同期比24%増の1200億米ドルに達したと述べ、中露関係はさらに速いペースで発展するとの見方を示した。だから中露朝3国の軍事的結びつきよりも、日米韓の方が卓越しているとか、その逆だとかわたしには断言できない。
だが3国が「悪の枢軸」すなわち攻守同盟を結成しているかと言えば話は別である。
ロシアはウクライナ戦争で国力を消耗し、極東で日米と対立する余裕はない。中国は、最大のライバルであるアメリカと、台湾問題のほかに先端半導体技術をめぐって争うのに忙しい。ウクライナ戦争ではロシアに同情的だが、アメリカとのこれ以上の関係悪化を避けようとするのか軍事技術漏洩を警戒してか、ロシアへの武器輸出は行わず、ヨーロッパの戦争に直接かかわるのを避けている。
中朝は軍事同盟を結んでいるから北朝鮮がことを起したら、知らんぷりというわけにはいかないが、外交部(省)は、金正恩 のロシア極東訪問について、9月13日の記者会見で「朝露関係に関わることだ。中国は関係ない」としか発言していない。これは中国が露朝接近に冷淡な態度を表明したものかもしれない。
趙氏はこの関係を「中露関係は冷戦時代のような軍事・政治同盟ではなく、むしろそのような国家関係モデルを超越しており、同盟せず対抗せず、まして第三国に対するものではない。 中朝は、相互の核心的利益と重大な関心事に関して確固たる相互支援と連帯を提供するもので、伝統的な友好協力関係を促進するために共通の『仮想敵』を設定する必要はない」と説明している。
ウクライナ戦争の行方が不明なこの時期に「環球時報」紙に、「中国はロシアや朝鮮とは軍事同盟を結ばない」といったメッセージを秘めたかのような論評が登場した理由はなんなのか。アメリカに妥協を促しているのか、それとも日本・中国・韓国首脳会談への地ならしだろうか。私には判断できない。
中露朝の軍事的緊密化に警戒心を持つのも、北朝鮮のミサイル発射や、中国やロシアの日常的な挑発的軍事行動に抗議するのも当然であると思う。
だが、わたしは、これをとらえていかにも中露朝3国の攻守同盟が生まれたかのように危機をあおるのは、あまりにも作為的であると考える。また、これをもって軍備増強の世論を形成しようとするのにはまったく承服できない。 (2023・10・01)
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