「反戦・反原爆」とともに「脱原発」を考える夏に!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2012.8.1  毎週金曜の原発再稼働反対デモの延長上で、7月16日の代々木公園、29日の国会包囲と、大きな脱原発への示威行動がありました。東京新聞・テレビ朝日が6月に報じて以降、ようやくマスコミ各社もこの「60年安保以来」の社会運動に注目し、なんらかのかたちで報道するようになりました。しかし、首相官邸前の絶好の場所に国会記者会館があるのに、記者クラブ加盟社以外の屋上取材は認められず。NHKは代々木公園のすぐそばなのに、脱原発集会の扱いは相変わらず小さいまま。まだまだ全国の動きは、伝えられていません。ウェブ上のブログやツイッターでは、警察のいうままに歩道上で限られたスローガンを唱和し、原発以外のイシューや団体旗を自主規制して、家族連れを含む「一般市民」の持続的行動であることを強調しようとする主催者側に反発して、労働組合や政党系列でも参加者を広げ、「国会突入」まで行かずとも車道を「解放区」にするくらいの行動は示威行進として認めよという声もあがっています。10万人以上のデモともなれば当然の、運動内部の論争でしょう。戦闘性の示威と社会運動の秩序、運動の幅を広げながら権力の介入を最小限にとどめる、多様性を保持した非暴力直接行動のあり方ーー世界の社会運動が抱えてきた、旧くて新しい論点です。

◆この国の8月は、1945年8月6日のヒロシマ原爆投下、9日のナガサキ原爆・ソ連参戦、15日のポツダム宣言受諾・敗戦・玉音放送にちなんだ終戦記念日と続き、例年「反戦・反原爆」の季節です。マスコミの特集やドキュメンタリー番組も8月に流れます。お盆の季節で、多くの人々が故郷に帰り、戦争で生命を失った家族・親族を偲ぶ機会でもあるからでしょう。今年はぜひ「反戦・反原爆」に、「脱原発」を加えたいものです。いくどもいくども「戦後は終わった」といわれながら、「戦後」という言葉が意味を変容させつつ生き残ってきたのは、1945年に匹敵する歴史的画期が、その後の高度経済成長、冷戦崩壊、9・11、リーマン・ショックを経ても、日本列島に住む人々には感じられなかったということでしょう。その意味では、敗戦・占領という「1945年の神話」が定着していること、いいかえれば日米関係を基軸にこの70年を生きてきたことの、証左でしょう。「日米同盟」の内実を鋭く抉った、元外務相国際情報局長・孫崎享さん『戦後史の正体 1945−2012』(創元社)が、説得力を持つゆえんです。そして、その日米関係を基軸とした歴史のなかで、「核=原爆と原発」が重要な位置を占めていたことを、昨年3月11日のフクシマ原発事故は、重く暗示しました。暗示というのは、1960年に日米安保条約の極東核軍事同盟としての改訂に反対して国民的社会運動を起こした日本の民衆が、2011年の体験を「戦後」に匹敵する変革に結びつけて行動することができるかどうかが、なお問われているからです。「震後」を、核兵器にも核エネルギーにも依存しない、次世代・次々世代へと持続しうる社会へと組みかえていくことが、求められているのです。

◆8月の原水爆禁止世界大会や8・15前後の平和イベントに、今年は「脱原発」が組み込まれたり、平行して開かれたりします。沖縄では8月5日に、オスプレイ配備に反対する県民集会があります。「デモ開催情報まとめ」にあるように、全国津々浦々で、多様な運動が企画されています。毎日・毎週の行動が多いのが、原爆記念日とは異なる、「脱原発」行動の特徴です。7月16日、29日の行動は、ウェブ上では無数のサイト、ブログ、ツイッターでとりあげられ、画像映像外国報道も多数参照できます。例えば東京の金曜デモに学んで、いまや東京電力に代わり「原子力村」の中核となった関西電力のお膝元や、反原爆の街広島でも、反原発のデモが始まりました。お盆で帰省した先でも、夏休みの家族旅行の途上でも、スマホのワンセグでオリンピックや高校野球の結果をみながらでも、こうした意思表示ができるのが、インターネットが広がった情報戦時代の「デモ」の持ち味です。ただしその意思表示の政治へのつながり、政権への圧力、政策変更へのインパクトは、これからです。今夏電力不足で大飯原発再稼働が必要という関西電力と経済産業省の脅迫予測のウソは、すでに7月の火力発電一時休止や猛暑日の電力需要実績からはっきりしてきました。要するに電力会社の経営を守り、電力料金値上げを認めさせる心理作戦だったのです。

◆同様の心理戦は、例の2030年0%・15%・20−25%という政府のエネルギー・環境会議の示した「偽りの選択肢」でも、東京電力のテレビ会議の映像公開編集でも、大飯原発直下活断層の保安院による「安全」再審査でも、繰り広げられています。財界首脳が20−25%でも足りないと政府の「脱原発依存」そのものの撤回を求めているのは、アリバイ作りのつもりだった意見聴取会で、あまりにゼロオプション支持者が多く、不安になってのアドバルーンでしょう。アメリカGE会長の「原子力発電の正当化困難に」「世界の多くの国が天然ガスと、風力か太陽光のいずれかとの組み合わせに向かっている」こそ、実は21世紀のエネルギー市場を見据えた、グローバル・ビジネス界の本音です。今日から国際会議でインドの予定でしたが、コメントする予定だった『紀元2600年』(朝日新聞出版)のケネス・ルオフさんが行けなくなったこともあり、中止しました。夏に海外に出ないで日本ですごすのは、何年ぶりでしょうか、前回更新まで述べてきた事情もあり、今夏は休養と体力回復につとめます。国会原発事故調査委員会の報告書に続いて、政府事故調の最終報告書も出そろいました。じっくり読んで、学びの夏にします。原稿執筆やHPデータ更新等は大幅に遅れていますが、ご容赦ください。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2014:120802〕