「国民生活が第一」から遠ざかる民主党、 日本政治の劣化は「仮免許」で済まされない!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2010.12.15  初めて、菅首相のリーダーシップの、ほめ言葉を聞きました。ほめたのは、米倉日本経団連会長、首相決済による法人税5%減税を評価してのリップサービスです。もっとも法人税は、もともと利益の出た企業の払うもの(法人所得税)、赤字で払っていない企業が7割とか。世界で最も高い40%といっても、さまざまな減税措置が現在でもあり、実際にはソニーは12%、住友化学は16%という試算も。投資や雇用にまわるよりも、内部留保や借入金返済にまわる可能性の方が大です。おまけに、それを補う財源は担保されておらず、その先に消費税増税が透けて見えます。日中関係の再構築も、朝鮮半島の緊張緩和策も、手つかずのままです。おまけに沖縄には、菅首相の初訪問を前に、仙谷官房長官の普天間基地県内移設「甘受」発言。外交・安全保障の基本政策は、アメリカへの依存以外、見えないままです。社会保障も雇用・教育も、後ろ向きの「事業仕分け」のみで、リーダーシップなし。世論調査での内閣支持率20%危険水域突入、民主党支持率の自民党との逆転も、むべなるかなです。

 何が失われたのでしょうか。昨年夏総選挙の「政権交代」の熱気は、どこへ消えたのでしょうか。この一年を見れば瞭然です。「国民生活が第一」の選挙スローガンが、全く実感できないままで、国民から見はなされました。舵取りは鳩山由起夫から菅直人に代わっても、羅針盤そのものが見えなくなり、基軸を持たないまま、内憂外患の波間を浮遊しあえいでいる、無惨な政権運営です。「権力を取る」ことに専念し支持を集めた入力が、政府と党との関係、内閣と既存官僚機構の確執のなかで、「権力に振り回される」党内抗争としてアウトプットされる機能不全です。茨城県議選の惨敗は、来年統一地方選挙を控える地方の民主党にとって、「中央の迷走」による出口なき暗雲と映るでしょう。もっとも野党の自民党が、民主党支持率を越えたと言っても、民主党の自滅分で頭一つ越えただけですから、「政界再編」へのきな臭さは、ずるずる残るでしょう。一言で言えば、日本政治全体の劣化・液状化です。そんな1年を振り返って、首相が「これまでは仮免許だった」と脳天気に語り、それを面白おかしく報道するマスコミの末期症状。せめて、そんな総理に権力を委ねた監視者としての怒りと、「無免許・酒気帯び運転」ではなかったかと省察する、ジャーナリスト魂がほしいものです。繰り返します。「国民生活が第一」の初心に戻り、内政・外交の基本を再構築することこそ、いま民主党に求められていることです。

 いつのまにやら師走で、今年最後の更新。3月に学部学生講義と大学運営から「解放」された時には、本「ネチズンカレッジ」のバージョンアップや、気ままな国内旅行、文学書再読など夢をふくらませていたのですが、実際には、夏の調査旅行以外は、客員講義や執筆・編集の雑事に追われ、不完全燃焼の「第3の人生」9か月でした。それでも日本経済評論社から、「政治を問い直す」シリーズ2部作、加藤哲郎、小野一、田中ひかる、堀江孝司編著『国民国家の境界加藤哲郎・今井晋哉・神山伸弘編『差異のデモクラシー』に加え、何とか新著加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」を年内刊行に間に合わせることができ、社会評論社の故栗木安延教授追悼本、合澤清・加藤哲郎・日山紀彦編『危機の時代を観る』を加えれば、4冊を編著として世に出すことができました。年報 日本現代史』第15号「戦後米国の情報戦と60年安保ーーウィロビーから岸信介まで」現代史料出版)や「ゾルゲ事件の3つの物語ーー日本、米国、旧ソ連」(『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第26号)など論文も含めれば、まあ「現役」研究者とし通用する活動ができた、といえるでしょう。年末にはついに、政府の無策で翻弄され延期されていた、中国再訪もなんとか実現できそうです。年始に本サイトの衣替えができるかどうかが、思案のしどころ。いっとき考えた「ネチズンカレッジ」閉校や日本版「ウィキリーク」への変身はありませんから、まあ来年も、気長におつきあいいただくことをお願いして、皆様よいお年を!

  

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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