●2022.10.1● 9月27日の安倍晋三元首相の「国葬」は、案の定、醜いものでした。なにしろ国民の6割が反対しているもとで、多額の税金使っての強行です。招待者の4割は欠席で、故人を讃える岸田首相の美辞麗句は、空しく聞こえます。弔問外交とやらも、直前のイギリスの国葬と比べれば明らかにみすぼらしく、G7首脳不在で、今日の日本の国際社会における衰退を示すのみで、ほとんど成果がなかったようです。というよりも、モリカケサクラは国内問題で「外交の安倍」などといわれていましたが、実はその目玉だったロシアのプーチンとの関係は、北方領土問題で大幅な後退、米国との関係ではオバマ民主党よりもトランプ共和党で、宗教右翼をバックにした米国民主主義の破壊者とウマがあっただけでした。安倍晋三と最も親しかったプーチン、トランプの欠席は、「安倍外交」の無力を象徴しています。隠れた主題であった北朝鮮との関係では何の進展もなく、隣国韓国や大国化した中国との関係では、その旧守的歴史認識のゆえに、摩擦を深めるばかりでした。
● 故人が最後まで「誇り」としたらしい「アベノミクス」は、1ドル=145円の為替相場と物価高・生活苦の前で、無残な成績表を示しました。独立法人である日銀を政府の「子会社」化して貨幣・国債を刷り続け、一部大企業の内部留保は増えても新産業への投資は進まず、中小企業はコスト高・円安で苦しみ、何より労働者の実質賃金は上がらず、貧困層は増えるばかりでした。円安で国際統計上のGDPや賃金はさらに小さくなりますから、世界市場での存在感は、失われてゆきます。安倍晋三の長期政権とは、日本経済を世界の成長からおきざりにし、日中の交渉力を逆転させるものでした。「安倍晋三総理の時代」こそ、この国が、いまこそ葬るべき歴史です。もともと安倍派=清和会と対立する池田・大平派の流れを汲む宏池会の岸田文夫が、暗黒の安倍政治を引き継ぐと誓った「国葬」の姿こそ、統一教会や神道政治連盟、日本会議に侵食された右翼自由民主党の現在地です。内閣支持率は、3割を切る危険ラインです。岸田内閣は、はやくもレームダックです。
● レームダックは、内閣だけではないでしょう。この間次々と明るみに出たのは、安倍晋三暗殺の背景にあった統一教会・勝共連合と自由民主党の癒着、とりわけ安倍晋三と祖父・岸信介、父・安倍晋太郎の役割です。安倍派=清和会が、統一教会等宗教的右翼票を差配し、21世紀の自公政権のトップを決める中心にあったのです。行政権ばかりではありません。現衆院議長の細田博之は、第10代会長安倍晋三の前の、第9代清和政策研究会会長でした。彼が現在の立法府の長で、統一教会に極めて近い政治家でした。いま東京オリンピック汚職で事情聴取まで行っている森喜朗は、清和会の第4代・6代会長です。自民党内の派閥の流れでは、文教政策や家族政策、女性政策で保守的・復古的でイデオロギー色が強いグループが、21世紀の日本政治を牽引してきたのです。民主主義政治の閉塞です。
● 統一教会とは、開祖である文鮮明が1952年に経典「原理原本」の草稿を完成した、韓国生まれの宗派です。1954年5月、「世界基督教統一神霊協会」として創設されました。つまり、朝鮮戦争、東西冷戦の本格化、アメリカのマッカーシズムと同時でした。韓国では「反共法」下の朴正?と結びつき、日本では60年安保闘争を経験した岸信介、笹川良一、児玉誉士夫ら右翼勢力が中心になって、1968年に「国際勝共連合」が作られ、アメリカにも進出しました。その 特異な教義から、日本の教会・信者は、韓国の本部への献金組織・集金マシーンになりました。霊感商法や集団結婚式で悪名を馳せ、カルト教団として幾度も問題になりましたが、1990年代にオウム真理教がクローズアップされるなかで、次第にマスメディアからはフェイド・アウトしてきました。それが、2022年7月参院選挙中の統一教会信者家族の二世による安倍晋三への個人テロで、政局を揺るがす大問題になりました。「国葬」から統一教会問題へ、「安倍晋三の時代」の負債を背負っての岸田政治の混迷は、まだまだ続きます。
● ウクライナの東部・南部4州が、プーチンのロシアに編入されたというニュースです。民主主義のかけらもない、銃剣で強制された「住民投票」を口実にした、戦時火事場泥棒、帝国主義侵略です。本当はこの問題を深めたいのですが、現在の私の健康状態では、ロシア関係の資料のある書庫を使えず、本格的検討はできません。第二次手術を9月に終えて、ようやくシャワーから湯船での入浴が許されましたが、書斎と書庫を使えない階段昇降禁止・重い荷物禁止は10月末まで続きます。週2回、国分寺市から理学療養士の方が来てくれて、本格的リハビリが始まりました。といっても、ベッド上と室内だけです。10月に、みすず書房からA・フェシュン編『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』という画期的な資料集が刊行されて、私たちが昨年から準備し、『毎日新聞』学芸欄のインタビューで予告してきた「尾崎=ゾルゲ研究会」の活動が、本格的に始まります。11月7日(月)午後には、これまで未公開だったゾルゲのモスクワ宛て電文等200点以上の内容を踏まえて、編者のフェシュンさんと訳者の名越健郎さんの対談を目玉に、尾崎=ゾルゲ研究会が、正式に発足します。東京・霞ヶ関の愛知大学霞ヶ関オフィスで開催する予定で、私はそれに出席できるように、体力回復とリハビリに努めます。
● 獣医学の小河孝教授とのコラボで進めてきた共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)の刊行だけは、何とか仕上げました。『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年収監されていた唯一の日本人でした。片山千代のウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。本サイトの更新も、まだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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