―それにしてもトランプ大統領とは
まずは一言お詫びを。ほかでもない、去る14日の本ブログに、私は「グリーンランドやパナマ運河は目くらましーーじつはトランプ・習には密約が?!」と題する一篇を掲載した。
その筋書きは、トランプ新大統領の就任を控えて米中対立がどう展開するかに注目が集まっているが、実際はトランプ・習近平間ではすでに妥協が成立しているのではないか、というもので、妥協の内容は、「習近平側が中国から米への輸出品に米側が高率の関税をかけるのに目をつぶるのと引き換えに、トランプは台湾海峡には出兵しないことを約束したのではないか」と書いた。
その根拠としては,トランプはやれグリーンランドを買う、とか、やれパナマ運河を返せ、とか、現実離れした「政策」を言い散らしているが、どうもその態度が真面目でないこと。大統領就任にあたって、米中関係から目を逸らさせようとしているのではないか、その反面、誰もが注目している台湾海峡については双方の政権幹部がことさらに口をつぐんでいるように見えること。また国策を反映する中国の『人民日報』などが、台湾問題などなきがごとくに中米友好を謳う記事を掲載していること、などを挙げた。
結果としては、この推測は大外れであった。大統領就任式の前後を通じて、台湾海峡が話題になることは皆無であった(すくなくとも表面的には。筆者としては、不明を恥じるほかはない。読者に時間を浪費させたことをお詫びする。
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お詫びはさておき、大統領就任式前後のトランプの言動を見ての感想を一言。
前回の在任時もそうであったのであろうが、今回の就任式を見て、アメリカ人は大変な人を大統領にしてしまったのではないか、先のことを考えるのが空恐ろしいという気分にとらわれた。
というのは、就任演説は30分ほどの長さであったそうだが、報道された「全文」を読むと、冒頭から半分近くまで、全体の4割ほどは自分が大統領選挙で勝利したことの意義を声高に述べ立てる。それもこんな調子である。
「米国は主権を取り戻し、治安を回復する。正義の秤はバランスを取り戻す。邪悪かつ暴力的な司法省と政府が不公平な『武器』として使われるのは終わりにする」
「我々が集う今日、米政府は信頼の危機に直面している。長年の間、過激で腐敗した支配階級が米国民から力と富を搾取し、社会の支柱は壊れたまま、荒れ果てたままとなってきた」
「我々は今、国内の簡単な危機すら管理できない政府を抱え、同時に海外で続く多数の潰滅的な出来事に巻き込まれている。法を順守する素晴らしい米国民を守らず、世界中から米国に不法入国した危険な犯罪者たちに聖域と保護を与えた。その多くは刑務所や精神科病院から来た」
「最近では、ロサンゼルスで数週間前からの火災が悲劇的に続いており、何の保護もない。火災は家や地域を襲い、米国で最も裕福で力のある人々の一部にさえも影響を与えている。その中には今ここに座っている人もいる。彼らはもう家がない。それは興味深いことだ。私たちはこういうことを許してはいけない。何もできないでいるが、それは変わる」
「私の直近の大統領選は、ひどい裏切りとこれまでのこうした多くの裏切りの全てを完全に覆し、国民に信仰や富、民主主義、そして自由を取り戻すための権限を私に与えるものだった。この瞬間から米国の衰退は終わる。・・・」(以上は「日本経済新聞」から引用
これまでの民主党政権を激しく批判、といより罵詈讒謗を浴びせている。目の前にバイデン前大統領をはじめ、共和党を含めて存命の歴代大統領が列席しているのに、である。
そしてまた式場の埋めた聴衆たちはトランプが前政権を罵倒するたびに爆発的な拍手と歓声を送り、さながらまだ選挙が続いているような雰囲気であった。それにしても、自分の就任のお祝いに参列してくれた人の前であろうと、お構いなしに言いたい放題という稀有な人格の持ち主がこれからあの大国をどう運営してゆくのかと考えると恐ろしい。
政策面ではすでに明らかなように、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱(前回の在任時にも離脱、バイデン時代に復帰し、今回、二度目の離脱、世界保健機関(WHOからも離脱(こちらは拠出金が高すぎる、が理由といった唯我独尊から、不法移民を防ぐために南部国境へ軍隊の派遣、等々・・・考えることを拒否して、やりたい放題といった印象である。
大統領制に長い歴史を持つ米国民がこの異色の大統領を頂いて、これから4年、どういう政治世界を見せてくれるか、目を離さずにいよう。(2025・01・22)
初出:「リベラル21」2025.01.24より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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