「過ちては改むるに憚ること勿れ」、現発ゼロへの持続的国民運動を!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
タグ: ,

かと 2013.11.15 久しぶりで「脱原発」「原発ゼロ」が、新聞の1面トップをかざりました。小泉純一郎元首相の、日本記者クラブでの講演・会見です。ドイツの廃炉とフィンランドのオンカロを現地で見て核廃棄物処理の不可能を痛感したうえの決断で、私が注目したのは、「人間は、意見が変わることがある」と、かつての原発推進から現在の脱原発への心境変化を率直に認めていること、もう一つ、原発ゼロは「首相が決断すればできる」という安倍首相への提言と世論への依拠。「過ちては改むるに憚ること勿れ」を地でいく元首相の脱原発行脚は、即原発ゼロ、再生エネルギーへの転換まで踏み込んでいますから、ホンモノでしょう。メディアの反応も、各社のスタンスがよく現れています。細川護煕元首相とも会談して、国民運動をよびかけている点でも、反原発・脱原発の運動には大きな援軍でしょう。

かと もっとも「過ちては改むるに憚ること勿れ」は、過去の政治責任を免責したり、曖昧にするものではありません。福島原発事故時の最高責任者菅直人元首相も脱原発に取り組み、 沖縄県民の期待を裏切った鳩山由紀夫元首相は再び「東アジア共同体」づくりに励んでいますが、それが説得力・影響力を持つかどうかは、反省の深度と具体的行動で測られます。世論調査でも7割以上が脱原発で、6割が小泉即原発ゼロ提言を支持していますから、ノーベル賞受賞者を加えて、元首相たち連名の脱原発声明を出せるようなら、国策変更に大きな力になりうるでしょう。もっとも現在の最高権力者安倍首相は、自分の支持率も同じくらい高いと開き直り、何よりも当面の特定秘密保護法案日本版NSCの方を優先し、自由な原発討論そのものの封じ込めを狙っています。この間の福島原発汚染水処理対策、原子炉建屋地下汚染水の漏出4号炉燃料棒搬出、原子力規制委員会の柏崎原発審査開始などの動きをみると、小泉元首相がいうほど自民党内に脱原発が広がっているとは考えにくく、原子力ムラが再生し、再稼働への手はずが着々と打たれているように見えます。一過性ではない、持続的な脱原発の運動と世論形成が必要です。

かと そんな世論づくりに少しでも加わろうと、11月6日夕、川崎市中原市民館「平和・人権学習 なかはら平和セミナー 3.11から考えよう日本の戦後史 ~平和と人権の視点から~」のオープニングで「戦後日本の『核』の平和利用」を講演してきました。事前登録40人の熱心な市民の参加する学習会で、質疑応答を含め、充実したものでした。そこで私は、小泉元首相の強調する核廃棄物問題、「トイレなきマンション」ばかりでなく、あと二つの理由で、原理的に「原子力の平和利用」は不可能ではないか、と問題提起しました。一つは、ウラン採掘から原爆製造、原発稼働・廃炉にいたる、原子力を扱う労働の基本的性格で、放射性物質を人為的に扱うことにつきまとう被曝労働の問題です。実際キュリー夫人、コンゴのウラン採掘から、今日のチェルノブイリ廃炉、フクシマの事故処理労働にいたるまで、人体に有害な被曝を避けることのできない労働が、20世紀に世界中で広がったことになります。第二に、原爆であれ原発であれ、「絶対安全」はありえないことです。原爆・原発は、莫大な費用と人員を必要とする巨大コングロマリット・システム装置で、天災・テロばかりでなく、ちょっとした設計・操作ミス、部品の破損・摩耗・不具合による事故によっても、取り返しのつかない放射能汚染、人的・物的被害、時には故郷喪失を含む巨大被害につながることです。これに使用済み燃料・核最終廃棄物の「未来世代への暴力」を加えれば、核は「文明の凶器」で、「生産力」ならぬ「破壊力」ではないか、と述べたのですが、参加者の感想文を送っていただいて読むと、なんとか伝わったようです。

かと 今月はこのほか、本11月15日(金)午後6時半から明治学院大学白金キャンパス・チャペルで、日本ペンクラブ・明治学院大学共催「島崎藤村と日本ペンクラブの昨日・今日・未来」での、『島崎蓊助自伝──父・藤村への 抵抗と回帰』(平凡社、2002年)をめぐる、藤村孫島崎爽助さんと対談(司会は最新作『水色の娼婦』で私の研究『ワイマール期ベルリンの日本人』の一部を使っていただいた作家西木正明さん)、11月23日(土)は、午後2時から東京ロシア語学院(日ソ会館)で、日本ユーラシア協会現代史研究会「シベリア抑留帰還者をめぐる米ソ情報戦 」 を話します。本HPで今春情報提供をよびかけてきた、「旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係」についての中間報告で、今夏アメリカでの予備調査結果を含める予定です。ご関心のある方は、どうぞ。図書館学術論文データベ ースに、6月に「「憲法9条から見た原発問題」をご寄稿いただいた、神戸の弁護士深草徹さんの最新評論2篇、深草徹「特定秘密保護法案管見 」(2013.11) 、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11) をアップしました。アクチャルな問題ですが、こちらもぜひ。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2449:131116〕