「15年安保」の暑い夏、平和と民主主義を守れ!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと2015.8.1  前回更新では、北陸金沢から「2015年安保闘争が始まる、民主主義を守れ!」と訴え、いくつかのサイトで転載されました。「15年安保」の暑い夏は、全国で始まったようです。昨晩の7.31「安全保障関連法案に反対する学生と学者による共同行動」は、「学者の会」と SEALDsのコラボで、会場に入りきれない熱気、夜の国会前を含めれば、数万人でしょうか。関西や仙台からの学生たちの報告に、励まされました。全国の各大学で、教職員に学生・院生・卒業生もくわわった安保法制反対の運動が起きています。憲法学者ばかりでなく、映画人も、新劇人も、「憲法違反の安保法制廃案、立憲主義をまもれ」の声を発しています。SEALDsの学生たちに刺激されて、ママの会が立ち上がり、札幌から高校生のデモが始まりました。北から南まで、全国で集会やデモが開かれています。「レイバー・ネット」の「イベント・カレンダー」を見れば、8月の予定も目白押しです。地方議会でも次々と意思表示がされています。元自衛隊員も声を発しています。鹿児島では川内原発再稼働反対に結びつき、沖縄では翁長知事が先頭に立って、普天間基地の辺野古移転反対の声が「戦争法案反対」と合流しています。3.11東北大震災・福島原発事故後の脱原発運動の高揚ーーそれはまだ首相官邸前経産省前テントひろば全国の原発再稼働反対運動で持続していますーー、9・11以後のイラク戦争反対の世界的な反戦平和運動、さらに遡れば1960年安保闘争、とりわけ衆院強行採決後の、丸山真男や鶴見俊輔が先頭に立った「議会制民主主義を守れ」の運動が、よみがえったかのようです。

 

かと その分かりやすい指標が、各種世論調査の結果で、安倍首相の一番気にする読売日経を含む各社の内閣支持率が軒並み大きく下がり、不支持率より低くなりました。女性の意識変化が特徴的です。安保法案強行採決・今国会成立への反対は更に高く、与党支持者でさえ反対の声が強まっています。連立与党公明党の支持基盤である創価学会の会員が、公然と戦争反対の声を挙げ、国会前のデモにも加わりました。国会では、参議院での審議が始まりました。与党の議員の一部が世論に近づき「造反」すると、参議院での可決成立はもちろんのこと、いわゆる「60日ルール」での衆院再可決も、おぼつかなくなります。安倍首相は、安保法案の「国民の理解が進んでいない」と認め、論理の破綻したホルムズ海峡の機雷掃海から、もともと「日米防衛協力ガイドライン」の本筋である中国・北朝鮮との戦争へと、「集団的自衛権」「武力行使」の主舞台を移してきました。実際は、国民の「理解」がだんだん進み、認識が深まることによって、反対運動が広がっています。オトモダチのアソウ君の救援や、お隣さんの離れの火事のたとえも、ますます「集団的自衛権」の意味を混乱させ、「専守防衛」の再定義を混迷に導きます。いちばんわかりやすい、you tube の「教えてヒゲの隊長」自民党版は、肝心の「あかりちゃん」が「ヒゲの隊長」を見事に論破したパロディ版の方が圧倒的に面白くて出回り、澤地久枝さん発案の「アベ政治を許さない」ポスターと合体して、反対運動の炎に油を注ぐことになりました。首相側近からは、先の「沖縄の新聞をつぶせ」に続いて「法的安定性なんて関係ない」の暴言、いや安倍首相を代弁したホンネの失言。8月の原発再稼働、TPP交渉、沖縄米軍基地、それに首相の戦後70年談話をめぐって、大きな情報戦が、いくつも展開されます。新国立競技場、オリンピック・エンブレムにもクレームで、オリンピック招致や渡米時の「アベ語」の化けの皮も、国内でも国際的にも、はがれてきました。アベノミクスの一環であった労働基準法改正案=残業代ゼロ法案、労働者派遣法改正案の行方にも、暗雲です。内閣支持率30%まで、あと一歩です。文字通りの「暑い、熱い夏」になりそうです。

 

かと 本HPトップは、2001年9/11以来、戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこ そ、平和の道徳的優越性がある」という丸山眞男の言葉を掲げてきました。安倍首相はまだ、違憲の戦争法案を見限ってはおらず、むしろ強権政治に訴える可能性もあります。60年安保で自衛隊の治安出動を要請した、祖父岸首相のように。私たちはいま「無数の人間の辛抱強い努力」で、辛うじて「平和」を維持している段階にあります。厚木基地騒音訴訟での自衛隊機飛行差し止め2審判決、東電元会長らの検察審査会議決による強制起訴を見ると、日本の司法には、まだ憲法の力が効いているようです。安倍首相が蜜月を演出する日米同盟も、ウィキリークスで明るみに出た盗聴対象が官房長官から日銀に及び、日本側の米国への片想いであることがまたしても発覚。果たして安倍首相はドイツ首相のように抗議できるか、野党はきちんと追及できるか?ーー今年も私は、もうすぐ恒例の海外調査で、日本の外から「暑い夏」を眺めることになります。戦後70年ものの原稿が本になり、岩波書店の『歴史問題ハンドブック』寄稿「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」に続いて、これを前提にした、明石書店の木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像ーー原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』に寄稿した「占領期における原爆・原子力言説と検閲」が刊行されました。いつかご一緒したいと思っていた小出裕章さんや吉岡斉さんと並んだ、脱原発本です。「2015年の尋ね人」=「占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊二木秀雄」は、6月東北・7月石川調査を元に、更新されています。3月末早稲田大学講演でのパワポ原稿「731部隊二木秀雄の免責と復権」もこれにもとづいて、「2015夏版」に増補改訂されています。二木秀雄の「年譜」を入れたほか、ゾルゲ事件との直接的つながり、1953年4月衆参ダブル選挙時の米軍内灘射撃場誘致をめぐる参院石川地方区への二木秀雄の立候補落選、衆院石川一区で当選した辻政信との関係を加えてあります。この面の「国際歴史探偵」が、8月海外調査でどの程度進むかは未知数です。しかし、日本人の歴史認識が問われる8月、私もシベリア抑留研究・731舞台研究で、ささやかでも東アジア歴史像の構築に、力を注ぎたいと思います。次回更新のIT環境は不確かなので、一応帰国後の8月20日としておきます。皆様、いろいろな意味で、良い夏を!

 

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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