【俳文】札幌便り(12)

著者: 木村洋平 きむらようへい : 翻訳家、作家、アイデア・ライター
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 本の執筆が佳境を迎えて。

書き上げても書き上げても青蜜柑

 「分け入っても分け入っても青い山」(種田山頭火)の真似をしてみるが、これはきちんと熟さないと困る。

旅に出でなんとす紅葉かつ散れば
丸いのもハートの型も紅葉かな
秋深しこの靴ももう二年経つ

 円山公園は十月の半ば頃から黄葉がちらほらと散り、十月の末には紅葉も真っ盛りとなった。

行く秋や同じ木を見る何度でも

 体調を崩すこともあった。身体を温めるはと麦茶は、あれこれ試してみたけれど風味がずいぶんちがう。

オレンジのクッキー甘く秋深し
ゆっくりとひと粒ずつの葡萄かな
仲秋やあたりはずれのはと麦茶

 十月の半ばに帯広や富良野など、各地で初雪を観測した。着々と冬は来る。札幌の家の周りでは降らなかったが、銀色の(白く光る)「雪虫」が飛び始めた。これは小さな羽虫で、銀色の羽を二枚持っており、群れをなして飛ぶ。雪が降る少し前になると、わあっと飛び始めるので、初雪を告げるとも言われる。

ひととせをふたとせにせよ今日の雪
雪虫や雪の降るのを告げるらむ

 暦の上で立冬を迎える前に雪の句となってしまった。そういえば、中秋の名月に次いで美しいと言われる後の月。旧暦九月の十三日の札幌は晴れた。

足取りも軽く運べる十三夜

 近頃、『蕉門名家句選』(岩波文庫、上下巻)を読んでいる。冬の句が目につくので紹介したい。

あたらしき茶袋ひとつ冬篭 荷兮(かけい)

簡素な冬篭りを詠んだ句。

あたらしき珈琲淹れて冬篭り

と、こちらも詠んでみたくなる。ほかには、

はつ雪を見てから顔を洗けり 越人(えつじん)

 初雪が降っていたら、まずは床を起きて外を見る。その気持ちは風雅のものか、童心のものか、ないまぜになった人の情かもしれない。さて、初雪の待ち遠しい我が家では、まだ風呂を焚かず、シャワーだけで頑張っている。

霜降もシャワーで済ます蝦夷の家

 動物界は、もう冬の準備に忙しい。人間で言えば師走のようなものだろうか。

エゾリスははや霜月もせわしなく
十月の薄き光の小山かな

 ところで、「引鴨」「帰る鴨」は本州では春の季題だが、北海道では逆になる。鴨たちは北海道で夏を過ごし、池が凍る前の秋には本州へ帰ってゆくのだから。

帰るまで水遊びせよ池の鴨

 そこで、秋の季題とした。無邪気そうな鴨の群れ。

遠鴉のみ色ありや冬の空

 「とおがらす」は造語。真っ白というべきか灰一色と言うべきか、札幌の冬空がやってきたと思う。

小夜時雨足はおのずと珈琲屋

冬支度をじっくりと進めよう。

初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2013/09/blog-post_27.html より許可を得て転載。

記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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