【俳文】札幌便り(4)

著者: 木村洋平 きむらようへい : 翻訳家、作家、アイデア・ライター
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年始のご挨拶を申し上げます。北海道から、今年初めてのお便りをお届けしたいと存じます。

のびのびと仕事始めや晩の月

さしたる趣もないようで、感慨あり。僕の思いなしだろうか。

ななかまど子供の夢をこぼれさす

街路を歩いて、北海道の木、ななかまどを見つける。三浦綾子さんは、旭川を「ななかまどの街」と呼んだっけ。驚いたことに、ななかまどは実が赤いだけでなく、葉っぱまで真っ赤に染まる。ただの紅葉と言えばそうだが……「枝の芯までくれなゐのななかまど」(大坪景章)。実景をよくよく知った人の句作だと思う。

執筆にかじかむ指も冬立てり

指を立てたら霜が降りそうな、札幌で初めての冬を迎える。山の錦も足早に、いまは白い霧に濁る。

冬の霧まろやかなりしカプチーノ

エスプレッソに注いでみたい。

寒空や哲学書にも黒い文字

墨を流したような夕べには、文庫の文字もひときわ白地に黒、と意識する。

小春日や珈琲あれば時計なし

たまの晴れた日に公園へ出ると、落ち葉が搔かれて、茶色い蕊のようなものがいっぱいに敷き詰められていた。

白樺もつるぎになって冬の朝
長靴で落ち葉の湖(うみ)を渡りけり
木枯らしや篠懸の葉の大移動

篠懸(すずかけ)の木は、プラタナス。てのひらより大きな楓に似る葉、と言えばイメージが湧くだろうか。遅く落葉する。

小雪のシロフォン鳴らす林かな

小雪(しょうせつ)は、二十四節気の一。水気を含み、じめっとした雪が降り始める頃。ちょうど、朝の光にとけて、雑木林の常緑樹から、ぽたりぽたりと落ち来る音は木琴のよう。

独り居を十一月の蕎麦湯かな

蕎麦は季節を問わないが、「十一月」に響き合う心地がする。こちらはすでに初雪も近い。

初冬やいろはを踏める石の上
冬の蛾や地に羽ばたいて力尽く

円山を登った時の句。十二月に向けて、大通公園はイルミネーションに彩られる。

Decemberや恋人連れる大通
短日やむらさき色のほの明かり

英語部、「ディセンバ」と発音されたし。札幌の風情。夕暮れも美しい。以下、旭川へ旅をしたときの句。

ストーブのひっそりと煮る小豆かな
夜咄やサルミアッキの妙な味

サルミアッキは、フィンランド人が宿へ持ってきた北欧の飴。世界一まずい飴と言われる。

今回は、新年への投稿ということだから、少し早いが年の瀬の句と、新年の句を。

門もなき我が住まいとて年木樵
かまくらに硯持たせん初句会

かまくらは、もちろん「鎌倉」ではなくて、雪のかまくら。句友を思うことしきり。今年もよろしくお願い申し上げます。

※ 今回の投稿は、俳句結社誌「ゆく春」の一月号に掲載されたものです。許可を得て転載しました。

初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2012/11/blog-post_23.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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